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◆4「私、説明書は先に熟読するタイプでして」

 その後、俺はイシダと隣り合って座り、〈生まれ直しの石板〉なる魔法具の扱い方を教わっていた。


「ほら、こうすると、ここにある〈余剰ポイント〉の数字が増加するでしょ?」

「ほんとだ」


「で、そのあとでこうすると、ほら」

「おう。【敏捷】が増えたな。これで俺は前より素早く動けるようになったのか?」


「いえまだです。この下の〈生まれ直し〉という文字を選択して初めて、このステータスが適用されます」

「〈生まれ直し〉……。御大層な表現だけど、まさか赤ん坊に逆戻りってわけじゃないんだろ?」


「ええ。年齢や服装などは変わらず、生まれたときから現在に至るまでの成長過程を一瞬でやり直すと説明されていますね」

「説明されています……」


「ええ、私、説明書は先に熟読するタイプでして。ほら、こうすると、こう」

「む」


 イシダが俺の手元にある石板に手を伸ばしてタッチすると、何やら大量の文字が現れた。

 うん。読める。

 読めはするが、これは……。


「ん、いいよ。俺は、必要になったらそのときに読むことにするし。ひとまず、大まかなことだけ口で教えてくれよ。〈生まれ直し〉に回数制限はあるのか? 一日に何回までだとか……」

「回数は無制限だそうです。再使用時の間隔クールタイムについては探しても記載がなかったので、おそらくそれも無制限かと」


「ふむふむ。ならぁ、実際に何度か試して、やりながら覚えれば良さそうだな」

「ですかねぇ」


「お前が凄い道具だって言ってる意味は大体分かったよ。折角高い能力を下げるのはもったいない気もするが、状況に応じて、いらない能力を下げて、その分必要な能力を上げれば臨機応変に対応できるってことなんだろ?」

「ええ、まあ。そうですね」


 微妙な言い淀みをみせるイシダ。

 そこで俺の【知性13】の洞察が(きら)めいた。


「なんだか引っ掛かるな。今までの口振りからすると、イシダはこれを実際に使ってみたことがないんじゃないか?」

「いやはや。さすが。かないませんねえ」


 イシダは「タハハ」と笑いながら頭をかく。


「どうしてだ? 説明どおりなら自分のステータスを振り直して、魔王討伐に必要な【体力】や【筋力】を手に入れることもできるだろうに」


 使い道のよく分からない【魅力】や【魔力】などを下げれば、俺ぐらいの身体能力とはいかずとも、そこそこの数字にはなるはずだ。

 いまいちな結果なら元に戻せばよいのだし。

 少なくともどんなふうに体感が変わるのか試してみたくなる、というのが人のさがというものではないか。


「いやー、他人に勧めておいて、今さらこう言うのもなんですが、〈生まれ直し〉って言葉、なんだか怖くありません? たとえ数値上のことだとしても、生まれ変わった自分は果たして今の自分と同じものだと言い切れるのか、とか」

「う、うーん……」


 俺が白状するように迫ったからとはいえ、なかなかぶっちゃけたな。

 つまり……。


「はい。そうです。何らかの危険がないか、貴方を実験台にして確認できればなと、そういう目算でした」


 イシダはケロリとそう言い放つ。

 だが、如何にも何かを企んでいそうな糸目のこの男を、俺は何故だか嫌いになれなかった。

 これが【魅力16】の威光というものであろうか。


「そもそも私、リスクを取ることが極端に苦手でして。魔王討伐のために召喚されたなどと言われても、身も知らない世界のために、なんでそんな危険をと思いますよね? 幸いこの国の王様や大臣などのお偉い方々に向かって口八丁手八丁……いえ、(あわ)れを訴えておすがりすると、私のような虚弱な者には魔王討伐は荷が重いと、どうにかご納得いただけたようで」

「異世界の知識を利用して、魔族との戦争に有効な技術が開発できないかという研究を任されていると聞いたが?」


「はい。それも交渉の一環でございます。お陰様でこうして立派な住居まで与えていただける運びとなりました」


 俺は〈見極めの小筒〉で改めてイシダのステータスを眺める。


〈転生勇者:イシダ〉

【体力6,精神18,筋力4,技量5,敏捷6,知性24,魔力14,魅力16】


 魔王討伐という使命を課されて呼び出されたはずのこの男は、常人の5倍近い【知性】と3倍を超える【魅力】でもって、召喚された早々に、周囲の者を言いくるめてしまったというわけか。


「やはり、やめにしておかれますか?」


 イシダが〈生まれ直しの石板〉を手で覆いつつ、俺の顔色をうかがう。


「私自身がリスクを冒すことなく、別の誰かが魔王討伐を成功させる確率を高められる上手い策だと考えたのですが、少々虫が良すぎましたよね」

「まあ、待て。やらないとは言ってないだろ」


 俺はこいつの術中だと半ば気付きながらも石板の上に置かれたイシダの手を払う。

 するとイシダは案の定、申し訳なさそうにしていた表情をコロリと変え、ニンマリと笑った。


然様(さよう)ですか。では、使用の前後で感じた違和感などがございましたら是非詳細にお報せ(レビュー)ください。仮に何か不具合があったとしても取り消し(クーリングオフ)は利きませんが、ご同意の上なら問題ありませんよね?」


 図太い。

 そもそも勇者のくせに魔王討伐をガン無視して平気で居直っていることといい……、なるほど【精神18】とはこういうことかと俺はため息をついた。

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