8話 葡萄風 信子 の夢
事故現場には行けなかった。
ニュースで言っていた通り、繋がる道全てが通行止めになっていて、入れる道がなかった。
まあ、無理をすれば通り抜けられなくもないが、警察の目が厳しい。
通ったところで、事故現場はもう処理が済んだ後だろうし、済んでなくてもそれが見たかったわけじゃない。
どうせすぐに帰るつもりだった。
何で来たんだろう。
犯人は現場に戻ると推理小説で読んだことがあるが、それとは少し違うと思う。
俺は犯人なのだろうか。
確かに《カラレス》を行ったのは俺だ。
イロの協力の元、現在計画は進行している。
その過程であの事故は起きた。
これは俺が犯した事故なのか?
誰もがそうだと言うのだろう。
否定はしない。
俺自身もやってしまったと思っているのだから。
だが、誰も俺が《カラレス》の首謀者だと知らない。
そもそもこれが、人災ということに気づいているものがこの世界にいるのだろうか。
多分いない。
いたら、俺を止めにくるだろう。
そして、罵るだろう。
理由を吐かせようとするだろう。
どんな方法を使うかな。
やめよう。どうせ、誰もやってこない。
いつも通りの日常の中に少し異物が混じっているだけ。
彼らの認識はその程度だろう。
だから、彼らは事故を起こした。
いつも通りがそこにあると信じて、いつも通りを行っただけだ。
それでいい。
俺もいつも通りを行えば、彼らと同じ人間になれる。
いや、人間でいられる。
罪人だって人間だ。
罪を犯すのは人間だけだ。
罪には罰が下る。
俺のやったことは罪なのか?
いいや、違う。
これは罪なんかじゃない。
だって、俺は罰を下されていないんだ。
これが本当に罪ならば、あの日あの時、既に俺は罰を下されていないとおかしいだろう。
俺は罪人なんかじゃない。
そう思ってないと、おかしくなりそうだ。
ー
最近、 の事故が多くなっているな。
ニュースでも度々報道されている。
冬は道が凍結するらしいし、滑って事故が多くなると聞いた。
俺も免許とるか、悩むなぁ。
でも、 免許は取っておかないと仕事でも恋愛面でも必要になってくるよなぁ。
はあ、お前はもう取ってんのか?
隣に誰か乗せてるか?
羨ましいよ。
*
「なあ、どこに行くんだよー。」
「………。」
「こっちに俺の家があるのかー?」
「…………………。」
「なあ巴ー。なあー。」
「うるさい!」
めいちゃんの家を探す道中、空色髪のストーカーに絡まれました。
「巴ー!俺の家、何処にあるんだよー!」
「知らん!1人で探せ!」
「冷たいー!やっぱお前は巴だわー!」
「ついてくるな!」
「巴ぇ〜!」
空色髪の男は葡萄風信子と名乗り、俺を親友と思い込み引っ付いてくる。
俺自身は身に覚えのない存在だし、正直この絡み方は鬱陶しい。
早く何処かに行ってくれないかな。
「ふぅ。」
明ちゃんがため息をついて、急に立ち止まった。俺たちも立ち止まる。
「全然着きませんね、霧の道に。」
「わふっ。」
「流石に遠すぎるよね。」
今、俺たちはめいちゃんの家を目指している。
昨日と同じように、例の霧の道を通ったら、全く別の場所に出てしまい、すぐさま道を戻ったはずなのに、変なやつに出会うわ、霧の道に着かないわ、散々である。
てか、着かないってどうゆうことだ?
「巴さん。周りを見てください。」
「…うん。」
景色が変わっていなかった。霧の道を出た時の場所から、多分ほとんど動いていない。目の前には道が続いているように見えるのに、歩いても歩いても、全然進んでない。
なにこの道。
「なあ巴ー。なんで足踏みしてるんだー?早く行こうぜ?」
「お前、なんで俺に乗っかってるんだ!あっち行けって言ってるだろ!」
いつのまにか俺の肩に男がもたれかかっていて、男の顔が真横にあった。気持ち悪い、離れろ!
男の顔を掴み、引き剥がす。
「いたたたた、多分そっちは行けねえと思うよ?俺も無理だったもん。」
「早く言えよ!そしてどっか行け!」
「酷くて冷たいわー。俺の知ってる巴だわー。」
「エビさんはいつからここにいたんですか?」
「ちょ、明ちゃん!変なやつに話しかけない方がいいよ!」
エビさんって、絶対それ海産物のほうの言い方してるよね。って、そんなことどうでもいい。
葡萄もエビも今は関係ない。
早くめいちゃんの家に繋がる道を見つけなきゃ。
エビ男が話しかけてきた。
「巴がちゃん呼びしてる。俺の知らない巴だ!俺も明ちゃんって呼んでいい?」
エビ男が腹立つ指摘をしてきた。そして滑らかに自分も、ちゃん呼びの流れに持っていこうとしている。
「どうでもいいです。いつからいたんですか。」
え、いいの?誰が君を呼んでいるのか分かりづらくなるんだけど…俺のキャラってそんなに濃いわけじゃないし、伝わるかな…
て、本当にどうでもいいことだこれ。早くこの男と別れれば問題は解決するし。明ちゃんもその方向に舵を切ったんだよね、そうだよね?
「くぅ、明ちゃんも結構クールなのね。俺がここを通ったのはついさっきだよー。」
ちゃん呼びしやがったこの野郎。別にどうでもいいことだけど、エビ男の何かしらが気に食わん。
ついさっきって、もう少し限定的に言えないのかこの野郎。
「どっちの道から来たんですか?」
明ちゃんは端的に質問していく。事務員みたいだ。
「えっとー、あっち?」
エビ男が真後ろを向いて指を刺した。子供みたいな説明だな。お前大人じゃないのか。
指差す方向には交差点があり、信号機が一つ立っているのが見えた。
信号機ってなんの意味があるんだろう。
進め、止まれという色を青緑と赤がそれぞれ示しているのは分かる。
でも、真ん中の黄色はなんだ?
なんであんな高い位置に立ってるんだ?
歩行者用と形が違うやつだ、これ。
…なんで歩行者用と分かれてるんだ?
歩行者以外の何用なんだ?
あれ?何かすごい違和感が……
「巴さん!もう、なんでいきなり歩き出すんですか!」
「え?」
気づいたら、信号機の目の前に立っていて、明ちゃん達がこちらに向かって歩いてきた。
「信号機が気になんのか?こいつに変なところは無さそうだけどなぁ。それよりもなんでこいつ一つだけなんだろな。」
「どうゆうことだ?」
「いや、ここ交差点だろ?縦側にだけ信号があったら、事故っちまうぜ?」
事故?周りをよく見て歩けば、ぶつかったりしないと思うが…
「横から車が来たら、衝突するじゃんか。」
エビ男はさも当然な顔でそう言った。
それよりも…
「くるまって何だ?」
「「え?」」
2人は不審な顔をしていた。
その表情を見て、俺はさっきの疑問のヒントを得た気がした。
俺は何かを忘れている。
そう思った。
「車は人を乗せる為の自動で移動する乗り物ですよ。」
「船とか飛行機みたいなもの?」
「何でそっちは分かって、自動車は忘れているんですか!」
「ご、ごめん。」
「巴が謝ってる!?し、新鮮だ!」
「うるさいぞ、エビ男!」
「エビ男!?面白いなそいつ。」
お前のことだわ。この場に男は俺とお前だけだろうが。
自分のことをエビ男と呼ぶはずがないだろうが!
「あの信号機は主に自動車用のものです。バイクやバスなんかも一緒に使います。」
「ばいく……ばす……」
「車に関しての事ほとんどを忘れているんですか!?電車や自転車のことは?」
「でんしゃ………じでんしゃ?」
「ダメですね、これは。」
ため息を出す明ちゃん。逆にエビ男はテンションが上がっていた。
「巴ぇ?お前いつからバカキャラ目指すようになったの?あざとくなったの?」
こいつ、言いながら笑ってやがる。
顔だけはいいこの男。その顔ぶっ壊してやりたい!
拳を握り、顔面にお見舞いしてやろうとしたところで、明ちゃんが立ち上がった。
「巴さん。何故、道路を横断して渡るのか疑問に思わなかったのですか?」
「特には…。」
「何故、信号機があると思いますか?」
「危険なことがあるから。」
「その危険とは何のことですか?」
「……分からない。」
「分かりました。」
「「は?」」
俺とエビ男は声を揃えて間抜け顔をした。
対義語を述べた明ちゃんは自信満々の笑みでこう言った。
「巴さんは、車が関係している物を忘れてしまっています。」
「ん?それはさっき分かったことじゃあ…」
「車が関係していなければ、近いものでも覚えているようです。試しにこれは?」
「横断歩道。」
「これは?」
「道路?」
「次にこれは?」
「なにこれ…」
「これ。」
「分からない…」
明ちゃんは道路の次に、道路に書かれた横断歩道とは別の白い縦線を指した。覚えがない。
その次は白い柵みたいなもの。何でこんな場所に柵が?
「エビさんは分かりますよね?」
「おう。一つ目は停止線だろ。二つ目はガードレールだな。」
「どちらも、車が危険を避けるためにあるものですよ。」
「信号と同じってこと?」
「いえ、合図を出すものではなく、意識を向けさせるものですね。どちらも文字通りの機能をしています。止まる為の線と守る道筋です。」
「止まる?守る?車は危ないものなのか?」
「はい。扱いを誤れば、とても危険なものになります。命に関わる…」
「命………っ。」
急に胸に痛みが走った。ものすごい速さで心臓が脈を打っている。く、苦しい。
「巴さん?大丈夫ですか?」
「………ああ、大丈夫。」
「巴。お前本当に覚えてないの?」
「車もお前も全く覚えてないよ。」
「…冗談だよな?」
葡萄風はポケットからバッジを取り出した。さっき見せてくれたバッジだった。
「これは、お前が描いてくれたムカリスって花の絵だ。これを見ても本当に何も覚えてないのか?」
「俺はそれを見たことない。」
「じゃあ、俺の夢を応援してくれたことも忘れちまったのかよ!」
「夢?」
「俺の夢はレーサーだよ。超危険な車の操縦士だ。」
レーサー、意味はわからないその単語に聞き馴染みがあるような気がした。
読んでいただきありがとうございます。




