11話 葡萄風 信子 と 彼女
少し前にあった事故現場。
信号機が失色症になったあの場所。
もう既に警察の警備は無くなっていた。
それはあの信号機が完全に失色したことに理由がある。
もうこの信号機は誰の目にも映らなくなったのだ。
ただ、規制線だけは近くに残ったまま。侵入禁止の看板も忘れ去られたかのように置き去りにされていた。
ここに来る前に寄った誰かの家も似たような光景だった。
透明の周りには規制線だけが残り、誰も近づくことはない忘れられた場所。
俺も透明が少し見えるだけでもう何があったかを忘れていっている。
誰にも思い出して貰えないというのはどんな感覚だろうか。少しだけ考えて、やめた。
俺は新たな失色症の場所に向かう。
ー
今日は雪が降った。
この辺では珍しく積もる程度に降っていた。大寒波ってやつか。
おかげで電車は運行中止のところも出てるらしい。
まあ俺には関係ないけど。
車が通り過ぎた後に轍ができていた。
その場所を何度も通れば踏み固められ滑りやすくなると聞いたことがある。
俺はその轍を踏んでみた。
特に何も感じなかった。
んで、戻ろうとした時、ツルッと滑ったんだ。
雪が小さなクッションにはなったけど痛かった。
笑えたからここに書いてみたけど、思い返してみたらダサいだけだなこれ。
*
14時半過ぎ。
「わはは!ひっさしぶりだー!」
約6時間ぶりの帰宅。そして、お客は2人と一匹。
なぜこうなったかと言うと、まあ簡単に推測できると思うが、エビが家に寄りたがったから。
泣いて縋ってきた。大人だよなお前。
俺は放置しようかと思ったけど、明ちゃんも歩き疲れたと言うので渋々寄ることに。
休憩。
家に入るなりエビは妙にハイテンションだけど、面白いもんはねえよ?
「変わってねえなー!巴の家ー」
「そんな久しぶりなの?」
「卒業する前はちょくちょく来てたのになぁ。2年ぶりくらいか?」
「ふぇー」もぐもぐ。
「ちょ、何食ってんだよー!」
「フェビふぁんも食べまふ?」もぐもぐ。
「いいの?貰う貰うー!」
「はぐはぐ……わん!」
エビはコートを脱ぎ、掛けれる場所が見つからなかったのだろう、畳んで隅に置いた。
服を畳まない俺との差が垣間見えた気がする。っち。
俺たちは居間中央に置いてある大きくも小さくもない机を囲んで座っている。高さは座椅子用のそれなので、椅子はない。座布団は元からあった二個のみ。その二個は明ちゃんとシロが使っている。ここは大人として譲っておいた。だからエビ、お前も我慢してくれ。
お客さん対応が悪い店だと思ったかな。店じゃなくて俺の家だが。
そして少し遅いお昼ご飯。提供は明母、美穂さんの作ったおにぎり(複数)とおかず弁当(3箱)だ。ドッグフード入りの弁当は既にシロに与えられている。
ここのところ、美穂さんの料理ばかり食べさせてもらっている。こんなに甘えさせてもらって良いのだろうかと、本人不在の時に考える俺。マジで図々しいな。
「何度も何度も頂きましてありがとうございます」
「お礼はお母さんに自分で言ってください」
「必ず」
今日も送るだろうからその時に言おう。何かお礼も考えないとな…
「うめー!明ちゃんママ最高ー!」
「賛辞もお母さんに直接言ってください」
「絶対挨拶行くわ。ぶっちゃけ見てみたいもん」
ここで俺が美穂さんの魅力を伝える。
「見た目は明ちゃんに似てるけど、優しさが溢れている聖母みたいな人だ。料理がうまく、気遣いと気品に長けた御婦人だ」
「けどって分けた理由が分かりません。私も優しさに溢れている聖人ですよね?」
「はは」
「なぜ笑う」
失敬、つい笑いが…すみません、ごめんなさい、笑ってしまいました。だからそんな怖い顔を……
「ふん」
おお、許された?
ここでエビが俺が忘れていたことを質問混じりにいじってきた。
「てか、巴親にも会ってんのかよ。会って4日でどんだけ親交深めてんの?俺より仲良さげで寂しいぞ」
そうだ。明ちゃんと会ってまだ4日だ。会って一日で家にお邪魔して、ご両親に会い、食事も頂いた。
感覚が麻痺していた。親子で距離感が近い人たちのペースに飲まれてしまっている。これは悪いことか良いことか…
とりあえず、後ろの質問ぽくない方を答えておく。
「お前は会って3、4時間位だからな。仕方ないだろ?」
「何で記憶喪失なんだー!俺との友情を忘れやがってこのやろー!」
エビがおにぎり片手に持ちつつ、俺の肩に腕を絡ませ首を絞めてくる。
ちょ、食べ物が詰まる。くるしい…
脇腹を横から殴ったら離してくれた。力技には力技だ。
「グフッ。…冗談の威力じゃ、ない」
「正当防衛だ。苦しかったから倍返しだ」
「過剰防衛だ!そう思わない明ちゃーん」
「どうでもいいです」
「また不機嫌だー!」
エビが加わってからうるさいな。こいつ帰ってくんないかな。
「巴!今ひどいこと考えたろ!?」
「いや別に」
「今睨まれたんだよ俺!絶対酷いこと考えてたよ!」
「っち」
「舌打ち!」
「エビさんって、テンションが高い時の巴さんそっくりですね。うるさいところが特に」
「「明ちゃん!?」」
「あ、揃った」
「俺の何処がこんなエビ男とそっくりだと言うんだ!失礼すぎるぞ!」
「お前が失礼じゃい、巴!俺そっくりと言われたら喜べよ親友!」
「全然嬉しくない」
「そこは冗談とか言えよー!マジトーンやめて、傷つくから。俺イケメンだよな、明ちゃん?」
「顔は…まあ悪くないと思いますが、なんというか…残念イケメン?」
「巴のせいだぞー!嫌なレッテルを貼られたー!」
「お前マジでうるさいぞ!追い出す?明ちゃん」
「うーん、どうしましょう」
「うわーん!2人が俺をいじめる!」
お前、そんなキャラだったのかよ。数話前までと比べ、よりガキっぽくなってない?ガキみたいな残念イケメン。…需要ありそうな無さそうな、ってどうでもいいわい!
「お前、俺の家知ってるんなら帰り道分かるだろ。あとは自力で帰れ」
「俺の家こっから近くないんだよー」
「はあ?」
「あれ、俺専門学校に行ってるって言わなかったっけ?」
「それは聞いてる。自動車大学だったか」
「そうそう。で、この町にはないだろ」
「ああ、ないな」
「俺県外に出たの。今は学校近くに家借りてる」
「それは何処にあるんだ」
「関東。〇〇にある」
この町は中国地方〇〇県の都市部から少し離れた所にある。エビが言う場所は1日や2日歩いてたどり着ける場所ではない。一週間歩き続けても…まず歩き続けることが無理だろ。
こいつどうやって来たんだ?
あ…
「エビさん、車で来たんですね?」
「だと思う。けど、気付いたらあの街で迷子になってたんだよーどうしたらいいかな」
「まさか、あそこにあった車って……」
思い出したのは2時間くらい前に見た透明車。中しか見えないそれは、見えた部分だけでもわかるほどに壊れていた。
人を乗せるための乗り物が、誰も乗せられないほどに壊れていた。
それがあった町で出会ったエビ。
まさか、まさか……
「幽霊」
「……巴、親友を幽霊呼ばわりは流石に酷すぎる」
「地縛霊!」
「んなわけねえだろが馬鹿野郎ー!」
エビがまた俺の首を取ろうと掴みかかって来た。対抗した時に気付いた。
あ、実体あるわこいつ。幽霊って実体ないんだよな、多分。しかもここまでついて来てるしこいつ地縛されてないじゃん。
てことは?
「お前、幽霊じゃないのか」
「今気づいたみたいな反応やめろ」
エビのツッコミの後、明ちゃんが真面目な質問をした。いや、俺もふざけてたわけじゃないけど…
「あの場所にあった車について何か知っていることは?」
「まったく。俺もあの時見つけたのが初めてさ。迷子になってから街を探索してたわけじゃないし、どうしようか迷ってた時に巴達と会ったんだ。」
「エビさんは霧の道を以前に通ったことは?」
「いやぁ、ないと思う。あんな体験は初めてだな」
「でしょうね。初めてのようではありました」
「「?」」
「わう」
明ちゃんの言い方に俺たちは首を傾げた。
そのすぐ後にシロが首を縦に振った。
なんだ犬公。それは何の頷きだ?
犬に気を取られた隙に明ちゃんが話を進めた。
「迷子になる前の状況を教えてください」
エビはその質問に顔を顰めた。
「実は朧げなんだよな。いつ家を出たとか、どうやってあの町に行ったかもあんまり覚えてない」
なんだ、お前も記憶喪失か?被って来んなよ。
明ちゃんはそのことをいじることなく、質問を続けた。
「では、覚えてること。今日に限らず昨日でも一昨日でも覚えてることはありますか?」
今度は元気よく答えるエビ。
「昨日のことは覚えてるぜ」
「教えてもらえますか?」
淡々と聞く明ちゃん。
「ああ確か、彼女と」
「お前!彼女いるのか!?」
聞き捨てならない事が聞こえた。思わず2人の会話に乱入するほど驚いた。
2人は突然声を上げた俺を見て驚いた顔をしたが、そのあとに明ちゃんは呆れ顔、エビは自慢げな顔になり、腹立たしいご自慢を聞かせてきた。
「いるさ。俺のようなイケメンを女の子がほっとくわけないだろ。今はしていないが、昔は取っ替え引っ替えだったさ。モテてモテて大変だった。言わなかったっけ?」
「ふざけろぉ!」
「ちょ、明ちゃ…助け」
「へー」もぐもぐ。
俺はエビ男の首を絞める。
明ちゃんは俺たちの行動には興味なさそうにおかずをもぐもぐしている。
倒れたエビは口におにぎりを咥えている。ゆっくりと咀嚼されていてモゴモゴしている。
ふ、無様だなイケメンよ。
「明ちゃん、こいつのことどう思う?」
「エビさんですね。残念イケメン以外には特に何も…」
「………!?」もぐもぐもぐ。
エビのおにぎりを食べるペースが早まった。何かを言いたいようだが、美穂さんのおにぎりは少し大きいサイズだから食べ切るのは遅い。
「へ!どうやらここにいたようだな、お前に騙されない女の子がな!」
「…いや、騙しては、ないし。」もぐもぐ。
まだ咀嚼途中で喋り始めるとは、行儀がなっていないぞイケメン様よ。ほっぺに米粒をつけやがって、あざとい野郎だ。
明ちゃんが不機嫌そうに話を戻した。
「それで彼女の続きは?」
「ああ、邪魔が入ったからなー、巴反省してろよー?」
「うるせっ」
「えっと、彼女とデートしてた」
「死ねぇ!」
俺が再び憎き男の首を絞めようとすると、明ちゃんが声を上げた。
「巴さん、待て!」
「……!?」
「お座り。エビさんが話し合えるまで動かないでください」
明ちゃんが犬に命令するように俺に向けて告げた指示。なぜだろう、静かに実行している自分がいる。
あれー?
「死ねは酷いぞー」
「エビさんも話を続けて?」
「はい!えっと彼女とデートをしまして…」
そこから淡々とした質疑応答が繰り返された。
さっきまでのおふざけみたいな空気はなく、面接試験場みたいな緊張感を伴った空間に変わっていた。
「それで、エビさんは彼女と車デートをしたんですね。」
「はい。冬休みという期間で彼女との思い出作りとドライビング練習も兼ねていました。公道ではありますのでスピード等には注意を払いましたが、実習とは違う箇所を重点的に意識した運転を行いました」
なにこれ。何言ってんのこいつ。デートのことより、車の運転に関してのことばっか答えてるし、エビの口調が変わってしまっている。マジで面接の時のこと思い出して話してるだろこいつ。
緊張感がこっちまで伝わってきて、おにぎりを持った手が止まってしまう。てか明ちゃんの命令が効いているんだった。
おにぎりを食べたいな。おかずを食べてないな。気付けばおかず弁当はもう半分もない。え?明ちゃん一人で半分食べたの?
いや違った。エビの口元が汚れていた。お前どのタイミングで食べやがった。
「もぐもぐ。」
「エビさん、なぜ食べているのでしょう」
「美味しいからです。全部平らげたいくらいに美味しいです」
「緊張されていますね。先に食べ終えることにしますか」
「はい」
ガッツガッツ食べ始めるエビ男。明ちゃんも食事を再開した。
え?え?え?
「巴さん、食べないんですか?」
「……動いていいんでしょうか」
「あ、忘れていました。よし」
体の緊張が急に解けた感覚がした。
いつの間にか俺の精神は犬のようになっていたのだろうか。いや気のせいだ。
「わふ」
なんだ犬公。笑いやがったか?
「うまー!」
エビが次々におかずとおにぎりを口に運んでいるのが見えた。弁当を見れば4分の一も無い。
「ふざけるなエビ野郎!俺の分が無くなるだろうが!」
「先に食ったもん勝ちだろ」
「くそ!もうおかずを取るんじゃねえよ!」
「うまっうま」
「ズズー」
明ちゃんは一人、水を飲んでいる。
その様子からおかず争奪戦には不参加の姿勢を感じた。
そして、結局おかず争奪戦は殆どをエビに取られてしまい、俺が手にしたのは唐揚げ3つだった。うまい。
「ゲプッ」
こいつほんとにイケメンなのか?俺のことを親友と言っておきながら遠慮や優しさが一つも見えないが?ゲップするイケメンって何?
腹立つのが、おかずを食べる時に毎回トロンとした笑顔になって「うまい」と言い、嫌味のように感じた。
「どうぞ」
「…ありがとう」
明ちゃんが水を注いでくれた。エビへの不満をこの水で流そう。腹に溜めるとも言えるが。
エビが語るように口を開いた。
「俺さー、最初巴のこと分かんなかったんだよね」
「お前も記憶喪失ってこと?」
さっき思ったこと。迷子になるまでの記憶欠如。俺のとは違うタイプの記憶喪失である可能性。
「いやいや、巴って言う親友がいたことは覚えてて、最初すれ違った時雰囲気似てんなーくらいの印象だったの。だから声かけたんだけどさ、俺巴の名前が思い出せなかったんだ」
名前のみというのは部分的な記憶喪失?なんだそれ、俺じゃん。
「それで、あんな執拗に名前聞いてきたんですね。納得しました」
「いやいや、納得しないから。俺めっちゃくちゃ怖い思いしたからね。知らないやつから名前を執拗に聞かれるとか」
「今は怖くないんですか?」
明ちゃんは俺の目を見て聞いてくる。
俺は今の心境を言葉にして伝えた。
「怖いって言うか、確かに自分の中で忘れているものがあるってことに気付けて腑に落ちている状態?こいつが友達かどうかは分かんないけど、友達がいたような気がするようなしないような…俺は記憶喪失なのかな?って感覚がして気持ち悪いんだよね」
言葉にしてみたけど、伝わっているか自信がない。自分自身言っててよくわからなかった。
「ほうほう…巴さんは気持ち悪いと」
「それ意味が違ってるね。俺の存在を言ってることに変わってるよね」
ほらうまく伝わっていなかった。明ちゃんが俺をいじっているだけのようにも思えるけど。
「今はもう巴だってことは思い出したけど、何で忘れてたのかは分かんない。ごめんな巴」
「いや、謝られても…俺はお前のこと思い出せてないし」
「思い出させてやるよ。親友」
エビは悲しそうでも嫌そうでもなく、笑って言った。
少しだけ胸に痛みが走った。
「では、食べ終えたことですし、さっきの質問を続きを再開しますか。巴さんはお弁当箱を洗っててください。邪魔されるのは面倒なので」
「…わかった」
台所と言っても、居間のすぐ近くにある。
俺も話を聞いておきながら洗い物をしろと言う命令と認識。歳上を使うのがうまい娘である。
弁当箱を持って立ち上がる。すぐに質疑応答は開始された。
「昨日までは車の運転をされていたと言うことですが、因みにどこに行ったとかは?」
「特に遠出をしたわけでは無いよ。ショッピングモールに行ったり、海沿いを走ったりで遠くても隣の県に移動するくらいだった」
「一日中運転していたんでしょうか」
「いやー、夕方くらいに家に帰ったかな。その後は二人で家でご飯食べたり、一緒に映画見て寝た気がする」
「失礼かもしれませんが、彼女さんとは同居されてます?」
「半同居かな。冬休み期間はほぼ一緒にいることにしてたんだけど…」
「彼女さんに連絡はしているんですか?」
「それがねー」
エビがスマフォをコートから取り出した。電気が入り、背面がチラッと見えた時、写真のようなものが見えた。
俺は持っていなかったが、少し前に流行ったガラケーには待ち受け写真という機能があったはず。きっとそれだな。
エビらしき人物と女性が見えた。例の彼女だろうか。っち。
苛立ちは弁当を擦る力に。綺麗綺麗〜。
「やっぱり増えてるー」
何が増えているのか分からんがエビは少し困った表情をして言った。泡をゴシゴシ〜。
「これが俺の彼女」
とエビが明ちゃんに見せたのは写真ではなかった。あれは電話番号か?なぜ番号画面を?
「これは…すごい量の着信履歴ですね」
「彼女は少し心配性なんだ…」
「少し、という量ではない気が…100件近く有りますね」
「ははは…」
「これいつからですか?」
「迷子に気づいた時には50件は超えてたかな。」
着信履歴。電話がかかってきていた記録。数回程度なら、繋がらずかけ直したということだろうが、2桁以上の履歴は普通ではないだろう。だが、それはエビの状況にもよる。迷子により電話が繋がらず心配する気持ちが行動に出たということも…てか、なんで出てないんだよ。
「いや、メッセージはもう送ってるんだ。友達の家に遊びに行ってるって。もちろん迷子の部分は伝えてないけど」
洗い物を終えた俺は弁当を軽く水切りしてから。キュッキュッと拭いていく。
エビはスマフォを操作して画面を切り替えた。
メールとは違うような画面で、漫画の吹き出しみたいなものが左右に交互に並べて表記されていた。
右側にエビが言った文章のようなものが読めた。その後からは左側の吹き出しが大量に表示されている。
「さみしい」「声が聞きたい」「かまって」「どこ」「私も行っていい?」「だめ?」「ねえ」「返事ください」「さびしいよ」「くんくん」「ねええ」「どこー?」「行きたいなー」「すぐ帰ってくる?」「返事くださいー」「(´;ω;`)かなしい…」「早く帰ってきてね」「待ってるよー」「まだー?」
まだ続きはあったが、大体似たような文?だった。
エビはこの画面を見てにやけた。
「俺の彼女、可愛いだろ。心配性で、さみしんぼで、かまってちゃんなんだ」
お前今すぐ帰れや。
「花星藍。実は巴も面識はあるんだぞ。高一の時、おなクラだったんだぜ。覚えてるか?」
「まったく」
「だろうな。まあその頃は会話してたことほぼ無かったし、その後はクラスが違ってた。逆に藍のことだけ覚えてたらショックだったわ」
「というか、良いんですか?彼女ほっといて。」
明ちゃんはさっきの数文を見た時に固まっていた。ざっと全文読んだ後は遠い目をしていた。帰ってきた今は怖いものでも見たような顔でエビに聞いている。
「いやー、どうだろ。もう少し様子を見たい気もするけど、そろそろ連絡しなきゃ暴走しそうだよねー」
ヘラヘラとした態度のエビ。暴走って何?
「GPSを頼りにここまで来そう」
「彼女、ここまで来れるの!?」
ジーピーエス?アルファベット?
「《Global Positioning System》という、人工衛星から電波を受信し現在地を割り出せる機能です。ほら、さっき地図アプリ使ったじゃないですか。アレも同じ機能を使って現在地が分かったんですよ」
「へー!」
仕組みは分からんがなんかすごいことは分かった。
それは場合によっては自分のだけじゃなく相手の現在地も知ることができると明ちゃんが教えてくれる。
「ここの位置が分かったとして移動手段はどうすんだ?歩いては無理だろ」
「電車かな。1番手っ取り早いのは。そういえば、あの町もこの町も車走ってるの見かけてないけど、電車って運行してんの?」
「知らない」「知りません」
明ちゃんと声が揃った。語尾は違ったが。
「そっか。調べてみるか」
その時、ブブブブ……とエビのスマフォが振動した。
画面に表記されているのは「お姫様♡」と女性の小さい写真。
「藍から電話きた。出てもいい?」
「「どうぞ」」
今度は完全一致。特に何も無いけど。
エビが奥の俺の部屋に行き、通話を始めた。
「もしもし藍?ごめんねーなかなか電話出れなくて。移動中だったんだよー。何してたの?あーそうだったんだ。ん?まだ友達の家だよー。まだ帰れそうにないと思う。…え!?うーん…分かった。ちょっと待ってて」
向こうの声は小さくて聞こえない。怒ってはなさそうだけど、てかエビ、小慣れてるな。さては、毎度似たような焦らしをやってるな、この残念イケメンサド野郎。
通話は終わったのだろうか、スマフォを耳から離し、戻ってきた。
「はい。藍が話がしたいから代われって」
と、俺にスマフォを差し出してきた。
え?もしかして、まだ通話中なのん?俺は話すこと無いけども?
とりあえず差し出されたスマフォを手に取り、耳に当ててみた。
か細い女性の声が聴こえた。
『あの、シンジくんが、お世話になってます。花星藍と、申します』
「あ、ご丁寧にどうも。椋梨巴と申します」
『あのご迷惑を、お掛けして、いないでしょうか?』
エビ彼女、藍さんはすごくおっとりとした声をしている。話し方もテンポがゆっくりで、少し緊張を感じてしまう。ただ礼儀正しい女性だ。エビには勿体無いな。
「あー、まあそれほどですかね。そのうち帰らせますのでご心配なさらず」
『そうですか。あの図々しい、お願いかも、しれないのですが。』
「何ですか?」
『私も、そちらに、伺っても、よろしいでしょうか?』
礼儀正しく訪問する気満々だった。エビの予測当たってんのかよ!
「え!?あの今どちらにいらっしゃるんですか?」
『シンジくんの、自宅で、待機しています』
待機!?もう出る準備は万端てことでしょうか!?発車許可を出せと!?
「因みにこちらの場所は…」
『シンジくんの、スマホGPS記録が、有りますので、大体、わかっています。〇〇県ですよね?』
「!?…はい…どういった経路で」
『新幹線を、使おうかと』
新幹線とは電車の上位互換だそうだ。電車をまず思い出せないけど、ものすごく早いらしい。数時間で着くと教えてくれた。(明ちゃん)
『よろしい、でしょうか?』
「…はい。お待ちしております」
『ありがとう、ございます!では後ほど、失礼致します。シンジくんに、代わって、頂けますか?』
「はい。失礼します」
エビにスマフォを特に弄らず手渡す。エビは即座に耳に当てて通話を始めた。
「あーうん。聞こえてたよー。じゃあ待ってるねー。駅向かいに行こうか?あーそう?じゃあここで待ってる。またねー」
エビがスマフォを耳から離すと、今度は通話が切れたのだろう、画面は暗くなっていた。
えっと……
「今からここに来るんですか?」
「そうみたい」
「ごめんねー藍ってこう言う行動力は凄いのよ。いつもは普通の女の子なんだけどね」
「えっと…藍さんは何をしにここへ?」
「え?迎えじゃないの?」
「何県も超えて向かえに来ます?普通なんですかそれ」
「普通じゃないけど、電話越しの女性は普通じゃなかったよ」
「ちょ、巴ー、親友の彼女までイジるなよー」
「俺、電話越しに待機されててこと初めてだと思う。こんな記憶絶対忘れられないわ」
「そうですね」
3時間後に玄関のチャイムが鳴った。まじで部屋バレてた。エビ以外は恐怖してたよね。
玄関のドアはエビが開けた。怖くて出られませんでした。
「よく来たねー上がって!」
「お邪魔、します」
部屋に入ってきた女性は藍色の髪をしていた。
読んでいただきありがとうございます。




