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◆20「次は浴場に参りましょう」

 シグルスが俺を預けていった侍女は、頭から生きた蛇を無数に生やすという、実に奇抜な姿をした女だった。


(さすがは魔族。なんでもありだな)


 一匹一匹が意思を宿すようにウネウネと動き回る蛇たちを見て俺はドン引きしていた。

 だが、そんな内心をひけらかしては不味い。

 俺だって今は彼女と同じ魔族の一員なのだ。


 同じ魔族……。

 いや、魔族といってもこれだけバリエーション豊かな外見の種族が、揃いも揃って等しく魔族なのか。

 考えてみれば、これは凄いことなのかもしれない。


「わたくしはメディラと申します。どうぞお見知りおきを」

「エリスです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 顔はこちらに向いているが、メディラは(まぶた)を閉じたまま。

 若く美しい顔かたちなのは間違いないところだが表情が読めない。


「お疲れでございましょう。お部屋をご用意いたしますので、どうぞこちらへ」

「あ、どうも……。よろしくお願いします」


 何も勝手が分からない俺は、案内されるままに城内の奥へと進んでいく。

 魔王の重臣である暗黒騎士が連れてきた俺のことをこの侍女はどう思っているのか。

 なによこの女と怪しまれたり、やっかみをされたりはしていないだろうか?

 あまり繁々と見ては悪いと思いながらも、先を行く彼女の頭につい目をやってしまう。


 すると目が合った。

 頭に()む蛇たちとである。

 てんでバラバラに動いているようでいて、その蛇たちは皆、首を後ろに向けて俺のことを見つめているのだった。


 蛇の表情など分かるはずもないのだが、何故だが俺には彼ら(彼女ら?)の心が読めてしまう。

 あの泉で出会ったときのパガスのように、俺を見る目がハートなのだ。

 蛇たちは一匹一匹が、もっと近くで、もっと良い位置で、俺のことを視ようと互いを押しのけ、夢中で争っているように見えた。


 静々(しずしず)と前を歩いていたメディラがふと両手を上げ、自分の頭の蛇の首をむんずとつかむ。

 憐れその二匹の蛇は、無理矢理前を向かされキーキーと鳴いた。


「酷いやメディラ。俺っちだって彼女を見たいのに」

「そうよ。不公平よ。私にももっと見せて」

「みんなで後ろを向いたら私が前見て歩けないでしょ? それと、人前では勝手にしゃべらない約束。下品な子だと思われちゃうじゃない」


 なるほど。そういう関係性なのか。

 頭から蛇を生やすというのは御免こうむりたいが、話し相手に苦労しないという点はちょっと(うらや)ましいなと思ってしまった。



 魔王城は広い。

 結構奥まった場所まで行くなと思い始めた頃、メディラがようやく足を止め振り返った。


「お部屋はこちらをお使いください」


 開かれた扉の先にある部屋は、どう見ても流浪の小娘一人に与えられてよい広さではなかった。

 城下の街で俺が寝屋としていた安宿の一室などとは比べるべくもない。

 それこそ、城の妃か姫様などが使っていそうな豪華な(しつら)えがされた部屋である。


「えっとぅ……。よろしいのですか? こんな大きな部屋。相室にしてはベッドも一つしかありませんし……」


 一つだけとはいえ、その一つが呆れるほど大きい。

 端から詰めれば、五人ぐらいは余裕で寝ころべそうだ。

 魔族の習慣は分からないが、もしやこの豪華なベッドの上で雑魚寝をするのだろうか。

 あるいは、俺以外の侍女候補として訪れた他の娘たちにもこれと同じだけの贅沢な部屋が用意されている、とか?


「よいのですよ。シグルス様より、〈よきに計らえ〉と申し付けられておりますから」


(おおぅ。なんてこった)


 これはずいぶん誤解されているらしいぞ。


「そんな。特別扱いは困ります。他のかたがたと同じ部屋に通していただけますか?」

「他のかたがた……とおっしゃいますと?」


「侍女の選別試験に参加される他のかたがたです」

「あぁ、いえ他の参加者のかたは当日まで城の外の村に宿泊されているはずです。あるいは野宿か」


 想像以上の格差だった。

 これは初っ端から、いや、試験が始まる前から相当目立ってしまうぞ。

 だが……今さらか。

 目立ちたくないのなら【魅力99】などというハッチャケた能力にすべきではなかったのである。


 仕方がない。

 シグルスによって招き入れられた以上、このルートに乗っかるしかない。

 そう観念した俺は、これ以上不審がられないよう、メディラに礼を言う。


「わ、分かりました。ご案内ありがとうございます。メディラさん」

「いいえ、エリス様。わたくしのことは呼び捨てで十分でございます」


「え、でも……」

「それに、まだご案内は終わっておりません。次は浴場に参りましょう」

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