◆12「なるほど。こけ脅しというわけか」
──まぶしい。
だがこれは、転送路に込められた魔法の光ではない。
自然の、太陽の光だ。
風と匂い、それに微かな音などでそう直感した俺は、何度か瞬かせながら目を開ける。
俺が立っていたのは洞窟内にあった祭壇の上ではなく、多くの木々がしげる林の中だった。
風化の痕が激しい石柱が何本か立ち並び、その柱に囲われるようにして巨大な石板があった。
洞窟の祭壇にあったものと同じものである。
(出口は魔王城ではなかったのか……)
転送先についての予想が外れたことには幾らか落胆したものの、周囲に魔族の姿がなかった幸運には感謝しなければならないだろう。
はて、魔王城はどちらの方角か。
先に進んだはずのイノシシ男たちはどこに行ったのか。
勘を働かせようとした瞬間、それが分かった。
〈66〉にふくれ上がった俺の【魔力】が、無意識で他の【魔力】を探知したということだろうか。
強大な【魔力】の塊が、傾き始めている太陽の真下に視える。
それも一つや二つではない。うっそうと繁った森のように、【魔力】を放つ何者か──おそらくは高位の魔族たち──がそこに群れているのが分かった。
魔王城はそこに違いない。
遠くに目を凝らすと霞みがかった先にそれらしき輪郭も見えた。
だがひとまず、それはいい。
それよりも今は、先に対処すべき魔力源の一団がある。
近くにいる。
数や魔力の大きさ、位置関係から考えて、先ほどのイノシシ男たちだろうと思われた。
俺が焦ったのは、敵の脅威そのものよりも、それらが視えすぎることだった。
こちらから視えるということは、向こうも同じようにこちらを感知しているはずである。
俺は周囲を見渡し、前方にいる一団や魔王城とは逆方向に向かって駆けだした。
【敏捷40】に慣れていたせいで、今の【敏捷5】はおそろしく鈍重に感じる。
だがこんなでも一応は今の俺にできる全力疾走である。
「ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……」
俺は身体や顔のあちこちを枝葉でこすり、生傷を作りながら茂みの奥深くに分け入っていく。
全身を草むらに隠し、うつ伏せになった状態で〈生まれ直しの石板〉を操りステータスを振り直す。
いちいち数値を上げ下げせずとも、〈ステルスモード〉のように登録しておいて、一発で選択できるようになっていると楽なのだが……。
*
──気が付くと周囲は暗闇の中に落ちていた。
すぐ近くで何者かが草葉を踏み荒らす音がして、それで俺は意識を取り戻したらしかった。
「ねえ、もう戻ろう? こう暗くちゃ足跡だって見つからないよ」
「だな。そもそも逃げ隠れしてる時点でそいつは魔族じゃあない」
「じゃなきゃニンゲンか? あれほどの【魔力】を持ったやつが?」
「一時的に【魔力】を上げる魔法を使ったのかもしれないよ?」
「だな。ヘニメメみたいにさ」
「なるほど。こけ脅しというわけか。それならそれで合点がいくな。俺はてっきり、幹部級の魔族がここに転移してきた直後に殺されたのかと」
「それなら余計に危険じゃないか。ねえ、パガスたちと合流しよう?」
「だな。俺たちじゃあ、とても敵わねえ。パガス以上の怪力に、シグルス様並みの腕前、それに魔法も使うときてる化け物なんだぜ?」
「いや、もしかすると侵入者は一人ではないのかもしれん」
「え、どういうこと?」
「俺たちが会ったあの男は、確かに強かったが、大岩を砕くほどの力があるようには見えなかった。あれはいわゆる、斥候ではないだろうか」
「ニンゲンたちは集団で攻めてきてるの?」
「分からんが、そもそもニンゲンというやつは単独行動をしない種族だと聞く」
「……だな」
「どっちでもいいよ。僕らだけじゃ洞窟には戻れないし、パガスたちに追い付くしかないよ」
「だなだな。急ごうぜ」
「うむ。魔王城に逃げ込んで……、いや、魔王様をお守りするために先を急ごう」
「…………」
ザザッ
魔族たちが去ったのを確認すると、俺はのそりと茂みから抜け出した。
なるほど。
つまり、彼らの後をつければ魔王城への最短路を教えてもらえるというわけだな。
グキュルルルゥ……
と、その前に。
〈無限の袋〉で何か腹に入れるものを探してからにするか。




