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◆21「翼が……。エリス様はデーモン族だったのですね」

 水浴びなら先ほど泉でしたばかりだが。

 まあ、あれは単におぼれただけであるし、長旅の汚れや(あか)にまみれたまま魔王様に謁見を願おうというのは失礼か……。


 というか、城に着いてすぐさま身体を洗えと言われるということは、今の俺は相当臭うのかもしれない。

 そんな理屈を重ねて自分を納得させ、俺は結局、メディラの勧めに従い城のお湯を使わせてもらうことになった。


「お召し物はこちらで洗濯しておきますね」


 そう言ってメディラが俺のローブの肩口をつまむ。

 どうやら俺の脱衣を手伝うつもりらしい。

 それだって慌てるのに十分な申し出ではあったが、俺がより恐れたのは、懐にしまい込んである〈無限の袋〉を奪われることであった。


「ああ、あのっ、これは、別で──」

「? 漂白いたしましょうか?」


「いえ。洗いたいわけでは。これはえっと……、母の形見なので、肌身離さずにいたいのです」


 我ながら苦しい言い訳だが、メディラは黙ってうなずいた。


(ふー。危ない危ない)


 間違って捨ててしまわれないよう、俺はボロボロのズタ袋を丁寧に折りたたんで、きちんとした台の上に置く。

 ホッと胸をなでおろしている間に俺は有無を言わさずローブをはぎ取られていた。

 メディラの手から、バサリと音をたててローブが床に落ちる。

 見るとメディラは口元を両手で覆い、驚いた表情で息を詰めていた。

 相変わらず瞼は閉じたままだが、代わりに頭の蛇たちがあんぐり口を開け彼女の驚きを代弁している。


(……? ──あ、まずい。ローブの下には何も身に着けていないのだった)


「あぁ、あの、これはその。下着は長旅のせいで()り切れてしまってですね──」


 しどろもどろになる俺の説明をメディラはまるで聞いていなかった。

 驚きは完全に恍惚(こうこつ)へと変わり……、えっと、これは……もしかして涙ぐんでいるのか?


「お美しい……」


(うっ……)


 まさかそれほどなのか。

 【魅力99】というのは。

 同じ女性ですら、こうも魅了してしまうと?


「毒だー。こりゃ目の毒だー」

「あんたたちは見ちゃ駄目え!」


 メディラの頭の上では、メスらしき蛇がオスらしき蛇の頭にかぶりつき、視界をふさぐ大乱闘が繰り広げられていた。


「あ、あのー。大丈夫、ですか?」

「あ、すみません。私ったらつい。そうではなくてですね」


 〈そう〉とは何なのか。

 そもそもの(ただ)すべき誤解について(ただ)したい気もしたが、こちらが口を挟む間もなくメディラは先を続ける。


「翼が……。エリス様は、デーモン族だったのですね」

「翼?」


 メディラの言葉と視線を追って俺は自分の肩甲骨のあたりへ首を回す。

 たしかに翼があった。

 ちっちゃいが、コウモリのような黒い翼が生えていた。


 無言で「えっ」と驚き、そこを意識するとその小さな翼がピョコンと跳ねる。


「あ、ああこれ……」


 まさか自分の身体の一部を初めて見たとは言えないので、俺はさも当たり前のことですけど?というように驚きを隠して応対しようとする。


「そんなに珍しいか? かしら?」

「珍しいですとも!」


「デ、デーモン族の娘なら、先ほど泉の近くでもお見かけしましたけど?」

「それはおそらくレッサーデーモンでございますよ。城下の村にいるのは皆そうです。ご存知ないのですか?」


 メディラが明らかに興奮した面持ちで俺の両手を握る。

 そんなふうに間近で向かい合っても、彼女の瞼は閉じたままだった。


 彼女の瞳が見開かれていなくて良かった。

 もし大きな瞳で直接見つめられたなら、俺は今よりもっとたじろいでいたことだろう。


 俺は丘の上で〈見極めの小筒〉を使ったときの映像を必死で思い出していた。

 たしかに言われてみれば、ワーキャットの娘と一緒にいたもう一人の魔族は、デーモンではなく、レッサーデーモンと表示されていた気がする。

 べつに大した違いはないだろうと思っていたが、デーモンとは、それとは明確に区別される上位種だったのか。


 これはちょっと不味いかもしれないぞ。

 魔族にとって自明な事実を、魔族である──当のデーモン族であるはずの──(エリス)が知らないのは怪しすぎる。


「えっとー。実は私、ずっと、人間の土地で正体を隠して放浪しておりましたので……」

「まぁ、それは……」


 メディラの眉が気の毒そうに曲がる。


「物心付いた頃より身寄りがなく。なので、恥ずかしながら、魔族の常識には(うと)いのです」

「そんな過酷な境遇に……。さようでしたか。なるほど分かりました。シグルス様が貴女様をお連れになった意味が」


 ん? んん。うん。

 なんでも素直に信じるなあ、この娘は。

 純朴か。

 いや、俺にとってはありがたいことなのだが。

 正体がバレることに怯えていたのが馬鹿らしくなってくる。


 どうやら【魅力99】というチートステータスは、何を言っても周囲が当人にとって都合のよいように好意的に解釈してくれるものらしいと俺は知る。

 相手のことを無条件に信じたくなるから、多少あやしい説明でも理由を付けて勝手に納得しようとするのかもしれない。


「エリス様は失われた純血のデーモン族の生き残り。シグルス様はそれを見出されたということでございますね」

「そ、そうなのです……か……?」


 大丈夫だろうか。

 なんだか、思った以上に大事になってはいないだろうか……。

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