表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/80

幕間 ~ざまぁ、滅亡のクズナルド~


 ◆


 王都ヨインシュハルト、商業地区郊外。ロシナール商会・軍需通商ギルド執務室。


「ぜ……全滅!? 全滅とはどういうことだ!? おいっ!」

 朝日が照らす執務室に、甲高い声が響いた。


「ク、クズナルド様……! 申し上げたとおり、当方の被害は甚大です。強襲隊全員が返り討ちに。重傷者10名、再起不能となった者もおります。これ以上は……」

 消え入るような声で『スマイル連合』のギルマスは(こうべ)を垂れた。

「失敗したっていうことか!?」

「そ、そんなことはないのですが……。戦力の大半を失い、これ以上の作戦遂行は困難でして」

「それを失敗って言うんだよ! ボクに恥をかかせやがって!」

 耳障りな声で罵倒される。


 魔女に化けたドラゴンを狩る……という作戦は失敗した。冒険者ギルド『スマイル連合』の精鋭、Aランカー以上の猛者ばかりを集めたにも拘らず、壊滅的な被害を被った。

 相手は魔女と格闘術師、それに小娘が二人。

 対してこちらは十五人以上。武装した戦士と戦闘魔法師を差し向けたにも拘らず、だ。

 戦力差は圧倒的。相手は夜中の急襲に怯え、震え上がって命乞い。ゆえに楽勝……のはずだった。

 しかし――結果は全滅(・・)


 魔女は「ドラゴンが化けている」という次元ではなかった。半狂乱で帰投した連中によれば「悪魔、あるいは真の魔女」だったと。

 それだけではない。格闘術使いのトラリオンという男もただ者ではなかった。それに小娘たちも共闘し、戦力差をあっというまにひっくり返したのだ。


「何がギルド最強の戦力だ! この役立たずめが! キィエエエエ!」

 半ギレで叫ぶと、小男は朝食を載せた銀の器を投げつけた。ギルマスの真横をかすめ、背後で激しい音を立てる。

「か……返すことばもございません」

 ギルドの被害は甚大だ。各パーティの主戦力を引き抜いた代償はあまりにも大きかった。


 それだけではない。

 朝になり、ガラの悪い連中が『スマイル連合』ギルドに乗り込んできて大騒ぎとなった。

 夕べの襲撃を知った連中が、抗議に押し掛けてきたのだ。それは、トラリオンが所属していた『モンスタァ★フレンズ』の冒険者たちだった。

『俺らのパイセンに何してくれてンの!? あぁ!』

『押し込み強盗はご法度じゃねぇのか!?』

『リスちゃんを襲うとか、殺されてぇのか!』

『マジでこのギルド潰すぞコラ!』

 ――ひぃい……!?

 事情を知らないギルドの面々は怯え、参加して返り討ちにあった連中は袋叩きにされそうになった。


「それに、表の騒ぎはなんだ!? なぜ冒険者がロシナール商会前にいる!?」

 オラついた冒険者数人が商会前でモメている。

 衛兵が止めに入っているが「夕べの襲撃の主犯がここなんだよ!」「録画をみりゃぁわかる!」と大騒ぎになっている。


「……どうやら昨夜の襲撃は、すべて映像で中継されていたらしくて」

「バカか貴様! そんなことは予想できただろう! 映像中継の妨害魔法は!? そのための魔法師もいただろう!」

 目を血走らせて叫ぶクズナルド。


「それは申し上げた通り、魔女に瞬殺されまして」

 ギルマスは説明さえも嫌になってきた。思わず力なく苦笑する。

「キ……キ、貴様ぁあ……!? 父上に……父上に知られてしまうじゃぁああないかっ!」

 朝食を床にぶちまけるクズナルド。

「はぁ……」

 金欲しさにロシナールのバカ息子の言いなりになったばかりにこのザマだ、とギルマスは後悔した。

 いまさら悔やんでも悔やみきれない。ギルドは機能不全、このまま瓦解しかねない。


「そ、そうだ! 5号はどうした!? 最強の切り札だったはずだ! あいつには金がかかっているんだ……! 王政府から特需が期待できるんだ! そのための実戦データ……! 出来損ないの2号や3号とは違うんだぞ!?」

 起死回生だとばかりに細い目を見開き、口角泡を飛ばす。

 これはすべて王政府の魔導新兵器開発のため!

 ならば5号の実戦データと引き換えに、モミ消すことも出来るかもしれない。クズナルドはそう考えているのだ。


「……彼女も敗北しましたよ」

 ギルマスはぶっきらぼうに答えた。もうこの男の相手をしても無駄だと悟ったのだ。


「なっ、なにぃいい!? バカな、そんな」

「トラリオンと小娘たちにやられてましたよ。それで魔女に捕らえられ……。今はやつらの家で捕虜状態に。救出は難しいでしょうな」

「貴様……! 今すぐ戦力を集めて奪還しにいけ!」

 黒塗りの執務机を叩くと、朝食を載せた食器が音を立てた。

 背は低く、神経質そうな顔つきは怒りと混乱で醜く歪んでいる。

 一言で言えば小物。次期当主などの器ではない。

「ご自分でどうぞ。あっしはこれで」

 金髪を乱しながら叫ぶ小男に、ギルマスは冷たい視線で一瞥すると背を向けた。

「おい、まて! いや、まってくれ! 金なら払う……!」

 甲高い絶叫が響き渡った。


 それにも増して外が騒がしい。ハッとしてクズナルドが振り返ると、二階の窓から外が見えた。

 敷地を見下ろせる窓から覗き込むと、商会を囲む塀と。正面の門には、鉄門扉を蹴飛ばすガラの悪い冒険者が数名みえた。衛兵は諦めたように何もしない。

 それどころか野次馬や、夕べの襲撃動画を観たであろう市民たちも、睨み付けるような視線を商会のほうに向けて集まり始めていた。


「あぁ……まずい! だ……誰か……! 誰かいないのか!? チキショウァアア! 執事長! おぉい……!」

 クズナルドの声が虚しくこだまする。

 ロシナール商会の建物には今や誰もいない。いや、近づけないのだ。


 やがて執務室の扉が静かに開いた。

 結界でも展開されたのか、不意に外の喧騒が消えた。

「……!」

 気がつくと漆黒のマントの魔法師が立っていた。

 傍らには小柄な青い髪の少女。見覚えがある。魔導兵士の試作品、4号だ。


「ま、魔法師……! ラグロール・グロスカ卿! あぁいいところへ……! 助けてくれ、ボクを逃がせ……!」

 ヨタヨタと近寄り手を伸ばす。貴族服は乱れ、顔には狂気の色が濃くなっていた。


「クズナルド様、残念ですが」


 青白い糸が弧を描いた。

 空中にペン先で描いたような、細く輝く()が輪となりクズナルドの肉体に食い込んだ。


「――ぐあっ!? あっ……これは……!」


竜闘術(ドラグアーツ)鋼竜糸(メタリア)

「ドラゴンの内筋を動かす微細なワイヤーです。蜘蛛の糸よりも強靭です」


「ま、魔法師ラグロール・グロスカァア! そんなことを聞いているんじゃぁあ……ない! 放せ! ボクにこんなことをして……ぎゅぶ……!」

 顔に首に糸が食い込む。

 糸で縛られた小男は、そのまま執務室の椅子に腰を落とす。自分の置かれた状況が理解できない、という顔で叫ぼうとあがく。

「ご安心を。殺しはしません。私たちは……ですが」

「はい」

 傍らの4号(フォル)と視線を交わす。

 糸の主は静かに、礼儀正しく一礼をすると背後の闇へと消えて行く。


「んーゅ!? んんっ……! ど、どういう……ことだ……き、貴様! 父上に……貴様を処罰してもらうぞ……!」

 青ざめるクズナルドに対し、魔法師は汚物でも見るような視線を向けた。

「お父上は全てをご存じです。この件の責任をとれと、もうされました故。ここから逃げられては被害が広がります」

 ラグロース・グロスカは天をあおいだ。いつのまにか黒い蝶が一匹、天井付近を舞っていた。


「なっ……な、父上が!? な、んなバカな……ぁあああ!?」

 眼球を破裂させんばかりに見開いたクズナルド。

 その額に、ヒラヒラと黒い蝶が舞い降りた。窓の隙間から入ってきたのだろうか。漆黒の羽をゆっくりと動かす。


「貴公は魔女の逆鱗(・・)に触れました。呪詛返し……。私は5号(ペリド)を呪術的供物として難を逃れますが……。貴公は無理でしょう」

「何をいっているぅぅうう!?」

「一刻も早くここを離れたいので、これにて失礼します」

 事務的に告げると小さく会釈をし、魔法師は姿を消した。ドアが閉まると静寂が解けた。


 外のざわめきが大きくなる。

 それは野次馬たちの声だった。だがロシナール商会、あるいはクズナルドへの怒りというよりは、何かに驚き、逃げ惑う声にも思えた。

「な……なにが?」

 食い込んだ糸に苦痛を感じながら、なんとか身をよじると外の様子がみえた。


 人々が大慌てで逃げて行く。時おり、天を指差して何かを叫びながら。

 空を見上げる。


 濁ったクズナルドの目に映ったのは、赤い光だった。それはだんだんと大きくなっている。

「くそ、この虫けら……邪魔だ!」

 首を振ろうにも動かない。肉に食い込んだ糸で皮膚が切れ血が流れた。額の上に乗る蝶が、ゆっくりと呼吸するように羽を広げた。

 そして、巻き髭のような口を伸ばし血をすする。

「ひ……!?」

 漆黒の羽に「目」が開いた。

 血走った怒りと憎悪の魔眼が、無言でクズナルドを捉えた。


 空の光がさらに大きくなる。

 ビリビリと窓ガラスが振動し、室内の物が落下しくだけた。

 空に浮かんでいた綿雲がパッ、と散った。


「ほ――――星!?」

 衝撃波で窓が吹き飛び、そして閃光に飲み込まれた。輝く星が商会の館を直撃――。


 その日、王都に星が落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >空に浮かんでいた綿雲がパッ、と散った。 「ほ――――星君の大リーグボール!?」  衝撃波で窓が吹き飛び、そして閃光に飲み込まれた。輝く星が商会の館を直撃――。  その日、王都に進撃の巨…
[良い点] 魔女の逆鱗に触れたクズナルド。 だがしかし、黒い蝶は寄り道をしていた。 とある異世界に寄ったのだが、魔女アララールを覗いていた某賢者様はヤバい奴だった。 流石のアララールも粘液塗れは勘弁し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ