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55/58

◆55「死にましたよ?」

「む?」


 この場に張り詰めた沈黙を、最初に破ったのはホロウだった。

 彼の幻影が何かに勘付いたように彼方(かなた)を向く。


 続いてロキがハッと顔を上げて身構えた。

 俺のことを背中に隠し、彼が対峙(たいじ)したのは、新たにそこに現れた魔法陣である。

 やがて、足下から頭の天辺に向かってその人物の全身が(あら)わとなる。

 片手に杖を持ったローブの男。

 長身、糸目のその容姿は間違いない。


「イシダ!?」「貴様……!」

「おっと。待ってください。さっき、約束されてましたよね? もう人間とは戦わないって。私もその気はありませんので、そう身構えずに」


 イシダは杖を持たない方の手を前に出しロキを制す。


「魔王様。たった今、すぐ近くにあった巨大な魔力の気配が──」

「黙っておれホロウ。見えぬか。それどころではないわ」


 俺はロキが広げる腕の間から顔を出し、イシダに語り掛ける。


「イシダ、お前。死んでなかったのか?」

「死にましたよ?」


「そ……、えっ……。はぁ!?」

「いや、多分一回死んだってことだと思うんですけどね。気が付いたら王都にある自分の部屋に戻ってまして。そこの棚の上で〈身代わりの人形(仮)〉が粉々に砕けてましたから、そこからの推論です。いやあ、なんとなくそういう効果の魔法道具なんじゃないかと見当は付けてたんですが、試しに死んでみるわけにもいかないってところが不親切ですよねぇ。ちゃんと説明書を付けておいてもらわないと」


 俺の混乱した頭では、イシダの話の半分も理解できない。

 イシダと同じ世界の人間であったり、イシダの言う〈ゲーム脳〉とやらの能力者であればすんなり理解できるのだろうか。


「貴様、戦う気がないと言うのなら何故戻って来た?」


 ロキはイシダに対する警戒を解いていない。

 それでもあの魔法の剣を出して臨戦態勢を取らないのは、再び戦えば勝つのは至難だと考えている証拠かもしれない。

 そもそも殺しても平然と生き返って戻ってくる相手にどうやって勝利すればよいというのか。


「あー、それです。その話。途中からですが、私も先ほどまでの話、こっそり傍聴(ぼうちょう)しておりましてね。このままでは少々手詰まり……というか、どなたも幸せにならないのではと考え、ひとつ、第三者として提案をさせていただこうと、多少の野暮は承知の上でこうしてしゃしゃり出てきたわけです」

「まだるっこしい奴だ。聞いてやるからさっさとその提案とやらを話せ」


「はい。では貴方──ロキさん……ってぇ名前を呼ぶのは不味いんでしたっけ。じゃあ魔王氏。魔王氏はそこにいるエリ……エリス女史の想いの()りどころをお疑いなのですよね?」

「なんだお前は。他人の恋路に土足でのうのうと──」


「あー、だから言ったじゃないですか。野暮は承知の提案だって話を。その前置きを(さえ)ったのは──」

「分かった。分かったから最後まで話せ」


 ロキが面倒臭そうに手を振り、イシダに話の先を促す。

 傍目に見れば、さっきまで本気の殺し合いを演じていた二人とは思えない。

 物怖(ものお)じせずに飄々(ひょうひょう)と話すイシダの空気が、魔王であるロキを完全に食ってしまっていた。


「では気を取り直して。私から提案したいのはそこです。確かめてもいないことを疑心暗鬼になってお互い気まずくするくらいなら、はっきり確認してみればいい話なんじゃないかなと」

「確認、だと?」


「できるはずですよ? そこにいらっしゃるホロウさん、でしたか。口に出した言葉の真偽を審判する魔法をお使いになるのでしょう?」


(なん……だと?)


 俺がロキの背後で息を飲むかたわら、イシダは魔法陣の上に浮かぶホロウに視線を投げかける。

 手の内を容易にさらすべきでないと考えているのか、ホロウは否定も肯定もせず黙ったままだ。


「馬鹿な。そのような恥ずべき行い。無粋にも程があるわ!」


 ホロウに代わって気色(けしき)ばんだのはロキである。


 良かった。さすがはロキ。

 魔王然とした見た目と違い、中身はちゃんと常識をわきまえた良い子に育ってくれていたようだ。

 それに引き替えイシダ。お前って奴は……。


 そのとき、イシダの背後にゆらりと影が立つ。

 空気中にインクが溶けだすような黒い(もや)(けぶ)る。


「──危ない。イシダ!」


 イシダは俺が叫ぶより早く身体を横に開いて背後からの攻撃をかわしていた。


 さすがに同じ手は二度食らわないといったところか。


 イシダに攻撃をかわされたシグルスは、そのままの勢いで大剣を横に振るった。

 イシダの前を素通りし、──いや、これは?

 シグルスの狙いはイシダではなく、最初から、その向こう側にいる──ロキ!?


「お覚悟!」


 ロキの手にはすでに紫色に光る剣が握られている。

 迎え撃つ刃先は、向かって来るシグルスの心臓にピタリと合わされ──


「!?」


 ──貫くかに見えた。


 だがその直前、シグルスの身体は不自然にガクリと揺れ、かと思うと次の瞬間には後方へと吹き飛んでいた。

 何が起きたのか、俺の立ち位置からでは分からなかったが、その後に続くイシダの発言でその答えが明かされる。


「危ない危ない。私の腕が長くて助かりましたね」


 すれ違いざま、彼がシグルスの肩をつかんで強引に引き戻したらしかった。

 イシダの手足は出会った頃と同じ細長いままだが、あんなでも今のステータス的には【筋力50】の化け物である。


「うむ。これは礼を言わねばならんな」


 仰向けに転がったシグルスのもとへと歩き始めるロキ。

 その手にあったはずの剣はすでに収められている。


「どうしてだ? どうしてシグルスがロキを狙って……」

「おおかた自分さえいなければ全て丸く収まるとでも考えたのでしょう」


「死ぬつもりだったのか? ロキを狙うことで、自分を殺させようと……?」


 俺はイシダの横に並び、シグルスに向かってしゃがみ込むロキの様子を見守った。

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