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48/58

◆48「わたくしの口からお話しするのは、はばかられます」

 俺とイシダは、シグルスが幽閉されている〈尖塔〉へと向かった。

 手負いのライオネルや、彼の援護に駆け付けた魔族兵らをなだめることには多少苦労させられたが、大半はイシダの力技で。あと、いくらかは〈デーモンクイーン〉エリスの生まれ変わりという触れ込みである俺の説得によって(ほこ)を収めさせる。


「大丈夫だって。悪いようにはしない。俺はシグルスを助けたいだけなんだ」

「なぜ、ニンゲンである貴方様が我らの騎士であるシグルス様をお救いになりたいなどと思われるのでしょう?」


 最後の障害は〈尖塔〉に入る扉の前で待ち受けていたメディラだった。


「う、上手く説明できないけど……。恩を返したいんだ。あいつには随分世話になったから」

「貴方様が、でございますか?」


 メディラは慇懃(いんぎん)な物腰ながら不審を隠さない。

 頭の蛇たちは、俺の横に立つイシダを見た瞬間から、揃ってシャーシャーと威嚇(いかく)し続けていた。


「実は、思い出したんだ。この魔王城に来たときのこと──十五年前のことを。俺はシグルスと一緒に馬に乗ってやってきて、最初に出迎えて世話をしてくれたのはメディラ。そうだろ?」


 俺が思い付くに任せてシグルスを救いたい理由を説得すると、メディラはつと、こちらに向けていた敵意を退(しりぞ)かせた。


「エリス様……。ご記憶が?」

「あ。ああ、いや、全部じゃない。部分的にだけど」


 メディラはしばらく考えたあと、やがて決意を固めた口調で語り出す。


「……分かりました。どうか、シグルス様をお救いください。ですが、(いまし)めを解くだけではあのかたはここを動かないでしょう。あなた様がご説得ください。結果はあなたの……エリス様のお心一つだと思います」

「どういうことだ?」


「それをわたくしの口からお話しするのは(はばか)られます。どうか……」


 話すつもりのないメディラを問い詰めている暇はなかった。

 身体を扉の脇にずらして道を譲ったメディラの前を通り過ぎ、俺とイシダは〈尖塔〉の扉を開ける。


 ガコッ ギギィ


「これは……。なるほど……」

「どうした?」


 イシダは〈尖塔〉に一歩足を踏み入れたあと、その場に立ちすくみ、螺旋階段の上を見上げる。


「ああ、いえ。【魔力】を遮断する感覚が面白くてですねぇ。これはまた〈啓蒙(けいもう)〉が……、じゃない、【知性】が上がってしまいそうですよ」

「なんだよ。ふざけてる暇はないぞ?」


「ええ。そうですね。だから私は外で待つことにします」

「え?」


「中に入ると外の【魔力】がほとんど分からなくなるんです。まあ、それは外から見た相手も同じことでしょうが……。もう魔王はすぐそこです。私が迎え撃って時間を稼ぎますので、エリオットさんはそのシグルスさんという人の説得をお願いします」

「そ、そうか。じゃあ頼んだ。でも気を付けろよ。ロキは相当強いぞ。今のお前のステータスでも勝てるかどうか──」


「分かってます。ビシビシ伝わってきますから。だからこれを」


 そう言ってイシダが渡してきたのは慣れ親しんだボロボロのズタ袋──〈無限の袋〉だった。


「私は無理だと思ったら全力で逃げますから。エリオットさんも身の危険を感じたら、すぐにこの中に入って離脱してください」


 それは絶対に〈無限の袋〉の本来想定された使い方ではない気がするが。

 だが確かに、この場面でこれは助かる。

 使える物は何でも活用すべきだろう。

 なんとなれば、最悪この中にシグルスの身体を押し込めて……。


 俺は〈無限の袋〉を受け取ると、まるで昨日駆け下りてきたように感じる螺旋階段を、十五年ぶりに駆けのぼりはじめた。

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