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下手な愛の告白よりも

作者: ガネコ

 彼を見ていると、自分のコンプレックスを目の前に突きつけられたような、そんな気分にさせられた。

 誰とでも物怖じなく話せて、人当たりがよくて、優しいけど困った時にはすぐ人に頼って迷惑をかけて、それでも許される彼。

 一方、人見知りで愛想がなくて、迷惑をかけないようにしていたら一人でも大丈夫だと思われて、他人に甘えるなんて絶対出来ない私。


 皆に優しい彼は私にさえも優しい。誰か一人離れていると優しく声をかけてくれる。一人で困っているといつの間にか気づいてくれて()()()()手助けしてくれる。

 いつもそんな彼を凄いな、と純粋に思う。しかし同時に苦々しい気持ちになるのは何故だろう。嫌いにはなれないのに、皆のように彼を好きにはなれなかった。ずっと苦手だった。


 何かされたわけではない。感覚的なものだ。それなのに、皆に好かれている彼を嫌ってると知られたら尚更自分が孤立しそうで、誰にも言えなかった。

 そもそも勝手で独りよがりな劣等感だ。彼本人への罪悪感ももちろんある。なので、必死に隠して接してきた。

 



 夏休み明け、午前のみで学校も終わり皆が消えた教室。偶然その彼と二人っきりになった。彼にとっての私は良くも悪くも単なるクラスメイトであるという印象だった、はずなのだが。

 今現在に限って何も話しかけてこない。いつもならあちらから何かしら話しかけてくれるはずの彼が話さないのでとても気まずい。

 実はこれまででもほんの一瞬の反応からもしかして向こうも嫌っているのでは? と思ったこともあるのでより気まずい。


 といっても、私から話す事も特になかったし、したいとも思わない。無言のまま時間が過ぎていく。私が帰らずに残った理由を考えるとますます思う。この人、早く何処かに行かないかな。


「内心嫌ってるよね、俺の事?」


 ふと向こうからそれは放たれた。普段と変わらない、でもどこか冷たいトーンで中身はなかなか彼らしくないもの。私は何故だか動揺してもいいところなのにいつも通り答えた。


「うん。ごめん。初対面からなんだかあなたのことが苦手。嫌いじゃないけど」

「……そっか。じゃ俺も。君の事、嫌いじゃないけど……なんか苦手」


 その後、彼と私はやけに正直に話してしまった。こちらも向こうも相当我慢してきたらしい。正直過ぎてさっき嫌いじゃないと言ったばかりなのに「やっぱり嫌い」だと口が滑ったほどだ。


 話の内容は双方の気に入らない、反面憧れている点について。

 彼は大して器用でもないくせに一人でなんでも出来る風に振る舞う、お高くツンとした私を見ていると癇に障るらしい。

 人に頼らないと何も出来ないのか。役立たずめ。そう目で言われているように感じるのだとか。実際そこまでではないにしろ似たようなことは思っていた。


 あまり空気を読まないタイプかと思っていたが、こんなに洞察力があったのだと感心した。多分天然だったり空気を読めてないふりをして責任を負わないようにしていたのだろう。

 こっちもぶっちゃける。優しさの押し売りは楽しいのか、と。いいよね、結局何も出来なくてもその押し売りのおかげで許されるって。尻ぬぐいは他人にやらせている自覚はあるみたいだね、等々思っていたことをぶつけた。

 

 外は目に染みるほど明るくて、馬鹿みたいに爽やかな青空なのに、この教室ときたらこんなにギスギスしている。だが、このどこか爽やかな空気が影響してか、内容の湿度をあまり感じないまま双方言いたいだけ言い合えた。

 ……そういえば、ここまでして待っているのに私に用事があるという相手はまだ来ない。もしかしたら来たものの、この異常な状況に怖気づいて逃げ出したのかもしれない。

 その方が好都合なんだけどね。興味なかったし面倒だ。何なら目の前にいる相手の方が私をよく見ていて理解しているだろう。


「……あー、なんかスッキリしたんじゃない?」

「そうだね。しくじったかと思ったけど意外にスッキリした。夏休み明けだからかな? 二人きりだし。ちょっといつもと違う雰囲気でオープンになったのかもね。 ……なぁ、普段から素直に生きた方が良いよ?」

「えっ、嫌だ。もし素直に生きて何か問題になったら、そういう時はあなたって助けてくれないで傍観するよね。それなのによくそんなこと言えるね?」

「んー。一応助けるフリはするよ? まぁ、アドバイスするとしたら本音を言う相手は選ばないといけない、ってところかな」

「選ばないと、ってさぁ。今はどうなの。こんなところで私と本音を言い合うなんて思ってなかったでしょ?」

「思ってなかったけど、世の中流れってのがあるし」

「じゃあ、もう一個本音。……今の流れ、下手な愛の告白よりドキドキした」

「なにその例え? まぁ俺もそうかも。まさか嫌ってるのも羨ましがってるのも、馬鹿正直に包み隠さず話してくるとは思わなくて。なんか、言い方悪いけど興奮した」

「興奮、といっても恋愛感情じゃないよね」

「うん。例えるなら吊橋やお化け屋敷みたいな……。あ、勘違いされても困るから言うけど俺、別に好きな人いるから」

「は? こっちも拒否反応出るほど苦手で嫌いな人にそんなの、ないよ」

「だよね、俺もない」

「勝手に一人で盛り上がって……よく知りもせずに人を好きになるようなのと同じくらい、ないよ」

「……ん? もしかして君がここに残ってた理由って」


 しばしの間の後、二人でくすくす笑い合う。まだ新学期は始まったばかり。学校で彼とは毎日顔を合わせる。

 内心それが少し嫌だったのに、なんだかそれが今となっては少し楽しみでもある。もしかしたら嫌われてるのかともやもやしているよりは、嫌っているとはっきり言ってくれてなんだかんだ語り合える相手だと知れたのは大いに楽になった。


 そういえば、彼は何で教室に残っていたのだろう? ……まぁいいか。私の好きな相手ではないんだから。

 傍から見ると今日は彼と悪口を言い合っただけに過ぎない。でも、大して知りもしない、どうでもいい相手に愛の告白をされるよりもずっとずっと有意義な時間を過ごせたに違いない。

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