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第43話 チラリと見えるもの

 アドラとノナは研究所の内部を探索する。

 内部には生き物の気配やニオイ、音は聞こえず、不在のようだった。

 施設の警備システムは作動していなかったが、それでも念には念をと壊して歩く。

 そして、最奥というべきか、重たそうな鉄扉が目の前に現れる。

 アドラは全身の力を込めて引っ張ったり、押したりとあらゆる方法を試すも、扉はびくともしなかった。


「参ったね。かなり頑丈だよ、これ」


「変身解きます」


 ノナはウサギの姿に戻り、足に力を込めていく。

 普段の二倍ほどの膨らんだ太ももから相当力を込めているのがわかる。


「とぉりゃあぁぁ!!」


 盛大な気合とともに、研究所から轟音と衝撃が走る。

 金属の鈍い音を響かせる扉は、変形もしなかった。


「ふむ、今日は水玉か」


「そ、そんな……。私の蹴りが効かないなんて……!?」


「そんなことはないな」


 扉を破壊できずに落ち込むノナに対し、アドラがそう言うと、扉がゆっくりと手前に倒れる。

 その重量はかなりのものだったらしく、倒れた衝撃で研究所が揺れる。


「さすがだノナ君。君を連れてきてよかったよ」


「えへへ……。じゃなくて、早く奥に行きましょ?今ので何か来るかも!」


「そうだね」


 二人は扉の奥へ進むと、そこにあったのは実験をする部屋のようだった。

 中央の台は被験者を手術するもの。

 周りにはお世辞にも綺麗とは言えない道具が転がっていた。

 そして、台にはまだ新しい血痕が残っていた。

 アドラは仮面の上からスンッとニオイを嗅ぎ、奥歯を噛み締める。


「間に合わなかった……」


「そんな……。でも、遺体は……?」


 ノナの一言でアドラはハッと我に返り、辺りを見渡す。

 実験に失敗したなら遺体があるはずで、どこにも見当たらない。

 生きていたとしても外からしか開けることができない鉄扉。

 到底ノナのような開け方をすることができるとも思わず、アドラは実験室を見渡す。

 しかし、どこにも逃げられるような穴は開いておらず、台の下を覗く。

 そこには直径三センチほどの排水溝があり、考える。

 

「ネズミにでもなったんですかね?」


「いや、排水溝にはネズミ返しという上下に湾曲した部材があるんだ。そこには常に水が溜まっているから通りにくくなっているんだよ」


「その言い方だと通るネズミもいるってことですよね?」


「そうだね。できる子はいる。しかし、不適合者であるならおかしいと思わないかい?」


 ネズミではないことを否定され、頭を悩ませるノナ。

 そんなノナを見て、仮面の下で笑う。


「笑いましたねーっ!じゃあアドラさんはわかったんですかっ?」


 笑われたことに怒っていると、アドラは左手の人差し指をたてて「ちっちっち」と言う。


「まずは不適合者のことを話そう。不適合者は私たちを含めた【新人類に成れなかった者】だ。ということは失敗しても人間の大きさは担保される。だから排水溝には入ることは物理的に不可能だ。では、ここから抜け出すにはこの穴しかないのだが、どうやって通る?」


「うむむ~……。【小さくなる】呪文使う?」


「それもありかもしれないけど……排水管にゴ〇ブリや本当にネズミがいたら、死んでしまうだろうね。正解は、体の構成が水になったということ」


「精霊ですか?地底世界の人の使う【召喚】みたいな?」


 ノナの疑問に対し首を横に振る。


「本当の水ニンゲンってコト。でもここまで構成が変わると、ある意味成功者なのかもしれないね」


「それはなぜですか?」


「新人類は神とするなら、水ニンゲンはある意味精霊だ。新人類からすると嬉しい出来事じゃないか?」


「腹立ちますね……。ミヤコさんまでこんな事をするなんて……。親族はいるの?」


 アドラはハッとして右腕のデバイスから実況中継をホログラムで映し出し、観る。


「あ、ウサギの子がいる!珍しい!えぇ、この狼はやな感じ。あれ……?これって……」


「不味いな……親子を闘わせるなんて……。ミヤコさんはもう、自分の意識は無いんだろう。あれだけの攻撃だ。魔力暴走していてもおかしく無い。酷だが、トーマには生きてもらわなければ……」


 アドラは端末を操作し、タイミングを測って送信した。


「ノナ君。アバターに換装して付いてくるんだ」


「あ、はい!トランス・オン!」

 

 二人は研究所を後にしたのである。


 §


 トーマは剣を何度も破壊されてながらも、タイムリミットまで後三分まで粘っていた。

 それは並大抵のことではなく、ウサギの危機感知あり気の作戦だった。

 細かい傷は受けても、痛みに堪えて大きな傷を貰わないように立ち回る。


「くそっ……!タイムリミットはまだっ!?」


『後三分だよ!』


 モエからそう告げられ、唾を飲み込む。

 ゾーン状態に近いのか時間が引き延ばされているように感じ、三分というのはかなり絶望的であった。


「大技!?」


 トーマの危機感知が最大の危険を知らせる。

 逃げ道が見当たらず、右往左往する。

 既に攻撃がトーマの反応速度では避けられない位置まで到達しており、受け止めようと両手を差し出す。

 渾身の力を込めて耐えようとした瞬間、デバイスから音声が流れる。


『ダブルエレメンタル……アップデート:ブリザード』


「……!?ええいっ!『全てよ凍れっ!!』」


 トーマの両手から冷気が迸り、ダムの貯水湖諸共凍りつかせたのであった。

 

 

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