第19話 ゾンビパニック
トーマはほかのプレイヤーが走っていく中、歩きながら右手にメモリーをセットする。
『セット、クロウ』
メモリーを挿入した右手のデバイスが変形し、三本の爪が並んだ手甲となる。
「うわ、こんなのゲームでしか見たことないや。……死ぬ可能性があるだけで、これはゲームなんだろうけどさ」
「トーマくーん!」
「おーい!」
振り向くとモエとマサルが追い付いてくる。
それぞれ武具を持っており、モエはファンタジーでよく見るような神官が持っていそうなこん棒【メイス】であり、マサルは大柄な体型に見合わないほど小さなナイフだった。
三人は目を合わせて頷く。
「「「やっぱ、はずれだよね」」」
意見の一致した三人は手始めに公園のほうへと向かうことにした。
トーマが足音を聞く限り、ほとんどのプレイヤーは市街地へと向かっていた。
そして、前回のミッションの時よりも気味の悪さが市街地から伝わり、本能的に避けていた。
マサルが先頭を歩き、最後尾はトーマが務めた。
「「「ア……アァァァ……!?!?」」」
「っ!?みんな!ゾンビが来た!」
トーマはすぐ近くからのうめき声を察知し、戦闘態勢に入る。
マサルとモエも身構えると、肌が腐りズルズルになっており、緑色の血液を滴らせながら三人にゆっくりと迫ってくる。
視力が悪いのか二〇メートルに迫ると視認でき、突然走り出してきた。
あまりの速さでトーマは後ろへ退き、マサルは足を引っかけて転ばせた。
トーマの爪がゾンビの胴体を引き裂き、地面へと倒れる。
マサルは足を引っかけて転ばせたゾンビの背中からナイフで心臓を一突きする。
「グウアアアァァァ……」
ナイフを引き抜くと、うめき声をあげた後、動かなくなった。
マサルは一息つくとガッツポーズをトーマへ送り、モエのほうへ向くのであった。
§
「ははははっ!みんな戸惑っているね!ゾンビは倒しても生き返るからゾンビなんだよ。きちんと殺すならしっかりと脳幹にあるコアを砕かないとね」
「ほんとうに毎回この気色の悪いミッションをいれるんだな」
「気色悪いって何さ!このシャドロンを楽しみにしている人はこれが見たくて来ているんだから!唯一視聴率が落ちないコンテンツだよ?」
ゲームマスターは男に向かって憤慨していると、両手を挙げて理解できないといった素振りを見せる。
むくれているゲームマスターを放っておいてモニターの前の椅子にドカッと座る。
「トーマに助太刀はしないのかい?エンハンスとかさぁ……」
「エンハンスは高い。少しぐらいは自身の力で戦ってもらえないとな。前回はしょっぱなから死なせるわけにはいかなかったんでね」
「……大富豪のあなたからしてエンハンスは高くないでしょ?」
ゲームマスターの発言に大きくため息をつくと、ゆっくりと口を開く。
「そう思うなら安くしてくれ。ほいほいと一等地のマンション一棟を買うほどの財産は私にはないよ」
「そっか……。でも、ゼロのサポーターは今回【テトラ】を買ってくれたよ?」
男は立ち上がり、出口へ向かって歩いていく。
突然帰る素振りを見せたため、ゲームマスターは慌てて止めに入るがそのまま押し切られた。
出口を閉じる前に振り向かずにゲームマスターへ言葉を送った。
「ここにいたら、落ち着いて観戦できないのでね。……アレの処理を参加者にさせるのはいいが、度は過ぎるなよ?次回からの参加者が減って、私たちの利益が少なくなるからね」
それだけ告げて男は去っていった。
ゲームマスターはこぶしを握り、その場に仰向けで倒れて暴れた。
「なんなんだよ~!!むっかつくなぁ!!」
一人むなしく部屋で暴れるゲームマスターなのであった。
§
「いやああああぁぁぁっ!!」
モエは目の前にまで迫ったゾンビの頭を砕いた。
するとゾンビはその場で崩れ、緑色の血液だけを残して消えていった。
「た、倒しちゃった……!?」
「もしかして、頭部が弱点……!?」
モエの倒し方を確認して、トーマは爪で顎ごと引き裂くとモエの時と同じく緑色の血液だけ残して消滅する。
マサルも二人の行動を見て習い、転倒させ、ゾンビの後頭部に何度も何度もナイフを突き刺し、ゾンビを消滅させた。
三人の周りから不穏な気配がなくなり、マサルとモエは地面に座り込む。
「な、なんとか乗り切ったよぉ……」
「おじさんも、疲れてしまったよ……」
「まだ、始まったばかりですよ!それに、ゼロに勝ちこ――」
『緊急速報、緊急速報。プレイヤー名:ミホがゾンビ感染、死亡を確認いたしました』
突如デバイスから参加者の死亡が告げられ、モエとマサルの顔が強張る。
トーマは急いでログを確認し、死亡地点を見る。
市街地の中心近くで死亡しており、嫌な気配がするというのが当たってしまった。
「は、ハハハ……。さ、さすがに死んでも……また生き返るんだろ……?ほら……トーマ君の友達のように……な?」
「た、たぶん……復活しないと思う……」
トーマの一言がモエとマサルを絶望へと一歩進めたのであった。