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第九十六話 おじゃる親睦会

それから疋田は将軍様やボコったハズの近習の者に請われ、頻繁に二条御所の朝の修練に通うようになった。一度「前例」を作ってしまうとそれ以降は何故かすんなり受け入れられるようだった。

もちろん俺はそんな疋田にボコられたくもないので極力逃げた。なんかあいつ普段思うところがあるのか容赦ないんだもん。


そしてそんな誘いを断るのに丁度良い理由が降ってわいた。俺は近衛のハウスに呼ばれる事が多くなったのだ。

理由はちょっと下世話な話になるが初回のような酒を出せないので土産代わりに二~三貫程度を心づけとして渡してしまったのだ。これがおじゃるの餌付けになってしまったようで毎日のように呼びつけられる事になった。マジで暇なのか?金がないのか?それとも両方なのか?

疋田の竹刀にしばかれるよりもマシだとは思うが愚痴やら自慢話やらを聞かされる毎日だった。

そんなわけでわりと毎日のように近衛ハウスに通って時間を潰…親睦を深めていた。最近はお茶も出るようになってきたが、こちらはこちらでなかなか地獄であった。


「ちょりーす」


「なんじゃその挨拶は、尾張言葉かえ?」


「まぁそんなところでございます」


そしてこのおじゃるの話を聞いていると勉強になる事もある。俺の知らない現代?情報が入ってくるのだ。

関東管領だとか北条だとか武田だとか、俺も聞いた事のある名前がチラホラ出てくる。まぁ有名人の知り合い自分スゲーをしようとしているようだった。


公家である近衛のおじゃるはどうやら『力』に対する憧れを強く持っているようだった。その憧れへの真似事をするが…どうにも覚悟が足りない、そんな「なんちゃって」感が滲み出ていた。


話を聞いてもどうにも戦況を読み間違えていそうだし打って出るところで出ていない決断力がないわで散々なように思えた。付き合わされている関東管領さんも大変だな…などと思ってもそんな不敬な事を口に出して言えるものでもないので「アー」とか「スゴイッスネー」と適当に相槌を打って誤魔化していた。


そんな関東管領さんアゲーとは裏腹にたまに出る従兄弟である将軍様…足利義輝に対してはなんだか随分複雑な想いを抱いているようだった。


従兄弟あしかがよしてる殿はなぁ…どうにも不甲斐ないのよな。剣の腕はのう…そりゃ麿の目から見ても素晴らしいものであった。じゃがいくら剣の技量が高かろうが武家を纏める器としてどうにも小さい」


俺の目から見ても京に戻る為にと磨かれた将軍様の剣の腕は本物だった。疋田には一方的に三本取られていたが、アレは相手が悪い。だが研鑽を積み重ね弛まぬ努力の末に辿り着いた剣筋である事は俺でも理解出来る。

だが結局将軍として京に戻って来れたのは戦に勝利したからではなく政治的な理由だったようだ。

常識的に考えて将軍様御自ら剣を振るって敵兵を千切っては投げ無双する事なんてありえないだろう。幸か不幸か研鑽した自の剣が役に立つことはなかった、きっと今後ともないだろう。将軍様からしたら不本意な部分は少なからずあるだろう。だがそこで腐らず将軍としての責務の果たそうとしている。

俺はそんな彼と短い時間ではあったが話をして少なからず尊敬の念を抱いていた。

…歴史の教科書に載せとくべき人物なんじゃないかね?


しかしその関東管領さんとやらより、この武に優れ武を纏める足利義輝こそが近衛前久が憧れる姿なのではなかろうか?


「じゃが剣を振るうのと政を執り行うのは違うものにおじゃる」


「左近衛中将様は今まさに各地の戦の仲裁を積極的にやって太平の世を作ろうと努力しておいでなのでは?」


「戦を止めよと言うだけではいかん、余計な妬みまで買うものにおじゃる」


なんか一々めんどくさい文句つけてくんなこのおじゃる…


「どうも従兄弟殿は今も昔も拙速が過ぎる、悪い所じゃ。物事はただ止めれば良いというものではない。双方のわだかまりを抑えるためにも周辺の派閥への根回しも必要なものじゃ」

「そういう細やかな心遣いがどうにも足りないように思い心配なのでおじゃる」


なんだか現実的な忠告なのか陰口なのか、やたらと口数が多くなった。おじゃるもそれに気が付いたのか暫し無言になり無理やり話を変えてきた。


「…姉上を嫁がせたが、姉上も良くしてもらっておるようでおじゃる」


どうやらおじゃるも言い過ぎた自覚があるのか話題を変えて将軍様の良い所探しをしているようだ。


「まだ男子こそ生まれてはおらぬがあの鬼…厳しい姉上のあのような優しい笑顔を見たのは何時振りか」


オニ…?なんだ?


「従兄弟殿は根が真っ直ぐで善良なのじゃろう…じゃが世の中には人の皮を被った魑魅魍魎がなんとも多いものよ、麿はその邪道の輩の汚い横槍が心配での」


そう言うとおじゃるは扇子をパチンと鳴らした。その表情は楽しくも晴れやかでもなく、何処か困ったような表情だったが関東管領の話をしていた時には無かったなんとも人情味に溢れる表情だった。

近しい間柄だからこそ文句も出てくるのかもしれない。


「それはその…足りない部分を補えるお力がある方が支えてあげるがよろしいのでは?」


まぁ結局危ない橋を渡っていると思うのならそれを忠告したり助けたりしてあげれば良いワケで、というか文句あるなら助けてやれよ。


「何を言っておじゃるか!そのような面倒事をわざわざ好き好んで被るような物好きなどおるものか!」


なんか怒られた。コイツいらん場所に顔を突っ込むクセに面倒事に顔突っ込みたくないとかぬけぬけと…なんだか滅茶苦茶イラっとしたが面倒なので綺麗に纏める魔法の言葉を口にする。


「ですが存外近衛卿も左近衛中将様を憎からず思っておられますようで安心致しました」


これにはおじゃるも嫌な顔をするがまんざらでもないのか渋い顔に少しの笑顔を含んでのたまった。


「付き合うてみると案外不甲斐ない男でおじゃるぞ?」


お前がそれを言うな。

俺は心の中で突っ込みを入れた。

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