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第58話 進化

 街やゾンビを全て飲み込んだ怪物は大きな角を一対生やし、闘牛のような筋肉質な体躯、というよりも闘牛そのものだった。


「おいおい……!オジサンの知らないうちにゾンビは合体するようになったのか……?」


「いや、怪物が他の怪物を飲み込むなんて知らない……!あれは一体……」


「それより……あの見た目、牛……だよね?それも闘牛……」


 ゾンビの時とは違い、全てを飲み込んだ怪物は形が安定しているのかドロドロになっておらず、正確な姿が捉えられる。


「まるで魔獣ベヒーモスのようだ……!」


 トーマはゲームの知識を活かして導き出した答えがそれだった。


「トーマくん、もしベヒーモスだとしたら何をして来るの?」


「……きっと雷や隕石を降らせて来るハズ。存在だけで災害認定される位強い魔獣だよ」


「おいおい、そんなのわし達で倒せるんか!?」


 トーマは思考を巡らせるが、先程の戦闘で『火』と『土』のメモリーがチャージ中で使用不可。

 他の作戦を考えるが、どれが有効打になるか不明だった。

 トーマは『水』のメモリーを右手に装着し、飛び出す。

 微動だにしないベヒーモスに対し、目眩しの放水を浴びせ、精一杯の力を込めた蹴りを顎にお見舞いする。

 しかし、体格差が先程の怪物とは比べ物にならず、仰け反らすこともできなかった。

 トーマの危機感知が最大級の反応を示し、その場から離脱しようとした瞬間、牛マズルで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 その威力はトーマの装甲を全て破壊し、スーツとガントレットとマスクのみ残る。

 全身を打ち付けられたことにより、痺れて動けないトーマに対し、ベヒーモスがトドメを刺しにノソノソと動き始める。

 遠距離からモエが風の刃で切り付けるが、強靭な皮膚に全く歯が立たず、足止めにもならなかった。

 マサルはトーマを救出するために走るが、運悪くベヒーモスの尻尾によって吹き飛ばされてしまう。


「いや……!トーマくんっ!止まってぇっ!」


 何度も切り付けるがやはり止まらない。

 そして遂にトーマの真上まで到着したベヒーモスは右前脚をトーマに向かって降ろす。


「トーマぁぁぁっ!」


 モエが叫んだ瞬間、蹴り上げても微動だにしなかった巨体は白い光と衝撃波によって弾かれ、そのまま転倒させる。

 白い光の中から神々しさを感じるウサギの獣人が立っていた。

 銀色の髪、頬に謎の赤い紋様、頭部の動きに合わせて尾を引く紅い眼。

 虚な目をしつつも、ベヒーモスの姿を確りと捉えており、冷酷とも言える表情をしていた。


「トーマ……くん……?」


 モエがそう呟いた瞬間、一瞬で姿を消し、紅い眼の残光が伸びる。

 それを追いかけると、ベヒーモスの角は一対切り落とされていた。

 刃状の物を持っていないそれは、光の速度と言える程の蹴りで切り落としていたのである。

 ベヒーモスはそれの動きについて行くことができず、首を蹴り落とされ、緑色の体液を噴き出しながら溶けて消えた。

 圧倒的とも言えるその力を見て、モエは走って側に立つとトーマであることがわかる。

 完全に壊れてなくなっていた装甲は全て白金の装甲が装着され、黒髪だったはずの髪の毛が銀髪となっており、その姿に見惚れる。

 次第に白い輝きが収まっていくと、トーマのアバターが解除され、その場に倒れ込む。

 もちろんモエが転倒しないように抱きしめる。

 トーマの右手には碧いメモリーが挿入されており、その力である事がわかる。


「しっかし……トーマ君はどれだけ隠し球持ってるんだ?こんな強い力を持っているなんてな」


「マサルさん!大丈夫だったんですか!?……前回、作った所までは知っていたんですが、こんなに力を持った物だとは思いもしませんでした」


「やあやあ!お疲れ様!トーマくんは……寝ているね。いやあ、ここまでやると、万全の状態の彼を見てみたいものだ!」


 拍手をしながらやってきた新人類の男はトーマを称賛する。

 マサルは男とトーマの間に割って入り、ムスッとした顔で指摘する。

 

「おい、トーマを休ませてやれよ」


「もちろんそのつもりだよ。あのクラスの怪物はゼロも簡単に生み出せないだろうから、キミたちも今は休んでおくと良いよ」


「やっぱり、ゼロが仕組んだ怪物なの?」


「そうだよ。もちろん怪物について詳しい新人類の指導のもと、作っていると聴いているよ」


 ゼロが関わっていることを聴き、モエはトーマの身体をギュッと抱きしめる。

 そして、男に再び視線を戻し、口を開く。


「デバイスを作ったのは貴方ですか?」


「うん。何かあった?」


「……あたしのデバイスの出力とか上げられないですか?トーマくんと……並んで戦いたいんです。もう、足手纏いになりたくないんです!」


「お、それならわしのデバイスも出力を上げてくれよ。若い子ばかりに先頭を押し付けるのは流石に気が引ける」


「イイけど、身体にかかる負担も凄いよ?それに……まあ、いっか。キミたちのデータはもう取れてるし」


 男が指をパチンと鳴らすが何も起きない。

 モエとマサルは目を合わせて首を傾げると男はその場から離れるように歩いていく。


「ちょ……ちょっと!」


「もう終わっているよ。出力上げたから強くはなるけど、その分身体には気をつけなよ」


 そういうと何もないところに吸い込まれるように姿を消したのであった。

 本当に出力が上昇したのか疑心暗鬼にもなりながら、自身の腕の中で眠るトーマの髪を撫で、愛おしそうに見つめるのである。

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