白の問
どうせ独りだと思っていた。生まれたって変わりはしない。そういう運命の下にいるのだと、いつしか自分を責めた。高望みはするだけ無駄だ。どうせ長くは生きられない。ならばいっそ生まれなくても――。そう思うほどに。
「――遅い」
「すみません。少しばかり掃除をしていたらこんな時間になってしまって」
ほけほけと笑う青年は、少女とは真逆の純白に身を包んでいた。髪の毛も瞳も色素が薄い。十人が十人、儚げな印象を持つだろう。苛立つ少女をあやすようなやわらかな言葉遣いが、さらに青年の印象を確かなものにする。
青年が少女の頭にぽんと手をおくとようやく、少女が反抗をやめる。まるで兄に甘える妹のようだ。
大人しくなった少女に微笑みかけたところで、俺に目を向ける。
「向き合えたみたいですね、自分自身と」
ふいに懐かしさがこみあげてきた。それは温かく包み込んでくれるような、まだ見ぬ母の姿と似ていた。
いまだに涙は止まる気配をみせない。それどころか勢いを増したようにさえあった。そんな俺に、青年はさも申し訳なさそうな顔をした。
「……貴方にはつらい選択をさせました。しかし、わたしにはそれを助けてやることが出来なかった。わたしは貴方一人だけを特別扱いすることはできません。それはこの世界の理に触れてしまう。だから、わたしの半身に手伝ってもらったのです」
「なに、つけは後でしっかり払ってもらうゆえ。案ずることはない」
そうですね、と青年は苦笑をもらす。ほんわかとした彼に、少女は機嫌を損ねたらしく腕を振り払った。
「もとはと言えば、こいつが勝手に生を拒んだのが悪いのだ。多くの人間を見てきたが、生前にあの門を出させたのはこいつぐらいだぞ?」
「ですが、助けてくれたでしょう?」
「それはっ……。お前に貸しのひとつやふたつ作ってもわたしに損はないからだ」
「正直に可哀相で見ていられなかったとおっしゃればいいのに」
「黙れ! そもそもお前が頼んだのだろうが!!」
青年ははいはいと再び少女の頭を撫でる。そして、俺に向き直った。
「さて、そろそろ時間のようですね」
辺りが光に包まれる。もちろん、俺の周りだけだ。
「その時」がきたのだろう。「俺」という存在が生まれる時が。
「最後にひとつだけ、訊いてもいいでしょうか?」
俺は無言で肯定した。声を発することすら恐れ多い気がしたからだ。多分それは、おかしなことではない。彼こそ万物の主であり、少女の半身という神なのだから。
「生きたいと、思いますか?」
そんな答え、もう決まっている。