表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colourless  作者: 白い人
9/31

6話 めいちゃん かぞく

 夢を見た。

 迷子の女の子を助けた時の記憶。

 あの子はよく泣いていた。

 犬にべったりで抱きついて進んだ。

 でも、俺の手はしっかりと握られていた。

 家に着いたら、お母さんが駆け寄った。それからお父さんも。

 幸せな家族に魅せられた。


 また寝ていた。最近、不規則な時間に寝てしまう。

 夢の内容はくだらない記憶。

 この間の子どものことがいまだに忘れられないということか?

 ああ、情けない…。

 俺は何も変わってなどいない。

 一度決めたことさえ、やり遂げられないのか。

 世界の失色(カラレス)はもう始まっているのに…。


 ー


 女の子が書いた絵。

 男性と女性が中良さそうに手を繋いで、男性の頬に女性がキスをしている。

 その絵は、赤、青、緑、黄、桃、橙、紫、茶、白、黒、たくさんの色で塗られていた。


 *


「知らないおうちになってた?」

「うん。」

「これはめいちゃんのお家?」


 背後の家を指差して尋ねる。


「しらないおうち。」


 即座に答えためいちゃんはうんざりした顔。

 もうそろそろこの会話をやめたいんだろうな。

 なかなか理解しない俺に呆れているのかもしれない。


「いつからそう思ったの?」

「えっと、きのう?…の、きのう?」

「昨日の昨日…。」


 一昨日ということだろう。

 一昨日といえば…俺は犬と飯食ったな。それで、透明缶を拾ったな。


「わたし、まいごなの。」

「え?」

「おうちをわすれたわけじゃないのに、まいごになっちゃったの。」

「……。」

「わたしのおうち。どこにあるのかなぁ。」


 シロを撫でながら、めいちゃんは遠くを見つめた。

 泣いてなかった。

 声を聞いた時、泣いてるんだと思ってしまった。


「おかあさん、おこってないかなぁ。」


 俺が泣きそうになった。

 なぜかは分からない。凄く…胸が痛い。


 ガチャッと玄関扉が開いた。

 俺は振り向き、めいちゃんは真逆を向いた。首を上げたシロはめいちゃんに視線を向けた。


「どうしたんですか、その顔は?」

「え?」

「泣いてるのに気づいてないんですか?」

「え!?」


 訂正、俺泣いてた。ポロポロ涙が出ているのに気づいた時鼻水が出た。

 みんな俺の顔を見てる。

 は、恥ずかしい。


「すごい顔ですね。笑えますよ。」

「ふ、ふくもにょ、ありゅ?」ズビッ

「タオルでいいですか?入ってると思いますよ?」


 (あきら)ちゃんは俺が背負ったままの袋を開けて、中からタオルを出してくれた。


「あ、裏面を使ってください。シロの足を拭いたやつなので。」

「ああい。」ブビビー!

「何があったんですか?」

「わかんない。おにいちゃんどうしてないてるの?」

「俺も分かんない。気づいたら泣いてた。」

「へんなのー。あははは。」


 めいちゃんが笑った。それを見てまた涙がこぼれた。

 どうなっちまったんだ俺の目!?




「で、中はどうだった?めいちゃんの家?」

「はい、確かにめいちゃんの家みたいですね。」

「そうか…」

「ただ、気になる点も見つけました。」


 (あきら)ちゃんは小声で話す。


「気になる?」

「それが…」


 (あきら)ちゃんが何かを言いかけたところで突然それを遮る声がした。


「めい?帰ってたの!?」


 女の人の声だった。みんながその声の方を見た。

 女性が道の真ん中に立っていた。痩せっぽくて、幸薄そうなお姉さんだった。


「おかあさん…」


 その女性を見てめいちゃんが小さな声で呟いた。

 かいとくんもその人物を知っているようで、興奮して女性に話しかけた。


「めいちゃんママ!めいちゃんがかえってきたよ!」


 女性は駆け出した。めいちゃんの元に。

 めいちゃんは立ち上がって、その女性が来るのを待った。

 女性はめいちゃんを抱きしめた。

 二人の言葉はどちらもこの女性がめいちゃんの母親であることを指している。

 ということは目の前の人物は娘を抱きしめる母親という証明だった。


「何処いってたの!心配したんだから!」

「…ごめんなさい。」


 母親は涙を流した。

 めいちゃんは…悲しそうな表情ではあるものの泣かなかった。心配していた母親を落ち着かせるように謝った。

 かいとくんが母親に向けて話す。


「あきらさんたちがつれてきてくれたんですよ!」


 母親が俺たちを順々に見て、涙を拭き取りお辞儀をした。


「ありがとうございます。娘が急にいなくなってしまって、近くを探していたんです。なかなか見つからなくて…。この子は何処に居たんでしょうか?」

「えっと…あの道をまっすぐいった先で迷子になっていたようで、俺…僕の家を偶然通った時、見つかったのかな?」


 俺がさっきの霧の道の方を指して説明しようとして、なんていえばいいのか分からなかった。めいちゃんを見つけたと言うか、めいちゃんが自分からやってきた、と言った方がしっくりくるんだけど。

 そこで(あきら)ちゃんが説明役を代わった。


「…娘さんがこの人の家の呼び鈴を押したらしいです。

 家が何処か分からないと娘さんが言うので、困ったこの人は、知人の私を呼び、うちの愛犬と二人で娘さんの家を探すことにしました。

 娘さんが通ったという道を辿ってここまで来たのですが、ここはめいさんのお宅でしょうか?」

「はい!中島めいの家で間違いありません。私は母親の(かおる)と言います。うちの娘がご迷惑をお掛けしました…」

「めいちゃん、お母さんで間違いないですか?」

「…うん。」

「……。」


 めいちゃんは俯いて返事をした。それを見ても俺は何もいえなかった。

 (かおる)さんが遠慮がちに聞いてきた。


「…あの、夫にも連絡をしても構いませんか?」

「もちろんどうぞ。」

「ありがとうございます!」


 すぐさま(かおる)さんがズボンのポケットに手を突っ込んだ。中から取り出したのは長方形の薄い機械?

 (かおる)さんが平面を指で撫でた後に耳に当てた。そして俺たちに目配せをしてから離れた場所に移った。


「あなた!めいが見つかったわ!今すぐ帰ってきて!」

『………!…………!!』


 (かおる)さんが機械に向かって話している。電話の一種なのだろうか。俺は見たことがない。

 機械をポケットにしまった(かおる)さんが戻ってきた。


「すぐに夫が帰ってきますので、何かお礼を…」

「あ、いえお礼は結構です。ただ聞きたいことがあるので、旦那さんも帰って来られるのを待ってもいいですか?」

「もちろんです。中へどうぞ。」




 俺たちは家の中でめいちゃんパパを待つことになった。シロは外で待たせようと(あきら)ちゃんが言うと、めいちゃんがそれに駄々をこねた。渋々(かおる)さんに了承をとり、居間で待つことに。(かおる)さんが入れてくれたあったかいお茶を飲みながら…。


「すいません。大人しくさせますので。」

「いえ、うちの娘がお願いしたことですもの、全然構いませんよ。それより夫が帰ってくるのが遅くて…。何処まで行ったのかしらあの人…。」


 その時、玄関からガタンと音がした。ガチャ、ガチャガチャ。少し間をおいて、ザグッ、ガチャン。キイーと順々に音が鳴る。


「めい!何処だー!」


 男性の声。そして、ドタドタと駆け回る足音。なぜか遠ざかったように聞こえる。(かおる)さんが居間を出て呼びに行った。

 数秒後にドドドと駆け寄ってくる音がして、バンッと居間の扉が開かれた。


 男性は(かおる)さんと歳近そうで、痩せぎすな見た目をしていた。

 部屋中を見渡して、めいちゃんの姿を捉えると、一目散に駆け寄った。

 ただ居間はそこまで広くない。ましてや、俺たちが道の邪魔になっている。避けて進むが机の角や椅子の足にぶつかって進んだ。ガンッてぶつかって痛そうなのに止まらなかった。

 男性はめいちゃんを抱きしめた。


「良かった…無事で良かったよぉぉ!!」

「おとうさん、いたくないの?」


 やっぱりめいちゃんパパだった。

 めいちゃんパパが泣き出した。

 めいちゃんはぶつかったことを気にする。


「こんなのぉ、めいがいなくなることに比べたら、へっちゃらさ!!よく帰ってきたなぁ!!」

「おとうさん、くるしい。」

「ああ、ごめんごめん。めい、心配したんだぞ?」

「…ごめんなさい。」


 めいちゃんパパが抱きしめる力を緩めて、めいちゃんを見つめた。めいちゃんはその目に気づいて、俯いて謝った。

 その時、(かおる)さんが居間に入ってきて、めいちゃんパパに言った。


「あなた、周りを見て!」

「ん?この人たちは誰だい?」

「その方達がめいをここまで連れてきてくれたのよ!」

「なに!?そうだったんですか!」


 ようやく、俺たちの存在に気づいた。本当に気づいてないとは思ってなかった。目があったので自己紹介をした。


「あ、お邪魔してます。椋梨(くなし)(ともえ)と言います。娘さんを最初に見つけた…?者です。」

「ああ!私は中島(なかしま)(てつ)と言います。娘を見つけていただき本当にありがとうございます!ここまで連れてきて下さるとは…」

「その人は、たまたま娘さんが呼び鈴を押したことで巻き込まれただけの人です。あわや誘拐犯になりかけた人ですよ?」

「ゆ、誘拐!?」


 (てつ)さんはその言葉を聞いて一瞬で顔を変えた。

 すっごく睨まれた。怖かった。


「違います!?誤解です!ちょっと(あきら)ちゃん、変な説明するのはやめてくれ!」

御見透(おみとお)(あきら)です。この人が私の家まで娘さんを拉致してきまして、更生させるために一緒に謝りにきました。ごめんなさい。」


 とんでもないこと言い出した。何かが(あきら)ちゃんの逆鱗に触れたのか、頰が膨れてるように見える。

 なんでぇ?

 (てつ)さんが胸ぐらを掴んできた。


「君!うちの娘を誘拐しようとしたのか!」

「本当に誤解です!確かに真っ先にここに連れてこなかったのは謝りますけど…その犬を見るまで話してくれなかったんです!」


 俺はシロを指差して抗議した。まさか、ここでまで冤罪をいじられるとは思わなかった。

 (あきら)ちゃんは何に怒っているの?言ってくれなきゃ分からないよー?俺頭良くないんだから!

 (かおる)さんが止めに入ってくれた。


「落ち着いて、あなた。(ともえ)さんはそんなことをしそうな人ではなかったわ。多分冗談よ。」

「そうなのか?本気にしてしまったよ。」


 グッジョブ(かおる)さん!

 よくぞ、(あきら)ちゃんの嘘を見抜いてくれました!むしろ、私の方が被害者です。この小悪魔は私をいじめる悪い奴なんです。

 なんてことはもちろん口に出さない。言ったら、(あきら)ちゃんはもっと酷いことをしてくる。根は優しいように見えて、それも計算なんじゃないかと思っています。


 (かおる)さんが、(てつ)さんにお茶を渡した。

 それはとてもいい香りのハーブティーだった。


「ほら、これを飲んで落ち着いてちょうだい。お礼しなくちゃいけない立場なのに、怒ってしまっては礼儀知らずよ。」

「そうだな、ありがとう。」


 一息に飲み干した。飲む前も落ち着きを取り戻していたように見えたが、飲んだ後は雰囲気がガラリと変わった。


「申し訳ありませんでした。」


 と、深々とお辞儀をされた。ええ!?


「娘が朝から居なくなっていること気づいて、2人で探し回ったんです。目ぼしい場所は大体探し終わって、誘拐されてしまったんでは無いかと考え始めていたところに妻から連絡があり、急いで帰ってきて気が動転していました。恩人を勘違いで侮辱してしまうなど…大変失礼しました。」

「いえいえ!分かっていただけましたら大丈夫です。逆に娘さんが本当に心配されていることが身にしみて伝わりましたから。」

「お恥ずかしい限りで…一人娘で甘やかしていたことがわかり、親としてもまだまだ未熟ということを実感させられました。」

「そこまでは…めいちゃんはまだ幼いですから、なるべく目を離さないようにしてあげてください。」

「ご迷惑をおかけしました。」


 またお辞儀をされた。


「本当に(ともえ)さんたちが連れてきてくれなかったら、事故に巻き込まれていたかもしれないし、本当に助かりました。」


 (かおる)さんもお辞儀をした。

 事故か…転倒したりするのは確かに危険だ。

 道中も走って転びそうになってたしな。

 子どもはいろんなものにつまづく。

 大人は見えてるものにつまづく。

 人はいつになったら、つまづかなくなるんだろう。


「何かお礼をしないといけませんね。何がいいやら…」

「あ、お礼なんて構いませんよ。ただ聞きたいことがあるみたいでして…」

「なんでもどうぞ、聞いてください。」

「だって、(あきら)ちゃん。」


 (あきら)ちゃんは座っていた椅子を後ろに引いて立ち上がった。


「3つ聞きたいことがあります。

 1つ、かいとくんは近くに住んでいるんでしょうか。

 仲がいいのは構いませんが、めいちゃんと同年の子を家に一人留守番を任せるはどうかと思うのですが…。」

「あ、かいとくんは近くに住んでます。

 親同士仲がいいから、ちょくちょく家に遊びにきてくれるんですけど、留守番を任せたわけではありません。

 めいがいなくなって真っ先に連絡したのが、かいとくんのママでして、もしかしたら遊びに行ったのかもと思いまして…。

 多分その時、聞いてしまったんじゃないかと。」

「それで、めいちゃんの迷子を聞きつけたかいとくんが家に来たと。そして、運悪くあなた達とすれ違ったかいとくんは家の中に入ったと。家の鍵はどうしていたのでしょうか?」

「めいには持たせていないので、開けていきました。それで、中に入れたのだと思います。ね?」


 (かおる)さんがかいとくんに尋ねると、あっさり答えた。


「うん。あいてたから、いえのなかをさがしたよ。ぼくもめいちゃん、みつけたかったから。」

「不用心ですね。良からぬ人間が侵入してしまうかもしれませんよ。私が善良でよかったです。」

「え?」


 そういや、他人の家に入って行ったな、この娘。

 もしタイミング悪かったら、住居侵入で訴えられてたな。

 てか、今もその可能性があるのは考えているのだろうか。


「おほん、2つ目の質問です。」


 あ、誤魔化した。無かったことにしようとしてる。


「めいちゃんはいつもあのような感じなのでしょうか?」

「どういうことですか?」

「わかりやすく言えば、おとなしい子なのでしょうか?」

「いえ…普段はもう少し、元気と言いますか、明るい方だと思います。」

「そうですか、分かりました。」

「??」


 今の質問で何が分かったんだろう。めいちゃんが今テンションが低いのは本人が言ったことが原因だろう。でも、それを(あきら)ちゃんにはまだ伝えていない。

 まさか、めいちゃんの今の心情を理解したとでもいうのか?

 なんの説明もないまま、最後の質問に移った。


「3つ目、これに似た透明を見たことはありますか?」


 (あきら)ちゃんがポケットから透明缶を出して、二人に見せた。二人はそれを不思議そうに見た。かいとくんも一緒に見ている。


「ビー玉が浮いてるの?」

「いや透明な瓶にビー玉が入っている、のか?」

「それにしては角が見えないし、変ねぇ。」


 (あきら)ちゃんはそれを振った。カンカンとビー玉が音を鳴らす。


「この音はガラスじゃないな。アルミか?」

「そうです。これは、アルミ缶が透明になって、中にビー玉が入ってるんですよ。」

「「ええ?」」

「どうなってるのー?」


 二人が(あきら)ちゃんの説明に驚いた。かいとくんは興味津々でビー玉を見ている。


「原因は分かりません。ただ、これと似たものをめいちゃんが見たそうなんです。心当たりはありませんか?」

「いえ、特には…」

「私も知らないな…めい本当に見たのか?」

「…おおきくて、おうちみたいのをみたの。」

「ぼくもしらない。めいちゃんほんとー?」

「……うぅ、もういい!」

「めい!」


 ダッと駆け出して、居間を出ていった。

 すぐさま(かおる)さんが追いかけた。玄関が開く音はしなかったが、なかなか帰ってこなかった。


「すいません、わがままで…」

「いえ、子どもらしくていいですよ。」


 (てつ)さんが頭を下げた。それに答える(あきら)ちゃん。俺はやっぱり何も言えない。だが、そこでふと疑問が浮かんだ。それを(てつ)さんに聞いてみる。


「俺からも質問いいですか?」

「はい、どうぞ。」

「めいちゃんって、ここ最近で頭を打ったりしていませんか?」

「どうでしょう…。ぶつける程度ならなくもないですが、大怪我をしたことはないです。それが何か?」

「それでは、物忘れはどうでしょうか。知らないと言い出したりとか。」

「特には…。今日は突然家を飛び出したので、それ以外はいつも通りだったような…。」

「…そうですか。」


 めいちゃんがやっぱり嘘をついて、もしくは何かを隠して伝えようとしているのか。やっぱり俺の頭では分からない。


「質問は以上です。私たちはそろそろお暇しましょうか?外も暗くなってきてますし。」


 見れば、窓の外は茜色になっていた。思ったより長くここに居たらしい。


「そうだね。すいません、お邪魔しました。」

「なんの、またいらしてください。めいのお友達ができたようですし。」

「わん!」


 (てつ)さんの言葉にシロが返事をした。

 その時、居間のドアが開いて、めいちゃんを抱き上げた(かおる)さんが入ってきた。


「玄関までお見送りします。」




 家を出る時、不思議な感覚がした。いや、これは匂いか。ハーブの匂い。家に入る時も感じたんだよな。

 玄関の周囲を見渡した。

 あったあれだ。

 そこには花瓶にピンクの花のローズマリーが生けてあった。


「それ、かいとくんが取ってきてくれた花なんですよ。めいが貰って大喜びして。以来、持ってきてくれるようになったんです。可愛いし、いい匂いがして落ち着くので他の部屋にも飾ってるんですよ。」

「へぇ、確かに可愛いですね。」

「…おにいちゃん。」

「ん?なに?」


 靴を履いて立ち上がったら、めいちゃんが話しかけてきた。手には四角い何かを持っている。

 それを手渡された。


「これあげる。なくさないでね。」

「え、これは。」

「ローズマリーの押し花で作った栞なんです。」

「あ、ほんとだ。」


 裏を見ると、生花と同じ花がそこにあった。あ、こっちが表かな?


「またきてね。ぜったいよ。」

「分かった。」


「忘れないでね。」


 最後の言葉は聞き取りづらくて小さかった。

 言葉を返すことはできずに、俺は玄関を出てしまった。


 扉が閉まるまで、めいちゃんが小さく手を振っていた。


 ガチャリと鍵が閉まった。




 家を出てから、俺たちはまだ家の近くにいた。

 帰る前に聞いておきたいことがある。


「ねえ、(あきら)ちゃん。」

「なんですか。」

「あの家で何を見つけたの?」

「気になりますか?」

「そりゃあね。あの質問なんだったのさ、二つ目のやつ。」

「ああ、それですか。」


 (あきら)ちゃんは笑っていた。


「あんなの意味のない質問ですよ。めいちゃんが沈んでいたので、親なら理由がわかるのかなと思っただけです。」

「叱られて落ち込んでいたとは思わなかったの?」

「お父さんが先に抱きついたならそう思っていたかもしれないですね。でも、お母さんが先に現れたでしょう?」

「うん。」

「あれだけ、会いたがっていた母親との再会に、めいちゃんは嬉しそうな表情に一度もなりませんでした。どうしてなんでしょうね。」

「そ、それは…。」


 (あきら)ちゃんの観察眼がすごかった。俺は感動シーンと思って見ていたのだから、馬鹿みたいである。

 今度は(あきら)ちゃんのほうが聞いてきた。


(ともえ)さんこそ変な質問してましたよね。記憶喪失を疑ってるような。」

「気づいてたの?」

「あの聞き方は変でしたよ。気になりましたもん。でも、いいことも聞けました。」

「なにが?」

「めいちゃんはあの両親に隠しているんでしょうね。

 自分が二人のことを忘れていることを。

 しかも完全に忘れているんじゃなくて、何処かが記憶と違うと言った感じでしょうか。

 かいとくんに対してあれだけ抗戦的だったのに、両親が出てくると静かになった。

 (かおる)さんを見て、第一声が《おかあさん》ですからね。(てつ)さんのときも同様でした。

 二人がめいちゃんの両親であることは疑いませんでした。」


 やっぱり(あきら)ちゃん、探偵役が似合いすぎる。

 観察眼と洞察力がハンパないって。でも、それを確信に至る証拠がない。それは…


「まあ、めいちゃんが私たちの気を引くために嘘をついたという可能性もなくはないんですが。」

「………。」


 俺はめいちゃんを信じると言ったのに、根っこでは疑っているのか。嘘つきは俺じゃないか。


「ところで、私があの家で見つけたものの話でしたよね。」

「ああ、そう。」

「それはですね、かいとくんです。」

「ん?どうゆうこと?」


 めいちゃんの家で見つけたものなのに、それは人だし、めいちゃんの友達だったろ?


「かいとくん、めいちゃんの家だと証明するために私を家中、案内してくれたんですよ。」

「……ん?」

「いろんなものを見せてくれました。めいちゃん家族の写真アルバム、それぞれの部屋、何がどこにあるかを全部教えてくれたんですよ。」

「ん?ん?ん?」

「ローズマリーのことも教えてくれましたよ。(かおり)さんが後で証明してくれたので嘘じゃありませんでした。」

「ねえ、それって…」

「5歳の男の子が、他人の家中の情報を網羅している。怖くありませんか?」


 やっぱり、そう言いたいのか。でも、それは…


「はい、しょっちゅう家に遊びにきていれば、ある程度知ることは可能でしょうね。ただ…」

「ただ?」

「家に誰もいないと知りながら、かいとくんはあの家で誰を探していたんでしょうね。」

「そういう言い方やめて、マジで怖くなってきたから。」


 かいとくんの謎が深まった。いやあの子は女たらしの性がある健全な男の子だ。少し早いぐらいがあの子の取り柄なんだろう。そう思おう。


「とりあえず、帰りましょう。もう日が落ちてしまいます。」


 帰るということはあの霧の道を通るということ。ということは?


「どうする、手、繋ぐ?」

「あ。」


 手は繋がなかった。代わりに二人でシロのリードを持った。

 霧の道は帰りでは一瞬で通れたような感じがした。




 

 読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ