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わたしわ おうちにかえってきました
しらないおうち
しらないおともだち
わたしのしっているひとたちわ いません
おうちはどこにあるの?
かえりたい かえりたいよぉ
おかあさん おとうさん かいとくん
わたしわ まいごだよぉ
*
霧の道は何事もなく通り抜けられ、俺の家近くの道に出た。振り返っても、普通の道が続いているだけのように見える。霧は見えない。
俺は明ちゃんを家まで送り届けることにした。
家まで明ちゃんを送ったら、美穂さんが出迎えてくれて、夕食をご馳走してもらう流れになった。
「はい、巴君。」
「あ、ありがとうございます。」
「どんどん食べてくれ!」
「すいません。今日もお邪魔しちゃって・・・」
「いいのいいの。明が友達を家に招くなんて今までなかったし、昨日巴君が来てくれた時、本当は秀人さんと二人して喜んだんだから。おかわり、今日もいっぱい作ったのよ?あ、お弁当どうだった?」
「すっごく美味しかったです。おかわりもみんなで完食しましたよ。」
「それは良かった。あの女の子も食べてくれたのね?」
「…はい。」
「お家には無事に送れたのね。良かったわ。」
「…そうですね。」
「……。」
「どうした巴くん。どんどん食べなさい!」
秀人さんが鬼のような顔で手が止まっている俺を注意する。そ、そこまで切羽詰まってるんですか…。
また明ちゃんのお部屋にお邪魔している。
こたつに向かい合って座る。
「巴さん。めいちゃんが言っていた透明のお家って何処にあると思いますか?」
「分からない。」
結局、あの家周辺を探索することなく、俺らは帰ってきた。無事にめいちゃんを家に届けたというのに消化不良である。他にも気になることはあったし…。
「私は、あの家のことを言っていたんじゃないかと思うんです。」
明ちゃんがそんなことを言った。でも、それは解答としておかしい。だってあの家、俺たち全員が見ましたよね。俺は否定する意味を込めて、明ちゃんに聞いた。
「あの家って、透明じゃなかったよ?」
「そうですよね。色づいてましたね。」
「???」
何言ってんのこの娘。話の開始地点と終着点が繋がってないんだけど。今の理解できる人いるの?
「私たちの目には普通に見えました。ただ、めいちゃんの目にはどう映っていたんでしょうか。」
「めいちゃんにだけ、透明に見えてたって話にしたかったの?それは…意味不明すぎるよ。」
「そうですね…忘れてください。」
俺は家に着いた時、めいちゃんに透明の場所を聞いた。
めいちゃんは「何処だろう。」と言っていた。
あの近くには見当たらなかった、あれはそういう意味だったんじゃないのか?
明ちゃんは自分の中で浮かんだものを口にしてみた程度の考えだったのだろう、それ以上話を広げようとしなかった。
「霧の道、帰りは霧が弱まってましたね。」
「あの道、何なんだろうね。」
「まるで異世界に入るための道みたいでしたよね。」
「とことんファンタジーだね、この街。」
透明なものを見つけたり、突然霧が濃くなったり、すれ違う人がいなかったり、普通じゃないと思うんだよな。
何でだろう。
「私たちも普通じゃないかもしれませんね。」
「えー。普通だよ。明ちゃんはちょっと変わってると思うけど、椋梨巴は何処にでもいそうな平凡な男だよー。」
「私の何処が変わってるんですか!巴さんのほうが変人ですよ。人の家の犬に餌をあげてますし、迷子を連れてくるんですよ?これで普通なら、世界中の人が普通になっちゃいますよ。」
「世界中の人が普通か、悪くないかもねそれ。」
「何言ってるんですか。それじゃあ恋なんかできないじゃないですか。」
「え?明ちゃん恋したことあるの?」
「失礼な!私にだって……恋くらい………」
「え!?」
明ちゃんの目から涙が溢れた。唐突で、本人も泣いていることに驚いている。俺、冗談でも触れちゃいけないことをいじっちゃったのか!?
「ご、ごめん!軽い冗談のつもりで…」
「い、いえ…そんなことは分かって………す、すみ、ません……止まらなくて…」
やばい、明ちゃんが顔を背けてしまった。あまりにも軽薄なことをしてしまった。そりゃ、高校生なんだから、恋の一つや二つ経験しているだろう。もしかしたら、現在進行形なのかもしれない。
俺は土下座することにした。
「本当にごめん。君の恋事情を侮辱するつもりはないんだ。傷つけてごめんなさい。」
「あの…巴さん。」
「はい…あれ?」
明ちゃんの顔を仰ぎ見れば、もう泣き止んでいた。さっきまでポロポロ涙が溢れていたのに。
「もう止まったんで、謝らなくて大丈夫です。そもそも、傷ついたわけではないので。」
「どういうこと?」
「自分でも分かりませんが、突然涙が出てきて、目にゴミが入ったんでしょうか?」
「本当に大丈夫なの?」
「はい。紛らわしくてすみませんでした。」
ゴミ?そうなのか?めちゃくちゃ辛そうに見えたんだけど、今は平然としている。感情の起伏が激しい人柄ではないし、本人が言うならそうなのだろう。
でも心配だから、恋愛事情をいじるのはこれからやめよう。
「俺、そろそろ帰るよ。」
「あ、はい。じゃあ玄関まで…」
気まずい。女の子を泣かした罰といえばそうなんだけど…うーん。もう一回謝った方がいいのかな…。
そんなことを考え、ふとシロが視界に入った。
心なしか、シロの黒斑が増えて見える。
てか、模様大きくなってない?気のせいかな。
「明ちゃん、なんかシロ汚れてない?」
「そうですかね?まあ、もうすぐお風呂なんで、綺麗になりますよ。」
「そっか、ごめん、どうでもいいことを。」
「いえ、シロ起きて?巴さん帰っちゃうよー?」
「…わふ。」
むくりと起きたシロに異変は特になさそうだ。やっぱり黒寄りに見える。めいちゃんと遊んでて汚れたのかな?
シロは自分から階段を降りて行った。今日は転んで落ちることはなかった。
俺たちも階段を降りると、美穂さんたちが待っていた。
「お邪魔しました。」
「また来てね。おいしいもの作って待ってるわ。」
「いえ、そんなにお邪魔させていただくのは…」
「何を言うんだ巴くん。いつでも来てくれよ。僕も美穂さんも、君が来るなら大歓迎だ。」
「ありがとう、ございます。」
何でこんなにも二人は優しくしてくれるんだろう。
すごく嬉しかった。
玄関を出て、明ちゃんが言った。
「二人と一匹で、めいちゃんに会いに行きましょう。」
「そうだね。約束したからね。」
「めいちゃんから貰った栞、失くさないでくださいよ?」
「失くさないよ。これからも大切にする。」
ちゃんとポケットに入っているのを確認した。それを取り出して、明ちゃんに見せようとする。
その時、花の香りがした。強い匂いだ。引き寄せられるような…。
子どもの泣き声。甲高く響く声が頭の中を占領していく。
《おどおさぁあん、おがあさぁぁああ……》
「……さ…、…もえ………、巴さん!」
「え?どうしたの!?」
「それはこっちのセリフです。急に放心状態になってたじゃないですか。」
「そ、そうなの?ごめん。」
「どうしました?」
「何でもないよ。じゃあね。」
「…はい。」
明ちゃんには言えなかった。
声だけじゃなくて、頭の中では映像のように見えたのだ。
俺は涙が溢れるのを我慢できそうになかった。
だから、逃げるように帰った。
俺は栞を握りしめた。
あの泣いている子は…めいちゃんだった。
読んでいただきありがとうございます。
2022/10/13 タイトル変更
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