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Colourless  作者: 白い人
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閑話 巴が見てしまったもの その後のこと

 夢。


 ぼやけた視界。寝起きだからではなく、まだ夢の中なのだろうことは理解していた。

 

 視界がようやく晴れて、大きなガラスが見えた。ガラスの先に街並み…というか、大きな道路と信号機が見える。


何かの音楽が聴こえてくる。聴いたことはあるような、ないような。誰かの鼻歌も聴こえ始めた。


 道路が急に動き出し、迫り来る。

 逆だ。夢の人物が前進しているのだ。


 しかし、歩いているようには思えない。大きなガラス、その付近のプラスチックっぽい部分もくっついて一緒に動いているようだ。

 先ほどからずっと見えていたハンドルが急回転した。よく見ると、誰かの腕がハンドルを回していた。

 この構造はくるまみたいだ。


 視界が大きく揺れた。


 ガッシャァァァアアアアアアアン!!!


 突然の激しい耳をつん裂くような音。すごく近くて大きな音だった。

 映像だけだと思っていたが、空に放り投げられるような一瞬の浮遊感の後、何かが体を縛り付け、衝撃が襲ってくる。


 割れたガラス。その先に見える大きな物体。何かの音が聞こえるが、不快なだけで正体はわからない。


《……く、そ………はあ、はぁ……ガハッ》


 誰かの声。男の声だった。年若い男性のような声で、聞き覚えがある気が…。荒い息と何かを吐き出す音。

 視界が一部塗り替えられたように暗い。

 そして…


《ご……めん。……ミ………た…》


 激痛。夢だと思っていたのに、全身を襲う痛みで何が何だかわからなくなった。何かを言っている。それどころではない。痛みで目を逸らしてしまいたかったのに、目を瞑ることは許されない。痛みの原因を知りたくても、視界は固定されたまま。

 あ、だめだ。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


 涙が出そうだった。出るわけないけど。声が出そうだった。出せるはずないけど。

 視界はまた一部が塗られてしまって狭まった。


「……も……!」


 痛みは苦しさに変わった。何が苦しいのかは分からなかったけど、この人がそう感じているんだと思った。


 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい


「とも……!」


 《 》に会いたい…


 この人が言ったのか、幻聴なのか分からない。誰のことを言ったのかも分からない。この人が誰なのかも分からない。自分が誰なのかも…………


「巴ともえ!!大丈夫か!!」


 声が俺を夢から拾い上げた。前の時とは違う男の声。確か名前は、シンジ。エビってあだ名をつけられた俺の親友を自称する野郎だ。


 ー


《うっひゃあ…こりゃまた凄い》


 かろうじて息があった俺が見たものは…いや、見えなかった。

 声がした方には誰もいなくて、周りの景色もおかしなことになっている。

 何もなかった。最後に見えた、信号機も。行き交う車も。多くの通行人達も。空さえなかった。太陽が照らす青空だったはずなのに。


《大変だったね。動けるかい?》


 また声がした。やっぱり誰も、何もいない。ただ気のせいのようには思えなかった。声は自然と出た。


「ここはあの世ってやつか?」


 推測はおそらく正解だろう。なんとなく天国のように見えるし。さっきまでの体験がヒントだ。

 声が答えた。


《違うよ。君が考えている場所ではない》

「マジか。じゃあ何処なんだ?」

《うーん、それを教えるのはねー。イロとしては控えたいんだよねー。知らなくても問題はないよー?》

「イロ?」


 なぜか引っ掛かった。声が答える。


《あ、僕の名前だよー。もらった名前なんだー。他にもたくさんあるんだけどね、それが1番気に入ってるんだ。いい名前だと思わない?》

「そうだな。で、イロさんは何者であらせられるんだ?」

《それも言わなーい。詮索すぎる男はモテないよー?》

「悪いが俺は、モテる方だったんだぜ?彼女だっている」

《知ってるよー。うん、じゃあ君には彼女の元へと帰ってもらおうか。それが君がするこれからのことだよ》

「帰る……」


 知っている。それが嘘か本当か分からないが、言葉を引き出されたみたいな感覚がしてならない。そして、命令みたいなことも言ってきたが、その内容が俺を揺さぶる。


《大丈夫さ。もう帰っても良いんだ。それが君の幸せだろ?》

「幸せ…」

《うん。それと彼女の幸せでもある。帰りなよ》

「分かった」


 言葉が口から勝手に出た。


《送った方がいいかい?》

「いや、いい」


 今度は口が自由になった。そんな感覚がした。


《では、幸せな夢を。葡萄風(えびかぜ)信子(しんじ)

「ああ、ありがとなイロ」


 俺の名前は葡萄風(えびかぜ)信子(しんじ)だったはずだ。やっぱりイロは俺のことを知っているのか。


 声が聞こえなくなってから、世界が変わった。

 交差点に立っていた。

 隣には愛車が無傷の状態でエンジンを蒸していた。

 刺さっているキーを見ると、俺の物で間違いない。彼女からもらったキーホルダーが振動でジャラジャラと音を鳴らしている。


 俺は嬉しくなり、車に乗り込んだ。


 何故か交差点には俺が進む方向の信号一本しか立っていなかったけど、気にならなかった。だって他に車がないんだから。必要のないものはなくて当然。


 ブロロロ………聴き慣れた音を蒸し前進する。


「待っててくれ、アイ」


 葡萄風(えびかぜ)信子(しんじ)は長い帰り道を進み続けた。

読んでいただきありがとうございます。

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