Sランクパーティと、リスたちの連携
『『竜闘術、破砕吐息!』』
二体の怪人が同時に腕を突き出した。
――竜闘術!?
あたしたちと反対側にいるパーティ、それぞれに向かって魔法のような輝きを放つ。耳を疑う暇もなかった。紫色の渦が矢のような速度で迫ってくる。
『『くらってぇ、砕けろォオ!』』
怪人たちとは8メルほども離れていたのに、技を放った。衝撃波を伴っているのか、通過する地表の砂を巻き上げる。
しかも中距離攻撃だなんて!
「避けて!」
「のわ!?」
あたしとイムは左右に逃げた。けれどペリドが完全に避けきれなかった。
「ぬぐぉ……ッ!」
「ペリドッ!」
紫色の渦が激突、ペリドの腕で火花がスパークする。押し寄せる衝撃波で目も開けていられない。
「ぬ、ぐ……!」
ペリドの大柄な身体が後ろに押され、地面に片ひざを突いた。腕をクロスさせ、腕に巻きつけた鎖で防ぐけれど、周囲で爆発的に砂煙が舞った。
「大丈夫!?」
「なんとか……!」
ペリドの迷彩柄のメイドドレスが破れていた。鎖が無ければ腕がズタズタになっていたに違いない。
「回避!」
「とあっ……!」
「何これ、キモい!」
向こうのパーティ『やったか!?禁句』もなんとか避けたようだ。
しかし紫の渦が着弾した遺跡の一部が爆発、ガラガラと崩れ落ちる。
「飛び道具を持ってやがったか! リス! 向こうのパーティと連携しろ!」
「わかってる! トラはアララールとリーンさんをお願い!」
相手が竜闘術っぽい技を使うってのはわかった。あたしの噛砕牙やイムの裂爪刃とも違う。
射程が長いのはズルいけれど、考え方を変えればあたしの竜闘術も攻撃範囲を広げられるってことじゃ……。
『グゥフフ! 狙いは少々逸れたがァ』
『強いぃッ……! ボクちん、もはや無敵ィ!』
『この完成形の魔導人造生命体こそ、最強ォオオ!』
量産型クズナルドたちが、ニィイと歪んだ笑みを浮かべる。黄色い歯が異様に大きくて、口とのバランスがおかしい。
「量産型のくせにムカつく……!」
『ギヒヒ、試作品が強いのは創作文芸の中だけだよ、無知なクソガキめぇ! 量産型こそ完成形イイイッ!』
『ボクちんたち、最強ナイスボディ!』
『しかぁし! 君たちシスターズは所詮、試作品の出来損ない……! ゴミのガラクタだぁァ!』
甲高い声が耳障りだし、あたしの姉妹たちをゴミだのなんだの、侮辱するのは許せない。
「うっさい! ぶん殴ってやる!」
相手はクズナルド顔の怪人。人間じゃないなら遠慮もいらない。
「ひ、被害担当、分析成功。さっきの竜のブレスを模した技……。ヤツは拳の表面、鱗を砕き放ったようです」
「そうなの!?」
「竜闘術のエネルギーによって、熱と衝撃を発生させ、破壊的な渦として放ったのでしょう。しかし……射出後は慣性により、射線軸は変えられない……」
ペリドがあたしに解説しながら立ち上がった。そして、焼け焦げた鎖を解き放つ。再び、戦う態勢をとる。
「ペリド……あんた、まさか」
「初見殺し。未知の攻撃を受けるのも、一番槍の役目ですから」
「バカ! そんなこと頼んでないっ!」
おもわずあたしはペリドに抱きついた。わざと攻撃を受けたんだ。相手の攻撃を分析するために。
「リス……」
「二度としないで。こんなこと!」
「わかりました、リス隊長」
「わかればよし!」
ぱんっと背中を叩いて、怪人たちと向き直る。
『グゥフフ、もう少しィイ!』
『遊んでから殺ぉス!』
二体の量産型クズナルドが地面を蹴った。
あたしたちと『やったか!?禁句』それぞれに同時に攻撃を仕掛けてきた。
量産型クズナルドたちの姿が薄れてゆく。
『潜伏ゥ……!』
光学迷彩、全身を覆う竜の鱗で隠れるつもりなのだ。
「姿を消しても位置を特定できるよう、支援します!」
フォルが叫んで腕を突き出した。彼女の竜闘術、一本に連なる銀の糸『竜の髭』が蜘蛛の糸のように伸び、それぞれに絡みついた。頭上で渦を巻き矢印のような赤い半透明のマーカとなる。
「ナイスフォローペリド!」
「目標をA、Bと呼称!」
姿はほとんど消えたけれど、間抜けにも赤いマーカーが輝いている。
「ありがてぇ! 狩るぞ……!」
量産型クズナルドAが突っ込むと、『やったか!?禁句』の面々が一斉に動いた。
『狩れるものかァア! 一匹ずつ、首をねじきってェエエエ!』
姿は見えなくなったけれど、フォルのつけた目印が赤く輝いている。
「そこ! 聖槌破光!」
魔法師マーシルさんが無数の光弾を放った。それは見えないクズナルドAに次々と着弾、ウロコを吹き飛ばした。姿があぶり出されてゆく。
『バカな!? ウロコは、対魔法装甲じゃァアア……!?』
「耐久限界ってもんがあるでしょ」
マーシルさんは事も無げに言うと、三発に絞った光弾を放つ。それは正確に両腕、首に命中。体液が散った。
『ぐばぁっ!? げ、下民の分際でぇあああ! ぐらぁぇ、竜闘術、破砕吐息!』
怪人の拳に紫の光が集まる。
「斬……!」
「撃……!」
けれど左右から、戦士アリウスさんと剣士シノブさんが肉薄していた。
『んなっ!?』
クズナルドAが気づいたときには、すでに懐に入っていた。
「「二重奏破!」」
下段から斬り上げる剣技が、二重の半月を描いた。
『ギャ……ぶぉおおおほほおお!?』
クズナルドAの左右の腕は同時に一刀両断されていた。
「す、凄い……!」
あたしは歓声をあげていた。二人の息はぴったりで、完全な同時攻撃。相手に対処する暇を与えない。
怪人がよろめくが、二人は深追いせずにダッシュで離脱。入れ替わるようにガリューズさんが駆け込んでいた。
チームワークに目を見張るが、ガリューズさんはクズナルドAにむけ剣を上段に構え、
「魔剣術式――斬影裂刃」
一瞬にも満たない時間。
『――――――あ……ぁれ?』
クズナルドAの頭が飛んでいた。
剣を振り下ろしたはずなのに、動きがまったく見えなかった。
すでにガリューズさんは残身の構えから剣を鞘に納めつつあった。
し、神速の……剣!?
クズナルドAの首は空高く飛んでいた。
赤黒い飛沫を散らしながら、遺跡の壁に激突。湿った音をたてて弾き返された。
首も腕も失った身体がゆっくりと両ひざを地面につく。そしてボロボロと朽ち始めた。
「す、すごいのダ!」
「あれがプロの戦い……!」
「Sランクの戦闘パーティ」
だけど見とれているわけにもいかなかった。あたしたちの前にもクズナルドBが迫っていた。
『うぉのれぇああ! くらぇえ、竜闘術、破砕吐息!』
「二度おなじ手は食わぬ、戦術的返礼っ!」
ペリドが量産型クズナルドBよりも一瞬早く、両腕の鎖を叩きつけた。
『ギャッ、アァアア!?』
ジャララ! と鎖が交差し見えない空間で火花が散り、ウロコが砕けた。削られた傷口が空間に浮かび上がる。
あたしたちだって連携できることを見せてやるんだ。
「イム! 傷口を狙える!?」
「オラにまかすのダッ!」
イムが駆け込んで、裂爪刃を叩き込んだ。黄金の三日月みたいな光が、ピンポイントで開口部を正確にえぐる。
『ヌッギャア……!? な、何ィイイ!?』
ブシュァ! と体液が噴き出した。
くるくると腕が宙を舞い、地面に落ちた。イムの一撃が届いた。
腕はまるで干物みたいに一瞬で朽ちてゆく。
クズナルドBの傷口から、みるみるうちに光学迷彩が解けはじめた。
「ダメージを受けています! 自己修復する前にとどめを!」
フォルが叫ぶ。言われるまでもない!
クズナルドBは左腕を切断され、混乱しよろめいた。
あたしは駆け込んで直前で跳ねた。
「はぁあああっ!」
全力、竜闘術!
「視えました! 首の後ろに魔石の反応が! コアです!」
『知れたところで……出来損ないの小娘にぃいい、なにができる! ボクちんは超エリートォオオ! 貴様らはゴミィイイ! ゆえに、ゆえにぃいい!』
「うるさい……っての!」
クズナルドBの突き出した拳を避けた。跳び箱みたい両腕で叩きつけ、更に上に飛ぶ。
『なにィ!?』
「あたしたちは……! ゴミじゃ……ないっ!」
左腕を失ったクズナルドBの肩に手を置いて、軸にして回転――。身体を捻る。そして竜闘術を込めた蹴りを放つ。
狙うは魔石のある後頭部!
「延髄斬り――死神の鎌!」
あたしの右の足首が、クズナルドBの後頭部をえぐり、叩き伏せた。
『ふぼ、ギュアッ!?』
赤い光が炸裂すると、目玉と舌が三倍ぐらいに膨らんで爆散。クズナルドBは前のめりに地面へと沈んでいった。
「リスのあるじ!」
「頭部破壊、まさに死神の鎌……!」
「……ちょっと汁がとびちってますが」
「えっ!? いっ、いやぁああ!?」
汚い、最悪……!
<つづく>




