表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colourless  作者: 白い人
27/31

17話 古草 鈴 の 違和感

 失色(カラレス)が街を染め変えていく。


 この街はあちらこちらで見かける張り紙が増えてきた。


「探しています」


 その一文だけを残して、他は何も書かれていない。写真も文字も見えなくなってしまったから。


 行方不明者の数は増えていない。捜索願は受理される前に白紙になる。

 誰もいない民家、空の犬小屋。空いた平日の電車。closedのままの人気店。


 失色(カラレス)に罹ったものはその存在が消え、空白が残り続ける。その空白は世界の常識に塗り替えられる。


 元々空き家。いつ建てたか誰も知らない小屋。満員なんて起きない朝の電車。昔閉店した誰も知らない店。


 残された人々は、それが普通だった。


 普通が壊れていた。


 空いた隙間を見て立ち尽くす人。

 じっと空を見つめる人。

 閉まっている店の前で時間が過ぎるのを待つ人。

 同じ電車に乗り続けている人。

 何かを探し続けて歩き回る人。

 家に帰らず、公園で寝る人。

 首を傾げ、何度も同じ場所にやってくる人。


 失色(カラレス)は世界を作り変えている。

 まだ終わっていない。

 誰も気付かない遥か上空で何かが揺らめいた。


 ー


 今日来たお客の話。

 常連の女の子。いつも髪括ってる子。

 コーヒー飲んだらちょっとうるさくなるあの面白い子のことな。

 久しぶりに来たなって思ったら、前よりも大人しくなってて、なんかちっこくなってた。髪も下ろしてて伸びた髪が垂れてて貞○かって見た目。

 話聞いてやろうにもなかなか喋んなくて、結局聞け出したのは、友達作りに失敗したんだってこと。それと自分の声が嫌いになったんだって。

 俺うまいこと言えなくて、でも少しだけでも元気出してほしくてコーヒー出したらさ「苦い」って笑いやがった。

 その後すぐ帰ったけど、出る時に長袖の間からあのヘアゴムが見えたんだ。

 隠してるみたいだった。子供っぽいあの髪型、案外似合ってて悪くなかったのにな。


 その子はまた来てくれてるか?


 *


「あかりちゃ………ん」


 突然現れた女性。そしてその人を見て固まる(あきら)ちゃん。か細い声は、先ほどの話に出ていた親友の名前を呼んでいた。


「あかりちゃ、ん?この子の名前ですかー?」


 女性はシロを撫でながらゆっくり名前を反芻する。しかし勘違いをした。シロがそう呼ばれているんだと

 その様子を見て、(あきら)ちゃんは何も言えずに黙り込んでしまう。


「…………っ」

「あ、勝手に撫でてしまったー。すいません」


 謝ってはいるものの撫でるのを止めようとしない女性。

 女性の反応が何処かおかしい。(あきら)ちゃんは女性を見て名前を呼んだ。対して女性はシロの名だと勘違いし、(あきら)ちゃんに対して他人行儀だ。

 話の中のあかりさんは、塞ぎ込んでしまったという。しかし目の前の女性にそのイメージはなく、声も見た目も明るい。シロを撫でる時の笑顔は暗さなど微塵も感じない。

 もしや、俺と紅陽(こうよう)さんのような何かが起きているのかもしれない。


 俺は自分の身の記憶喪失と似たような何かを紅陽(こうよう)さんに感じている。だってこっちには5日前に会っていた記憶がバッチリあるのに向こうは俺の存在自体を忘れている。そんな悲しいこと認めて良いはずがない。どちらかがそういう病気に罹っていたという想像ですら受け入れづらい。

 あの一瞬は冷たく恐ろしい何かに襲われた気分だった。


 しかしその予想は幸か不幸か外れることとなる。


「鈴ちゃん。今日も来てもらってすまないね」

「いいえー、それよりマスター、牡丹(ぼたん)ちゃんは?」

「…いるわよ」


 赤髪(牡丹)はブスッとした声で居場所を伝える。

 女性は近づき、カウンター下を覗き見て発見し、少し笑いながら話しかけた。


「おお、なーんで隠れてんの?」

「………別に」

「泣いてる?どしたの?」

「泣いてない!」


 鼻声、赤顔、否定を言い終える前に目尻から雫がぽろりと溢れた。

 しかし本人はそれを隠そうともせず、むしろその状態で威圧する構え。鈴と呼ばれた女性を睨んだあと、今度は(あきら)ちゃんの方を見つめる。

 女性は何かを悟ったのか2人の顔を交互に眺めた後、ため息をついた。


牡丹(ぼたん)ちゃん、謝ろ?」

「何で私が悪いと思ったのよ!!」


 激昂する赤髪(牡丹)。しかしそれに怯むことなく女性は諭すように話しかけた。


「ううん、悪いなんて思ってないよ。でも牡丹(ぼたん)ちゃんが泣いてるもん。それ、牡丹(ぼたん)ちゃんの中で思うことがあって、でもどうしたらいいか分からなくて出てきたんじゃないの?」

「……っ」

「悪いと思って、謝りたいんじゃないの?」

「……………っ!!」


 隠れている赤髪(牡丹)は女性の言葉を無視しているのか、無言でじっとしていた。しかし突然カウンターから顔を出し、(あきら)ちゃんの元までツカツカと歩いていくと(あきら)ちゃんの腕を指差した。


「それ」

「………」


 (あきら)ちゃんも俺たちも突然の行動に驚いてしまい、反応ができなかった。ただ、赤髪(牡丹)が次に何をするのかを待ってしまう。


「傷つけようなんて思ってなかった。でもごめんなさい。裏に消毒箱あるけど使う?」

「え……?…いえ」

「そ。じゃあこれあげる」


 赤髪(牡丹)はメイド服のポケットからポチ袋を取り出し、中から絆創膏を取って(あきら)ちゃんに手渡した。

 そしてものすごい早さでカウンターの方に戻っていくと女性をひと睨みしてから、また隠れた。


「あちゃー、お客さんに傷つけちゃダメじゃん」

「今謝ったでしょ。絆創膏もあげたわ」

「態度を変えないところは牡丹(ぼたん)ちゃんの悪くて良いところだよね」

「どう言う意味よ!」


「あの!!」


 外にまで聞こえるんじゃないかと思うくらいの声量で(あきら)ちゃんは2人の会話を遮った。

 女性が(あきら)ちゃんに視線を向ける。(あきら)ちゃんの目をじっとみて呼びかけられた理由を待っている。赤髪(牡丹)のほうも顔は見せないが大人しく待っている。

 その2人の反応に口が重くなってしまうのか、かなり言い詰まってしまっていたが(あきら)ちゃんはゆっくりと言葉にしていく。


「………あの、お名前を……教えていただけますか?」

「あ、名前ですか?ほら、名前聞かれてるよ」

「………何?」

「もう。牡丹(ぼたん)ちゃんって言います。お花の名前と一緒で可愛い子なんですけど、ちょっと天邪鬼でめんどくさいところがあって……」

「ちょ、何言ってるのよ!!…そいつ、私のことは知ってるみたいよ」

「ありゃ、知り合い?」

「知らない」

「???」

「……」


 赤髪(牡丹)は、はっきりと言った。

 確かに(あきら)ちゃんの話の中では、そこまで2人に交流はなさそうだったが()()()()()()だろ?半年以上も経過して、顔も覚えてないとかどんだけ他人に興味ないんだ。


「…あんたの名前聞いてんじゃないの?」

「え?何で私?」

「……っ」


 赤髪(牡丹)の指摘に女性は困惑した。本当にわかっていないのだろう。(あきら)ちゃんの表情の暗さにも気付かない。

 頭を傾げながらではあったが、女性は一応答えてくれた。


「えっと、古草(ふるくさ)(すず)って言います。牡丹(ぼたん)ちゃんとは…友達でいいよね?」

「ただのクラスメイトよ」

「もう、ジャックなんだから」

「ジャックって何よ!天邪鬼でしょ!て、違うわよ!」


「ふるくさ…すず………」


 (あきら)ちゃんは小さく反芻した。そのまま立ち尽くしてしまう。

 名前が違った。

 (あきら)ちゃんの話でしか分からないが、おそらく雰囲気も違う。

 赤髪(牡丹)を友達と自ら名乗る。

 どこをとっても他人の空似。

 あかりさんではなかった。

 そもそも似ているかどうか、知り合いでもない俺には分からない。それでも(あきら)ちゃんの顔を見てしまうと、無意識に横槍を入れてしまった。


「あの、そこの赤髪…椋路地(むくろじ)さんとクラスメイトなんですよね?」

椋路地(むくろじ)牡丹(ぼたん)ちゃんは天竺(てんじく)って苗字ですよー」

「あ、紅陽(こうよう)さんと違うのか…それはよくて。彼女のこと、見覚えあったりしませんか?」


 (あきら)ちゃんに向け手を差し出し尋ねた。

 古草(ふるくさ)さんは顎に手を当てて考え込む。


「見覚え?こんな綺麗なおねーさん、見たら忘れないと思うからなー」

「…そうですか。君たちと同年代なんです」

「ええ!?すっごく綺麗、大人の女性だって感じましたよー」


 女性のその言葉に(あきら)ちゃんは素直に喜べたのだろうか。スカートの裾をぎゅっと握り込んでいる。


「え〜、じゃあ高校生ですか?どことかって聞いても?」


 楽しそうに話す古草(ふるくさ)さんとは対極に(あきら)ちゃんの表情はさらに陰っていき、俯きがちになる。


彩色(さいしき)女子だそうです。2年生だって」

(ともえ)、お前」


 エビが待ったをかけようとしたのか、肩を握られた。花星(はなほし)さんも首を振っている。

 古草(ふるくさ)さんが驚いた反応を見せる。


「同じ学校じゃないですか!!しかも同級。牡丹(ぼたん)ちゃん知ってた!?」

「…知らないわよ。全く」

「……、 ……、………」


 (あきら)ちゃんの肩が震え、息も少し荒くなっている。

 そんな様子に気付いていないのか、古草(ふるくさ)さんが首を傾げて尋ねる。


「私たち撫子(なでしこ)組なんですけど、もしかしたら会ってたりするのかな?牡丹(ぼたん)ちゃんは有名だと思うけど、良くも悪くも」

「一言余計よ」

「いたた、見たことあります?私たち」


 古草(ふるくさ)さんはどつかれながらも、笑顔で(あきら)ちゃんに尋ねた。

 ああ、やっぱり彼女は(あきら)ちゃんを知らない人だ。クラスメイトのことを覚えてもいない他人でしかない人だ。俺はそう思った。なのに。

 俺は今一度、(あきら)ちゃんの方を見た。

 その顔はまだ何か納得がいかない、まだ決めきれないと言った焦りと不安が混ざったようなものだった。

 隣で見ていたエビが小声で話しかけてくる。


「なあ、(あきら)ちゃん、ここにいづらいんじゃねえのか?連れ出したほうが…」


「………それは」


 エビは俺にだけ耳打ちしてきた。しかし俺がそれを決める前に事態は動いた。

 (あきら)ちゃんが突然、古草(ふるくさ)さんの一点を指差して尋ね返したからだ。

 先ほどの質問を無言のままに流された古草(ふるくさ)さんは、それでも優しく答えてくれた。


「あ、これですか?ヘアゴムの御守りです。小さい頃、祖母から貰ったものなんです。ちょっと子供っぽいですよね。あはは」


 古草(ふるくさ)さんが見えるように右腕を振ってみせた。

 チリンチリンと2つの鈴が付いた輪ゴムが小さく音を鳴らす。シロがそれに反応し、また鼻を近づけようとする。


「あー、気に入っちゃったのかなぁ。あかりちゃんでしたっけ。人懐っこいワンちゃんですね。よーしよし、でもダメー」

「……シロです。その子の名前は」

「あら?シロちゃんでしたか。失礼しました。シロちゃーんダメだぞー」

「わん!」

「おーよーしよし」


 自分の名前を呼ばれて、嬉しそうに吠えるシロ。それをあやす古草(ふるくさ)さん。

 2人はまるで親しみ慣れているかのように戯れあった。まあシロは誰にでも尻尾を振るのでいつものことのようにも見えるか。

 古草(ふるくさ)さんが自分の疑問に当たりをつけて尋ねる。


「それじゃあ、貴方があかりさんです?」

「…あ………いえ。……御見透(おみとお)(あきら)って言います。…あの私も撫子(なでしこ)組です」


 先ほどまでとは打って変わって、(あきら)ちゃんは質問に返答できるようになっていた。

 まだ少し吃りつつだが、顔の表情も和らいでいるように見える。平静を取り戻しつつあるということだろうか。

 何が切っ掛けだったのかは分からないが、何であれいつもの(あきら)ちゃんのようになってくれるのなら良かった。

 (あきら)ちゃんの返答に古草(ふるくさ)さんが驚き叫んでいた。


「え?ええぇ!?うちのクラス!?ごごごめんなさい!全く気付かなくて!!」

「…いえ。……大丈夫………です」


 (あきら)ちゃんはそう言うが、少し唇を噛んでいるように見える。

 古草(ふるくさ)さんもそれに気付いたらしい。


「全然大丈夫じゃなさそう!ほんとごめんなさい!うちにこんな美人さんが隠れてたなんて!」

「あの……えっと」

牡丹(ぼたん)ちゃんと並ぶレベル…もしかしたらそれ以上?まじ美人」

「ええ……ああ……うう」


 褒めに慣れていない(あきら)ちゃんが出てきた。完全復活までもう少しか。

 少し興奮気味の古草(ふるくさ)さんを止めたのはカウンター裏から投げられたカチューシャだった。


「あいた」

「一人で盛り上がりすぎ」


 お前(牡丹)はコントロール良すぎだろ。

 古草(ふるくさ)さんはどこから何が飛んできたのかを察して、その意味を推察する。


「酷いなぁ、牡丹(ぼたん)ちゃん以上てのが気に食わなかったのね?」

「ち、違!ただの注意よ、注意!」

牡丹(ぼたん)、ブリムを投げてはいけません」


 少し動揺した牡丹(ぼたん)。その背後にスッと近寄る笑顔の老紳士。

 他人に注意したあと、すぐさま注意を受けてしまうメイドさんの図である。


「ご、ごめんなさい」


 それから赤髪(牡丹)は自ら投げたカチューシャを拾いに行った。紅陽(こうよう)さんの説教に怯えるメイドだった。




 それから何故か皆んなで紅陽(こうよう)さんの珈琲を飲むことになった。(2杯目)


「ぷはぁ、くぅぅぅ、うまい!」

「ズズズ…ふふん!」


 コーヒーカップが缶ビールに見えてくるほど、器用に丸椅子に胡座状態の古草(ふるくさ)さん。

 その隣で優雅に珈琲を啜る赤髪メイドは美味しそうに飲む友を見て鼻を鳴らした。自分が淹れた訳でもないのに。まあ俺も人のこと言えないけどな。


「ふふん」

「なあ、(ともえ)


 エビが小声で話しかけてくる。


(あきら)ちゃん、ほっといていいのかよ?」

「良いんじゃない?」

「お前…。(あい)はどう思う?」

「うーん。今は、大丈夫そう、かな」


 (あきら)ちゃんは今、古草(ふるくさ)さんの隣、カウンターの方に座っている。3人並んで座っているのだ。

 それを俺たち年上組は遠くの席(言うほど離れてない)から見守っている。


 古草(ふるくさ)さんが現れる前まで、(あきら)ちゃんは落ち込んでいた。

 牡丹(ぼたん)との出会いがそうさせていたと語ってくれたが、俺たちはそれをどう処理して良いのか戸惑っている。

 それでエビが(あきら)ちゃんの心配ばかりしている。


「なあ、あの子(牡丹)の話さ、どうゆうことなん?(あきら)ちゃんの方は知ってて、向こうは知らないって」

「それは、俺もよく分からん」

「どっちかが嘘ついてるってことなんかな。でも(あきら)ちゃんの話って、作り話にしては感情こもりすぎだよな」

「本当に、辛いことが、有ったんだと思う…」

「あかりちゃんか。最後どうなったのかまでは分かんなかったけど、友達が落ち込んでくのを見るのは辛いわな」

「…うん」


 二人は話の内容の重さに釣られ、声のトーンが沈んでいく。

 俺はそれに引き込まれまいと、話の方向を少しずらすことにした。

 俺自身の現状気になっていることが(あきら)ちゃん達の状況に類似しているという話を始める。


「あの二人の知る知らないって話なんだけど、俺も似たような感覚がさっきあったんだ」

「さっき?誰と?」

「実は紅陽(こうよう)さん。俺あの人と知り合いなんだ」

「ん?バイトしてんだから、当たり前だろ?」


 エビが頭にというか、顔全体に?を大量に浮かべていた。言葉足らずだった、反省。


紅陽(こうよう)さん、俺のことを覚えてなかったんだ。俺の中では5日前が最後、それよりも前から何度も会ってた。思い出だってあるのに」

「ん???」

「向こうが、忘れているってこと?」


 またもエビは顔が隠れるほど?を浮かべていたが、花星(はなほし)さんにはちゃんと伝わったらしい。エビ、努力足らずだ、反省しろ。


「二人にも経験ない?相手がってだけじゃなく自分自身にもってやつ。この5日間で」

「「!」」


 気付いたらしい。!が頭上に浮かんだエビと花星(はなほし)さんが顔を揃えて頷いている。


「どゆこと!?」

(ともえ)くんだ。私、最初、思い出せなかったもの」

「そうそ……お前バカか!!」

「うそうそ!(ともえ)だろ、気付いてたって!」


 白々しい嘘を…まあいいや。

 そう。俺自身憶えていない事だらけなのもそうだし、エビも花星(はなほし)さんも個人差はあるが俺のことを思い出せなかった時がある。

 いまだにハッキリと思い出せていない自分が不甲斐ないが、これは紅陽(こうよう)さん、そしてあの二人の状況にも当てはまりそうなのだ。

 まあそれが当てはまっていたとして、現状解決策としては、俺同様思い出してもらうしかないんだけど。

 エビがそれに対して否定的なことを言い出した。


「思い出さなきゃダメなのかな、あそこの問題って。(あきら)ちゃんの方がすり減っていくんじゃないかって思うんだけど」

「でも、ひどいことを、された方は覚えてて、した方は覚えてない。罪悪感もないような、そっちの方が、覚えてる側は、たまったものじゃ、ないと思う」

「一生罪に苛まれてろって?」

「そうじゃないけど…でも、罪って感じたことを、忘れちゃダメだと思う」

「そうだけど…。どしたの(ともえ)


 俺はエビたちの話を聞きながら別のことを考えていた。


古草(ふるくさ)さんってどう思う?」

「ああ?今は牡丹(あのこ)のこと話してたんじゃないの?」

「………」

(ともえ)くんは、あの子も、気になるの?」


 3人、正しくは2組の3人はそれぞれ楽しそうに話していた。というか、古草(ふるくさ)さんは楽しそうだけど端の二人はどこかギスギスしている感じ。楽しそうではないなあれ。


 3人の(遠目では古草(ふるくさ)さん一人の)会話はあまり届いてこず、大仰な反応の声だけ聞こえてくる。

 シロは3人の周りを忙しなく歩き回り、古草(ふるくさ)さんの匂いを嗅いでいたところを見つかっては撫でられていた。


(あきら)ちゃんさぁ、なんか古草(ふるくさ)って子にも態度変じゃない?」


 エビが3人を見つめ、そうぼやいた。3人にはエビの声が届いていないようで無反応だった。エビが続ける。


「ここに居たくないのかなってこっちは思ってたのに、名前聞いたり、逆に名前教えたり、今じゃあ向こうで話し始めたり、高校生ってわかんねぇ」

「お前もこの間まで高校生じゃなかったのか?」

「じゃあ、女子高生がわかんねぇ、かな。そういやあの3人同じ女子校だっけ、どんな感じなんだろな」

「女子しかいないってだけじゃないの?」

「ばっか、その中で過ごす学校生活の話だろが。女子同士で…とかあんのかなぁ」

「それって、男子校でも言えることなのか?」

「……やめろや、鳥肌立つだろ」


 少し脱線気味だったが、話は続いた。


(あきら)ちゃんの話に古草(ふるくさ)さん出てこなかったよな。牡丹(ぼたん)って子の連れなら一緒に出てきそうな気もするけど」

「あくまで赤髪(牡丹)が要因って話で、連れでも見てただけとかで、クラスの連中と同類にしたんじゃ」

「え、でも(ともえ)の推測ってあの古草(ふるくさ)って子も含まれてるんじゃないの?そういう話だと思ってた。てか赤髪(あかがみ)ってなんだよ、あの子(牡丹)のこと?」


 エビが笑ってそう言ったことに俺は驚いていた。俺の考えに勘付いていたとは。

 俺は古草(ふるくさ)さんに感じた違和感、あれも少なからず関わっているのではないか、そう思っている。

 でもそうだとすると、クラスメイト全員が(あきら)ちゃんを覚えていないという、村八分にも似た状況も考えつく。全員無自覚で(あきら)ちゃんだけ気付かれないなんて想像するだけできついものだ。まるで透明人間みたいな扱いじゃないか。

 そうでなければいいと思っているのだが可能性は否定できない。

 この街は集団催眠などのテロが行われているとでもいうのだろうか。…こんな厨二的考えは後に自滅することを経験済みなので会話に出さないけども、不安は残ってしまう。


 (あきら)ちゃんが虐められている、なんてことを考えるのは辛い。


 ふと思った。俺はどんな立場で辛いと思ったのだろう。(あきら)ちゃんは俺にとって何なのだろう。

 友達……妹の方が近い気がする。気兼ねない存在というか……俺もシロと同類ということだろうか。会って秒で絆されるチョロ助。舌を出して(あきら)ちゃんに撫でられるシロに自分が重なって見え……

 何考えてるんだ俺ぇ!!俺は決してあんな間抜けヅラじゃ…とかどうでも良いわ!


「わん!」

「わんじゃねぇ!!」

「と、(ともえ)どうした?」


 おっと、皆さんがこっちを驚いた目で見てらっしゃる。いやあのね、そこの犬がね、タイミングよく吠えるもんだから…こんなの言い訳にもならねぇ。意味不明だ。

 (あきら)ちゃんもこっちを見ている。着飾った彼女の姿は色気があり、何処となく例の絵画の(裸の)女性に見つめられているような……てこんな時に何考えてんだ!


「急に興奮して、何か分かっ…」

「こ、興奮なんてしてないわ!変なこと言うんじゃねえ、このエビが!」

「ええ!?変なのはお前だろ、ってかエビは蔑称じゃねぇぞ!」

「二人とも、やめて」


 エビと何故か喧嘩っぽいことになり、花星(はなほし)さんの注意が聞こえる。

 エビと取っ組み合いしていると、今まで裏で作業していた紅陽(こうよう)さんが顔を覗かせ俺を呼んだ。


(ともえ)くん、仕事頼めるかな?」

「ありがとうございます!すぐ行きます!」

「ありがとう?」


 俺は逃げるように裏に向かった。後ろから「こらぁ、待てよ(ともえ)ぇ!」と言う声が聞こえたが無視した。




 仕事というのは梱包作業のことだった。これはコーヒー豆だろうか、袋越しからも香ってくる。


「二人は仲がいいんだねぇ」


 紅陽(こうよう)さんがコーヒー袋を見つめながら話しかけてきた。誰のことだろう。


「君とあの男の子。友達なんでしょう?」


 まさか俺とエビのことだったとは。数分前の取っ組み合う姿の何処を見て仲がいいと思ったのか。


「いやとても仲が良いんじゃないかな。お互い楽しそうに笑っていた」


 あいつ、俺を殴ろうとする時確かに笑っていたな。思い出すと腹が立ってきた。


「うちの孫にも友達ができれば良いんだがねぇ」


 段ボールに袋を詰めていく紅陽(こうよう)さんは寂しそうにそう言った。

 孫、牡丹(ぼたん)のことだろうか。紅陽(こうよう)さん達からあまり親族の話は聞かされていないのだ。娘さん夫婦が遠くにいるのは聞いていたが、孫の話は知らなかった。


「うちの孫はね、素直な子なんだ。素直過ぎるくらいにね。それが学校では良くない方に働いてしまってるみたいだなぁ。友達の写真のひとつも見せてくれない。学校で賞を取った話なんてついぞ知らなかったよ。君の友達の女の子、あの子みたいな友達が一人でもいたらねぇ。…ああ、孫バカみたいな話だね、すまない」

「いえ……あのお孫さんって他にもいらっしゃるんですか?」

「うん?孫は牡丹(ぼたん)一人だよ」

「そうっすか…」


 (あきら)ちゃんと牡丹(ぼたん)が友達、さっきの雰囲気でどう想像すればいいのか。


「あの、さっき二人の喧嘩見てませんでしたっけ」

「え?戯れあってたやつのこと?間違えて怪我させたとは言え喧嘩ってほどではないよ。絆創膏で済んで良かったけどね」


 皺を刻んで笑う老紳士、これは孫バカが出ている顔なのか?それとも常識が違う人なのか。


「あの紅陽(こうよう)さんにとっての喧嘩ってどのレベルなんで…」

「病院送りが普通だよねぇ。絆創膏じゃ塞げない傷がついてから本番かなぁ」

「………」


 笑顔で言う老紳士…紳士かこの人?雰囲気だけじゃね?

 え、これマジなの、冗談なの?何も言えない空気が怖いんですけど。


「冗談だよ。そんなことするのはうちの奥さんだけ。僕は歯の一本くらいで済ませてた。うちの人は怖いんだぁ」


 誤魔化されませんからね?

 十分イカれてる時代を過ごしてきたようだ。あれ?俺も紅陽(こうよう)さんのこと本当は知らないかも…。

 これなら俺とエビのやつも戯れあってるようにしか見えてないのに納得。


牡丹(ぼたん)は人を傷つけることを嫌ってるからね、喧嘩なんか出来るわけないよ」


 あんたらのは喧嘩じゃなくて、戦闘の一種ですわ。


 ふと思い出した。(あきら)ちゃんを怪我させた時のこと。牡丹(ぼたん)はあの時、すぐさま謝ろうとしていたんじゃないだろうか。しかしその前の牡丹(ぼたん)の態度や言動が災いして、あんな取っ組み合いに繋がった。

 古草(ふるくさ)さんの力添えもあってその問題は解決した。そう考えると紅陽(こうよう)さんの話は嘘ではなさそう。

 けれど、それでは(あきら)ちゃんの話を疑うことになる。俺はあの話が作られた話には思えない。

 贔屓かもしれないが、牡丹(ぼたん)よりも(あきら)ちゃんのことを信じたいと思う。


古草(ふるくさ)さんは友達になってくれてるんじゃないですか?」

「ああ(すず)ちゃんか。あの子は元々うちの常連なんだ。すごくいい子でね。最後にうちの手伝いがしたいって言ってくれてきてくれてるんだが、最初は牡丹(ぼたん)と小競り合いばっかだったよ。普通に話すようになったのはここ数日かな。そうか、あれもよく見れば仲が良かったのか」


 紅陽(こうよう)さんの小競り合いと普通の基準が気になったが聞くのは躊躇った。混乱するだけかもしれない。

 それに最後っていうフレーズが気になった。どこか遠くに行ってしまうとかだろうか。


古草(ふるくさ)さん、引っ越しでもされるんですか?」

「うん?そんな話は聞いてないけどなぁ」

「でも最後って」

「ああ、最後なのはこの店のことだよ。今月末で閉店だから」

「え?」


 閉店。店を閉める。え?


「あれ、知らなかったのかい?」


 紅葉(こうよう)さんがこっちを見て驚いた顔をしているが、俺はそれに対して全力の気持ちをぶつけた。


「聞いてなあぁぁい!!」


 ー


 街の張り紙が風に飛ばされて、顔に迫ってくる。

 避けきれず顔にビラビラとくっついてきた。

 顔を振って紙を落とす。白紙に見えた…いや、黒文字でデカデカと一文だけ書かれている。

 「さがしています」

 写真も他の文字もなく、何を探しているのか伝わってこない。これを作った人は気持ちが焦るあまりに、ミスのことに気付かなかったのだろうか。

 似たような紙が電信柱や壁にたくさん貼られている。


 ボクも探しているんだ。早く見つけてギュってしてあげたい。その為にはあの人の所に行かなきゃ。


 体力も減って体が重かったが、走り出した。

 あの子を彼はきっと見つけてくれる。

 そしてまた一緒に遊ぶんだ。久しぶりに、たくさん…。


 待ってて、   ちゃん。前みたいに君を見つけて見せるから。あの人と一緒に。

読んでいただきありがとうございます。

古草(ふるくさ)さん、牡丹(ぼたん)(あきら)の話も重要なんですが、(ともえ)と喫茶モミジの話もしたい〜となり、長くなりました。

長々と付き合ってくれている方ありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ