◆15「本当に。魔族の……女だ」
視界がかすむ水の中でやったことだ。
それに、もう少しでおぼれる、という切羽詰まった状況でもあった。
そのせいで誤って【魅力】ではなく【知性】の方を下げてしまったのだろう。
慌てて連打していたせいで、【体力】と【筋力】の値が適当なことも仕方がないのだが……、なんだろう。
俺は、何がおかしいのかと頭を悩ませつつ、石板を抱えてその場に座り込む。
「……そうだ。分かった」
減らした【知性】の値よりも、増えた【体力】と【筋力】の合計値の方が多いのだ。
さらにステータス表示の下にある〈余剰ポイント〉が〈17〉も残ったままになっているのを見て、俺はこの複雑怪奇な現象を説明できる、とある法則を見出した。
(つまりこれは……、ええっと……、こういうことか?)
試しに画面上で【知性】の能力値をさらに1減らしてみると、〈余剰ポイント〉が5増えて合計が〈22〉になった。
反対に、【知性】を上げようとすると、たった1上げるために〈余剰ポイント〉が5も必要であることが分かった。
【知性】だけは少し特殊な気がする、みたいなことをイシダが言っていたのを思い出す。
石板のガイダンスには書かれていなかったが、イシダはたぶん自分で調べてこのことを知っていたのだろう。
実際に〈生まれ直し〉を実行しなくても、試しに上げ下げしてみることは可能だから。
「ふむぅ……」
ちょっとした不注意による事故で、触るなと言われていた【知性】をうっかり下げてしまったわけだが……。
こうしている限り、特に大きな違いは感じられなかった。
自覚がないだけで、実際は頭の回りが悪くなっている可能性はあるかもしれないが、少なくとも記憶をなくしたり、自意識が揺らいだりといったことは起きていない……。
──そうだ。素性も。
こうして魔族に生まれ変わるという挑戦的なことをしても、俺はちゃんと〈俺〉のままだった。
俺はノソリと身体を前に倒し、岩の上から水面をのぞく。
そこには頭から二本の角を生やした赤みがかった茶髪の少女がいて、俺のことを下からのぞき返していた。
「おお、すごい。女になってる。本当に。魔族の……女だ」
俺は両手で顔をなで、角の手触りを確かめ、これが幻ではなく、本当に姿かたちが変わってしまった事実を確かめる。
また水面に映る自分を見て、舌をベーッと突き出してみたり、口をイーと横に引っ張って、尖った牙を出したりもしてみた。
一見、人間の娘と変わりなく、違いがあるとすればこの悪魔っぽい角と牙だけ。
数ある魔族の選択肢のうちデーモンを選んだのはそれが理由だった。
丘の上で見かけた二人組みの魔族娘のおかげで一般的なデーモンの女とはどういう容姿であるのかは分かっていたし、自分が〈化けた〉結果が自然かどうか、確認するうえで都合がよいと思ったからである。
容姿……【魅力88】に見合ったものか……、これはどうであろうか。
美しい顔だちだと思うが、自分で自分を見てときめくわけもないだろうし……。
ブルリ
寒さで身を震わせた俺は、水面に自分の姿を映すのをやめ、〈生まれ直しの石板〉を膝の上に置いて座り直す。
〈余剰ポイント〉を残したままなのはもったいない。
もう一度ちゃんと〈生まれ直し〉て、ステータスを振り直さなければ。
それと、いくらなんでも能力値〈1〉というのはないだろうというのは、たったいま痛い目をみて学習したところであった。
なにせ平均的な成人の五分の一である。
生まれたばかりの赤子か幼児なみだ。
問題は一度下げてしまった【知性】を元に戻すかどうかだが──。
〈勇者:エリオット〉*
【素性:魔族・デーモン,性別:女,ステータス反映:あり】
【体力5,精神5,筋力5,技量5,敏捷5,知性6,魔力5,魅力99】
うむ。
いいんじゃないか。
平凡で無難だ。
【魅力】以外は。
【知性6】というのも、元の値に比べると低く感じるが、平均より高いのなら十分だろう。
それになんといっても、上限いっぱい、最高に〈尖った〉【魅力99】というのが気に入った。
俺の魅力で魔王とやらをメロメロにして……、そうすれば暗殺するのだってわけはないだろう。
なんなら向こうから俺にひれ伏して領土を差し出してくるかも。
んなわけはないか。
なっはっは。
なんだか上手くいく気がしてきたぞ。
一時はどうなることかと思ったが、ちょっと神経質になりすぎていたかもしれない。
俺にはこの〈生まれ直しの石板〉という超絶チートアイテムがあるのだ。
上手くいかなければ、それはそれ。
また〈生まれ直し〉て考えればよいではないか。




