神殿ダンジョン攻略戦
あたし達は神殿に突入した。
神殿は元々石切り場だったのか、段々畑かピラミッドのような構造だった。
「こりゃ、まるでダンジョンだぜ」
トラの言うとおりだった。林立する柱は一抱えもあり、柱の陰に通路や階段が隠れていて分かりにくい。
「遮蔽物が多くて、索敵がうまくできません」
「なんだか臭いのダ……」
フォルやイムが戸惑いの声を漏らす。
「大丈夫、こっちにはプロがいるんだから」
「そこを右、つきあたりの階段を登れば第三層です」
リーンさんの的確な指示がなければ、あたしも迷っていただろう。先行して潜入してくれた『祓い屋ムドー』のおかげで、迷路を難なく進んで行ける。
「前方、誰か倒れています」
フォルが柱の陰の暗闇を指差した。
顔に布をかぶった気味の悪い連中が何人か倒れていた。
「くんくん、生きているのダ」
イムがつま先でつついて確認する。
「リーダーの毒で気を失っているだけです」
ミイラ男ことメントゥスさんが毒手を使ったんだ。
「彼らは、神殿の神へ祈りを捧げる信徒です。邪神の復活を信じ、魔法師リューゼリオンの行いを支援していたようです」
前髪の隙間から青い瞳があたしに向けられていた。
「なるほどな。魔法師のアジトにはもってこいってわけか」
アララールを背負ったトラが辺りを見回す。
柱の陰に気配があり、どうやら信徒たちがこちらの様子を窺っているようだ。
「『祓い屋ムドー』のみんなは無事かな、どこへいったの?」
メントゥスさんやブランケンさん、アミダブさんの顔が思い浮かぶ。
「見えない怪物たちに襲われて、必死で抵抗したのですが、ブランケンがダメージを受けました。幸い、神殿の奥に隠し通路があってそこへ逃げ込んだのですが」
二体の怪物、つまりクズナルド兄弟だ。
「それでリーンさんだけが脱出を」
「えぇ。気配を消せる魔法で、なんとか。でも見つかってしまった……。というより、こちらの動きは何らかの方法で察知されていたのかも知れません」
「わかった。絶対に皆を助けよう!」
「リス……。なんだか強くなりましたね」
「え? そうかな」
「逞しくなったと言うか」
リーンさんと見つめ合っていると邪魔が入った。
「神への祈りを邪魔するな!」
「異教徒どもを血祭りに!」
柱や通路の奥から、ワラワラと十数人の信徒たちが駆け出してきた。手に手に鉄の棒や、槍などの武器を携えている。
「ここは神聖な場、異教徒は去れ!」
「うるせぇ!」
「んぎゃっ」
先頭の『やったか!?禁句』の戦士アリウスが、信徒の頭頂部を剣の柄で殴りつけた。
鈍い音がして叫んでいた信徒がぶっ倒れた。
「おぉ……なんと野蛮な」
信徒たちに動揺が広がる。あたしたちはいつの間にか包囲されていた。
「やばい、囲まれた!」
「包囲陣形、突破困難」
「へっぴり腰の素人集団じゃん。ブチのめして進めばいいのよ」
あたしが拳の指をボキボキと鳴らし、一歩進み出たときだった。
「ここは俺たちが引き受ける!」
ガリューズさんが動いた。信徒たちの武器を叩き落とし、蹴飛ばした。
「リスさんたちは奥へ!」
「こんな連中、相手にするだけ時間の無駄です!」
「魔法でいっきに片付けますから」
そう言うと『やったか!?禁句』の面々は、一気に乱戦へと突入。次々と信徒たちをなぎ倒した。
数に勝る信徒の波を蹴飛ばし、まるで無双状態だ。
相手は数は多いけれど動きは素人。剣術も格闘術も使えない感じの連中だ。
「いけ!」
ガリューズさんが叫ぶ。襲ってくる信徒の側頭部を、鞘で殴り気絶させながら。
「ガリューズたちに任せるぞリス、進むんだ!」
「う、うん!」
トラに背中を押され、あたしたちは奥へと進むことにした。
「この階段を登れば、祈りの間、最深部です」
あたしたちはリーンさんの指差す方向へ進む。柱の陰から信徒が二人飛び出してきた。すぐさまペリドがビンタで張り倒した。
「問答無料、我らの姉妹を返せ……!」
「いいから進もう!」
信徒に構っても仕方ない。もう目の前に大きな両開きの扉があった。
「この奥にいるわ」
アララールが視線を向けると、扉の前に一人の男が現れた。
「賊どもが! 神官たるワシを倒さぬ限り、神聖な祈りの間へと進むことは出来ぬッ……!」
真っ白なマントを羽織ったスキンヘッドの男が立ちはだかった。気合とともに額に青筋を浮かべ、印を結ぶ。
「魔力反応! 呪詛です!」
フォルが叫ぶのと同時に、あたしとイムは飛び出していた。
「いくよイム!」
「先手必勝なのダ!」
一気に間合いを詰め、上位神官の目前であたしはジャンプ。イムは床をスライディング。同時にダブルキックをぶちかました。
「「たぁあっ!」」
「ぐは!?」
あたしの顔面蹴りとイムの股間蹴りがキマった。魔法は狙いを外れ、神官は背後のドアに激突、気を失った。
そして、両開きの扉が重々しい音を立てて開きはじめた。
青白い魔法の灯りが灯る神殿の最深部。その奥に複雑に絡み合ったパイプと緑色に光るタンクが見えた。
「あれは……!?」
「私達を培養したカラクリと、同じやつ?」
フォル言う通り、見覚えがあった。地下の秘密施設であたしも見た記憶がある。というより、あの緑色のタンクの中で目が覚めたのだから。
「誰かいるのダ!」
イムが薄闇の向こうを睨む。狼の耳を動かし、身構える。
「……失敗作どもが、ここまで来るとはな」
ユラリと痩せこけた男が緑色のタンクの前で振り返った。
落ち窪んだ目、両目が悪鬼のように爛々と光っている。
「リューゼリオン様……」
フォルの言葉は魔法師の耳に届いたのだろうか。
「貴様ら姉妹達に流れる竜の血は無駄だったが……。そうだ、死体から滴る血を集め、精製すれば……再利用できるかもしれない」
発せられたのは冷たい声、ダダ漏れの狂った思考。
あたしたちを人間と思っていない眼差し。
「1号はどこ!? 返しなさいよ!」
あたしは怯まず尋ねた。
「何を言っている3号、すぐに会わせてやろう、死体置き場で……なぁ!」
魔法師リューゼリオンが目を見開きながら叫んだ。まるで死霊のように痩せこけた顔が狂気に歪んでいる。
「もうひとりいます!」
フォルがなにかの気配に気づき、叫んだ。
「リス、気をつけろ!」
トラがアララールを下ろし、あたしたちを押しのけ先頭に立った。
そのとき、どうっと生臭い風が動いた。
『イヒィイイイイ! ぶっしゃぁア!』
紫色の火花が空間に散った。見えない何かがトラの大きな身体を吹き飛ばした。
「ぐは――!?」
「トラくんっ!」
壁に背中を打ち付けたトラに、アララールが悲鳴をあげた。
「トラッ!」
「トラのあるじ!」
「敵襲! 光学迷彩! 量産型クズナルドと同じです!」
『5号ォオオオ……! 量産型じゃぁないんだな。ボクちんこそが……オリジナルだぁあ!』
「うぐおぉおッ!?」
見えない拳の連打がペリドに襲いかかかった。
その声は間違いない。神殿の外で襲撃してきたクズナルドと同じものだった。
「クズナルド……!」
「失敗作のゴミ掃除はクズナルド君に任せるとして……。私は魔女狩り、といきましょうか」
余裕の笑みで魔法師のローブを振り払うと、リューゼリオンが近づいてきた。
「アララール! あたしの後ろへ!」
「邪魔だ、3号ゥウウ! 竜の血を身に宿し、真の魔法師として覚醒! 真の魔法使いへと進化した私、リューゼリオン様の敵ではないわぁああ!」
「ぐ……!?」
凄まじい波動が放たれた。まるで暴風のように魔力の嵐が渦を巻いた。
<つづく>
本年の更新はこれで終了となります。
皆様良いお年を……!
再開は1月3日を予定しています★




