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◆16「おっ、俺は一体何をやっているのだ。変態か!?」

「へくちっ!」


 自分のくしゃみとともに目覚めた俺は、身震いしつつ身体を起こす。


 いかんいかん。

 うっかり濡れた服のまま寝入っていたらしい。

 真上近くにあった太陽がもうずいぶんと傾いている。


 俺はヨタヨタと起き上がり、着替えに取りかかる。

 たっぷりと水を吸った衣服はまだズシリと重い。

 半分脱ぎ終わったところで俺は不意に不安に駆られ、用心深く辺りを見渡した。


「…………」


 自分の吐く息が急に熱を帯びたように感じられる。

 いま俺は、自分が何か良からぬ悪事を働いているかのような後ろめたさに襲われていた。


 だが待って欲しい。

 これは濡れ衣だ。

 たっぷりと水を吸って重くなった濡れ衣である。


 いったい誰に気兼ねする必要があるというのだろうか。

 これは他の誰でもない、俺の身体なのだ。

 自分が自分の裸を見たところでそれがどうだというのだ。


 だが、そこに実るたわわな果実を目にして、気後れをしないというのも無理な相談である。

 俺はもう一度、周囲にくまなく目を配り、薄く息を吸って……()む。


「…………」


 濡れていたので冷たいかと思ったが、ほんのりと温かい。

 それとスベスベで、指に張り付いてくる感触が……。

 いやそれより、それを揉んでいる自分の手の滑らかさの方が新鮮で不思議な感じがした。

 それが第一印象。

 それから両手をすぼめ、持ち上げるようにすると、指が沈み込む感覚があり、その柔らかさに心臓がトクンと鳴った。


 女性の乳房とはこのような感触であったのかという驚きと感動。

 それに、それを揉まれるという感触も……、いやこれは、なんと形容すればよいだろう。

 こそばゆいというか、恥ずかしい?

 乳房それ自体の、あるいは皮膚の感覚、というよりも、もっと内側の、胸の奥がくすぐられている感じがもどかしい……、落ち着かない。


 そこでふと、水面に映る自分の影が目に入り我に返る。


(おっ、俺は一体何をやっているのだ。変態か!?)


 手を離すと改めてそれが主張してくる。

 何かがトフンと吊り下がるような不慣れな重さに俺は戸惑う。

 恐る恐るそこに目を凝らすと、それは確かに先ほどまでなかったはずの張りを蓄え、僅かに上を向いていた。

 俺は自分の中でサワサワとうごめく(うず)きを持て余す。

 かと言って揉みしだくわけにもいかず、抱きすくめてどうなるわけでもなし。


 俺はなるべくそれ以上自分の裸身を見ないように努め、落ち着かない気持ちのまま着替えを再開した。

 〈無限の袋〉から目当ての物を取り出したのち、周囲に散らかった荷物を放り込んで片付ける。


 俺が濡れそぼった衣服の代わりに選んだのは、この旅の途中、寝るときに毛布代わりに使っていた厚手の長衣(ローブ)だった。

 元の男の身体のときには膝丈ぐらいだったのだが、今の縮んでしまった身体で着ると、くるぶしが隠れてしまうほど長く、ダボっとしている。

 旅装束としては別に差し障りないだろうが、これから魔王様に謁見(えっけん)(たまわ)ることを考えると、さすがに野暮ったい気がする。

 先ほど話を盗み聞いたあの魔族の村娘たちも言っていたではないか。

 できるだけ身綺麗にしておくのは常識だと。


 しばし俺は泉の水面に全身を映しながら考える。

 腹のあたりの布をつかんで左右に引っ張って余らせると、それをギュッと絞って腰紐(こしひも)のように結んだ。

 すると女性らしい豊かなヒップラインが浮かび上がり、ちょっとしたケープドレスのような印象に変わる。

 脚も前側がちょうど膝あたりまでいい感じにまくれて歩きやすくなった。


(おー。悪くないな、これは)


 俺って意外とこういうセンスがあったのか。

 いや、何を着ても似合ってしまう素材の良さというべきか。


 気をよくした俺は背中に垂らしたフードで生乾きの髪をくしゃくしゃとやりながら、近場の草地にしゃがみ込んだ。

 真っ白で見栄えのする花弁の花を二房ほど摘み、先ほどの村娘たちがしていた頭飾りを真似てみる。


(こ、こんな感じだろうか?)


 出来栄えを確かめようと、もう一度泉の方に戻ろうかと顔を上げたとき、10メートルほど先の草むらがガサリと鳴った。

 そこからユラリと立ち上がる巨体を見たとき──そのときになって俺はようやく、今の自分が人並程度にしか気配を感じ取れないのだったと思い出す。


「ブルルルルルゥッ」


 愛らしい姿に変わり果てた今の俺の、倍はあろうかという身の丈。

 見覚えのある茶色の体毛。

 全身毛むくじゃらのその巨漢は、イノシシ男──パガスであった。

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