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◆46「一体何が起きてる? 何と戦ってるんだ?」

 十五年ぶりに魔王城に帰還した俺を迎えたのは、メディラを筆頭とする十五年前と変わらぬ面々の侍女たちだった。

 デーモン族の長命は聞いていたが、魔族というものは総じて人間とは歳の取りかたが異なるものなのであろうか。

 各々の容姿も全く衰えておらず、本当にあれから十五年もの月日が経っているのか自信が持てなくなってくる。

 俺自身の体感では、あの〈尖塔〉からの脱出劇がつい昨日のことなので余計に混乱するのだ。


 混乱といえば、前回と最も異なり困惑させられたのは、彼女らの俺に対する態度である。

 魔王が直々に連れて帰った客人なので、礼節はわきまえているのだが、言動がいちいち素っ気ない。

 俺がエリスであったときには、俺に対する敬意や羨望(せんぼう)、あるいは親愛の情といったものを隠しきれず、言動の端々から好き好きオーラをあふれさせていただけに、その差は実に顕著だった──。



「エリス様の生まれ変わりとお聞きしましたけど、その割にはあまりパッとしませんわね」


 侍女たちのたまり場となっている階段下のスペースで、率直な感想を話しているのはレッサーデーモンのパルセアである。

 侍女たちの中に彼女の姿を見つけたときは正直ホッとした。

 (エリス)手籠(てご)めにしようとした件で厳しい罰を受けたのではと心配したが、同じ職務に戻っているということは、ほどほどの処罰で済んだということだろう。


「無理もありませんわ。よりにもよってニンゲンの、しかも男の身体ですもの」

「お可哀そうに。早く元のお身体に戻して差し上げないと」

「でも、そうなるとやはりシグルス様は……」


 侍女たちの会話はそこで暗くトーンを落とす。

 俺は身を潜めていた階段の上から片耳を出して、その先を懸命に聞き取ろうとする。


 ところどころ途切れがちになる会話の切れ端を繋ぎ合わせると、おおよそ今のシグルスが置かれている状況が見えてきた。

 シグルスがエリス殺害の罪に問われ、あの〈尖塔〉に幽閉されたのは、ロキがエリスに関する夢見をした半年前のこと。

 その間、ろくに食事も与えられず、当初〈尖塔〉から漏れ出ていた彼の魔力もみるみる衰え、今では生きているのかも分からぬ状態であるという。


 エリスが姿を消したとき、〈尖塔〉内にいたのはシグルスただ一人である。

 ロキやホロウから見れば疑わしく思えるのは仕方ないかもしれないが、彼にはエリスを害する理由がないではないか。

 どうにかしてその誤解を解かなければ。

 いや、誤解が解けないまでも、彼を救い出さなければ。

 彼が儀式とやらで処刑されてしまう前に。


 だが、どうやって……?

 ──その方法は意外にも早く、思わぬ展開によってもたらされた。


  *


 俺が魔王城に帰還した日の次の夜。

 俺が自分の無力を嘆き、悩み、しかし何も思い浮かばぬまま、いつの間にか寝入ってしまった深夜のことだ。

 俺は部屋の外でガチャガチャと慌ただしく鳴る足音で目を覚ます。

 ベッドを抜け出し、扉に向けて耳を近づけると、外から魔族兵たちの怒鳴り散らす声が聞こえてきた。 


「敵襲だと!? 外にはそんな気配微塵(みじん)もないが」

「敵は少数だ。もしかしたら一人かもしれん」

「何をしている。もう城内に侵入されているぞ! 迎え撃て!」

「迎え撃てと言われても、何処に行けばいいんだ?」

「集中して魔力を探れ! 馴染みのない大きな魔力があるだろ!」

「ん!? あの魔力は魔王様のものではないのか?」

「聞いてないのか。魔王様は蜂起(ほうき)したニンゲンの軍を討つためにここを発たれたあとだ」


(どういうことだ? 侵入者?)


 外の会話を聞いて俺も見よう見まねで魔力の気配を探ってみる。

 【魔力】の値が高ければ自然に他人が放つ魔力の気配が分かるようになる、というのは自分でも経験済みで既知の技術ではあったが、今の俺は悲しいかな【魔力9】。

 人間にしては高い方だが、それでも話題に上っていた侵入者らしき魔力は見つけられなかった。


 そもそもこの魔王城にいる者たちは皆、粒ぞろいの魔力の持ち主である。

 しかも今はそれらの魔力が全て殺気立っていて、魔王城全体を覆うなんだかヤバそうなプレッシャーとしてしか感じられない。

 そのとき──


 ズドーン!


 至近で落雷があったかのような轟音。

 合わせて激震と風圧が一度にやってきた。

 次にゴゴゴという岩壁が崩れるような音がして粉塵が舞う。


 口いっぱいに広がった砂粒入りの唾液をペッペと吐き出し、粉塵の向こう側に目を凝らす。

 いくらか視界が晴れたところで俺はようやく部屋の壁に大穴が出来上がっていることを知った。


 床から天井までの高さを直径とした大穴は、俺が寝ていた部屋を貫通し、何もかもをもなぎ払い、反対の壁までくり()かれている。

 おそるおそる廊下側に抜けた穴の向こうをのぞくと、同じような穴がいくつもの壁にまたがって連なっていた。


 何か途轍もない力が魔王城を(つらぬ)いたのだ。

 落雷などでこんな穴はできない。

 というか雷は水平に落ちたりしない。

 こんなことが可能だとすれば、きっとそれは攻撃魔法の(たぐ)い。

 しかし、だからといって、こんな常識外れの威力を持つ魔法なんて、今まで見たことも聞いたこともない。


「あ、おい。大丈夫か!?」


 大穴の一つの脇に倒れ込む人影を見付けて俺は自然とそこに駆け寄っていた。

 近付いてみると意外と大きい。

 その巨体の持ち主は、将軍のライオネルだった。

 ライオネルが着ていた分厚い鎧の右半身は激しく砕け、その下からのぞく肩口は痛々しく焼けただれている。


「お前は……、そうか、例の生まれ変わりか。悪いが構ってられん。自分の身は自分で守ってくれ。クッ、フゥ……。逃げるんだ……!」

「一体何が起きてる? 何と戦ってるんだ?」


「ニンゲンだ。……多分。だが、恐ろしく強い。ニンゲンの中にこれほどの力を持った者がいたとは──」


 壁に寄りかかり立ち上がろうとするライオネルの身体がガクリと崩れる。


「大丈夫かよ。そんなんでまだ戦うつもりか? 肩、貸すから、一緒に逃げようぜ」

「何を言う。かすっただけだ。これくらい……」


 いやいや。かすっただけでこの威力なら余計に駄目じゃないか。

 ロキやホロウなどが揃って人間の領土に遠征している今、おそらくライオネルはこの城における最大戦力だ。

 そのライオネルがこの有り様では魔族側に勝ち目など欠片もあるとは思えない。


 とにかく身を隠せる場所にライオネルを引きずっていくか。

 そう思い、あたりを見回したとき、大穴の一つから人影がゆらりと歩み出るのが見えた。

 俺はただならぬ気配を感じ、とっさに指から〈見極めの小筒〉を抜き取る。


 手が震えて上手く焦点が合わない。

 だが、一瞬よぎって見えたステータスの一部だけでも十分に化け物じみていた。

 【筋力】【技量】【敏捷】。

 そのいずれもがロキやシグルスに引けを取らない数値であった。


「あのー、すみません。できればあまり、事を荒立てずに済ませたいので、抵抗はしないでいただけますかー?」


 これ以上荒立てるにはどうすれば良いのか、逆に聞きたいくらいだ。

 だが、悠長にそんなツッコミを入れている場合ではない。

 暗がりにたたずむ人影の間延びした口調がどこかで聞き覚えがあるように感じ、俺は必死に記憶の糸をたどる。


 男の手に握られた杖の先端にポウと明かりが(とも)り、その光が大きくなる。

 それを攻撃の前兆と見たライオネルが立ち上がり、両手を広げて俺と男の間に立ちふさがった。


「待て! 撃つな。俺の横にいるのはお前と同じニンゲンだ。俺のことはいい。だが、こいつのことは助けてやってくれ!」

「え? そうなんですか? と、いうことは……」


 なんなのだ、この会話は。

 ライオネルの必死さと、対する男の気の抜けたテンションが致命的にかみ合っていない。

 こいつは──


「お前……イシダか!?」

「おお、よかった。ご無事でしたか、エリオットさん。探しましたよ」


 杖の先の光が最大に達しても轟音が響くことはなかった。

 イシダが唱えていた魔法は攻撃魔法ではなく、ただ周囲を照らすだけの魔法だったのだ。

 煌々(こうこう)と灯る明かりの下で、俺はイシダの変わり果てたステータスにマジマジと見入る。


〈転生勇者:イシダ〉

【体力26,精神28,筋力50,技量50,敏捷50,知性24,魔力99,魅力16】


 こ、こいつ──。

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