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◆38「いいですか? 落ち着いて聞いてください?」

 イシダの私室は前にも増して物が増えており、以前俺が使った椅子の上にも大きな本がうず高く積まれていた。

 イシダはベッドの上に並んで座るように誘ったが、万が一にも間違いが起きては困ると案じた俺はその誘いを固辞し、床の上に詰まれた本の柱の一つに尻の置き場を定める。


 魔王城に至る旅路の話から、なぜ〈無限の袋〉の中に吸い込まれるに至ったのかまで、順序立てて説明するには、たっぷり小一時間を要した。



「──なるほど。〈無限の袋〉にそんな使い方があったとは。たしかに小柄な人が頑張れば潜り込めそうだとは思っていましたが……。エリオットさんはなかなか奇抜で、大胆な使い方をなさいますねえ」

「狙ってやったわけじゃねーよ。事故だったんだ。俺はむしろ道具の欠陥だと思うが?」


 中の物を取り出そうとするたび、うっかり自分が取り込まれる危険があるのでは恐ろしくて使っていられない。

 無制限に荷物を詰め込んで運べる便利さと十分釣り合うくらいの大きなリスクだと、身を持って体験した俺などは思うのだが、イシダの反応は真逆だった。


「いえいえ。有事の緊急回避から、瞬間長距離移動、それにタイムマシンまがいのことまで可能なポテンシャルは凄まじい限りです」

「タイム……? 最後のは何だ?」


「ああ、失礼。タイムマシンですね。時間を飛び越えて旅行をする乗り物のような……、まあ過去には行けず、もっぱら時間を早送りする使い方しかできないみたいですが。それに、外で待機していて、ちゃんと出してくれる仲間も要りますし──」

「ちょっと……、待ってくれ」


「ん? 難しかったですか? エリオットさんも、中に入れた食料が腐敗もせず、水も冷たいままなのは便利だとおっしゃってたじゃないですか。それと同じことです」

「そうじゃなくてだな。今まで俺ばっかり話して、お前の方からは何も聞いてなかった気がする」


 イシダからその続きを聞き出す前から、俺にはある種の予感があった。

 違和感は、俺が〈無限の袋〉から出てイシダのこの部屋を見回したときから、ずっと感じていたのだ。


 たしかにイシダの部屋は以前から物であふれていて、決して整頓されているとは言い難かったが、出発前はここまで酷くはなかった。

 俺の体感では、魔王城に到着するまでに約半月。

 その後、エリスというデーモン娘として魔王城で暮らしたのが約ひと月半だ。

 この部屋の有り様には、僅か二カ月余りのうちに降り積もったとは思えぬ年季があった。


「お前、何か俺に話すべきことがあるんじゃないか?」


 俺がそこまで話すと、イシダは心得ましたとばかりに満面の笑みを口元に蓄えた。


「いやー、確かに流れ的にはこのタイミングでお話しすべきですね。失敗しました。できればもうちょっとドラマチックな感じで〈ネタバレ〉して驚かせたかったのですが」

「もったい付けるなよ。俺は一体、どのくらいの時間、袋の中にいたんだ?」


「いいですか? 落ち着いて聞いてください? 今は、エリオットさんがここを旅立ってから、およそ十五年後の世界になります」

「じゅう……ごねん……?」


 そんなにか。

 多少心の準備ができていたとはいえ、予想以上の時間の流れに俺は驚きを禁じ得ない。

 だが、イシダはさらに畳みかけるように、俺が〈無限の袋〉の中で過ごしていた間に、この世界に起きた出来事を語るのだった。


「そして今日は、魔族軍が侵攻を開始してから約半月。この王都を陥落させてから、ちょうど一週間となります」

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