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ペリド、軍人(アーミィ)の誇り

 ★


「ぬぅ……うううっ!」

 5号(ペリド)がもがけばもがくほど、泥沼に沈んでゆく。既に腰半分まで沈んでしまっている。

 アララールの魔法は地面を泥沼に変え、相手の動きを封じるものだった。魔法が通じない相手でも、間接攻撃なら通じるわけね。

「そのまま沈んじゃいなさいよ!」

 このタイミングで蹴りつけてやろうかと思ったけれど、あたしは踏みとどまった。

 さっきブッ飛ばされたダメージで身体が痛い。それに5号(ペリド)の周囲2メルは泥濘(ぬかるみ)に変わっていて近づくのは危険だからだ。


「こんな原始的なトラップなぞ……!」

 5号(ペリド)が苛立たしげに両腕で地面に踏ん張るが、空しくズブズブと深く沈むばかり。


「貴女は何も得られない。これ以上やっても無意味よ」

 アララールは諭すように話しかけた。

 あたしは周囲に視線を巡らしたけれど、隠れている襲撃者の気配は無さそうだった。卑劣な襲撃者たちは、アララールの反撃で重傷を負い、蜘蛛の子を散らすように逃げ出したらしい。


「自分は……任務を遂行する! 命令に忠実であること、目的を果たすこと……! それこそが軍人の誇りであり存在する意味なのだ……!」

 まるで獅子が吠えるように叫んだ。


「あんた軍人なわけ?」

 あたしは思わずツッこみを入れた。

 だって、あまりにも可笑しかったから。口調もつい、小馬鹿にした感じが出ちゃったかもしれない。

 緑色の髪を振り乱し、5号(ペリド)があたしをキッと睨み付けた。

3号(リス)、貴様ッ、愚弄は許さんぞ……!」


 何をキレているのか。逆ギレもいいところだ。これには流石のあたしもカチンときた。

 ずんずん、とあたしは近づいてゆく。

「はぁ!? 愚弄ってなにさ、強盗のくせに。軍人ってのは王国軍の騎士団とか戦士団とか、そーゆーものでしょ? で、アンタは何なわけ!?」

「……ッ!」

 痛いところを突いたみたい。

「暗闇に紛れて、コソコソとさ、ひとん()を襲って! それって、強盗とか盗賊とか、卑劣なクソゴミってことじゃん!」

「ク、クソゴミ」

 あたしは言ってやった。

 だってそのとおりでしょ。

 5号(ペリド)は顔を真っ赤にした。

 けれど、泥沼から腕を引き抜いたところで、愕然とした表情に変わった。泥だらけの自分の手を見つめて戦慄(わなな)きはじめる。


「自分が……強盗……? 違う……! 誇り高き軍人だ、そしてこれは任務だ……! 命令、作戦の遂行、ドラゴンを狩る……重大な任務で……。コマンダー、司令官の指示で、魔女に姿を変えた敵を……制圧しなくては……」


 ワケのわからないことをブツブツと言い出した。泥沼のギリギリまで近寄って、あたしは畳み掛けるように言ってやる。

「ドラゴンなんてどこにもいないわよ! バーカ! 何を見てんの? 自分の頭で考えなさいよ、デカイ図体してさ! このウスラとんかち」

「うっ……ぐ、ぐぐ、おのれ……」

「何よ、やるならそこから出てきなさいよ」


 と、向こうから声が聞こえてきた。

 飛び出していったきり、先発隊と戦っていたらしいトラたちだ。


「あるじー! リスのあるじ……!」

「イム!」

 イムが駆けてくる姿は元気そのもの。おもわずホッとする。その遥か後ろからドタバタと大柄なトラの姿も見えた。

「トラも……!」


「お前は誰なのダ!?」

「ぎゃんっ!?」

 イムは暗闇の向こうで、二刀流男(・・・・)の尻を蹴飛ばした。まだそのへんにいたらしい。慌てて逃げ出すと、今度は後ろから来たトラと鉢合わせ。

「てめぇもいたのか!」

「さっ! サーセンぶぁ!」

 おもいっきりビンタされ、そのままキリモミ状態で闇の向こうに消えた。


 イムが庭先に駆け戻ってきた。

 ズザザーッと、急停止。アララールとあたしを見て安堵の表情を浮かべた。

「あるじたち無事……って、なんじゃコラ!?」

 庭先に半分埋まった5号(ペリド)を見つけて飛び上がる。

「オマエ! オラの縄張りに、勝手にそんな穴堀りやがったナ!?」

 イムはガルル! と牙をむき出しにして威嚇する。ちょっと勘違い気味だけど、これで形勢は完全に逆転だ。


「く……増援の2号(イム)……! 危険な暴走野獣、貴様も、暴行常習犯の3号(リス)共々、制圧、排除せねばならぬ存在……!」

「暴走野獣……オラのことかー!?」

「誰が暴行常習犯よ!?」


 あたしらのツッ込みにも怯まず、5号(ペリド)が全身を強ばらせ、気合いを込めた。

「おーい、無事か……!?」

 トラがようやく到着した。


「んげっ!? なにその顔!?」

「まぁ……! トラくん、ひどい顔……」

 あたしとアララールは小さな悲鳴をあげた。

「へへ、ちょっと拳で()り合ってよ」

「ちょっとって、血だらけじゃん……」

 おもわず唖然とした。どんな相手と殴り合いをしていたのよ……。


 そのときだった。

「――はぁ……ああっ! 竜闘気対魔法装甲(ドラグメンツアーマ)……全解放ッ!」

 5号(ペリド)が叫んだ。同時に腰の周囲の泥沼が沸騰したように泡立ち、破裂して吹き飛んだ。


「きゃっ!?」

「なんなのダー!?」

「ぬぅおお!?」


 降り注ぐ泥の雨の向こうから、ゆっくりと大柄な人影が立ち上がった。

「ふぅ……うううう……!」

 5号(ペリド)だ。

 筋骨隆々たる全身に力を漲らせている。ドシュゥウ……と、全身から水蒸気のように闘気が揺らぐ。おまけにズボンやブーツの泥もすべて吹き飛んでいた。


5号(ペリド)、アンタ……!」

「あらあら、すごいわね」

 アララールが呆れたように声をあげた。気迫で魔法を打ち破ったんだ……!


「だから、穴を掘るなーッ!」

「まってイム……!」

 あたしが気をつけてと言う前に、イムはダッシュしてジャンプ。自分の倍もあろうかという5号(ペリド)へ飛びかかった。

 右腕には、赤い光が宿っている。

竜の爪(ドラグファング)なのダ!」


竜闘術(ドラグアーツ)とて、自分の竜闘気対魔法装甲(ドラグメンツアーマ)には……通じぬ!」

 5号(ペリド)がイムのほうを一瞥し、左腕で攻撃を受け止めた。緑と赤の火花が散って、スパークする。

「わふっ!?」

 イムは目を見開いた。けれど瞬間的に5号(ペリド)の腕を蹴って、後ろへと逃れる。

 一回転して軽く着地、ふるふる……と首を振る。


「リスのあるじ……あの縄張りあらし、強いノダ」

「そだね、言おうと思ってたの」


「おいおい、おまえさんよ、仲間はみんな逃げたぜ? そんなに頑張るこたぁねぇだろ。帰んな帰んな」

 間の抜けた声を出したのはトラだった。5号(ペリド)と対峙して肩をすくめてみせる。


「貴様がこの拠点の司令官(コマンダー)か」

「こまんだぁ?」

 は? と首をかしげたそのとき。

「制圧する! 指揮系統を破壊するのは、作戦遂行の……常道!」

 ビュワッ! と5号(ペリド)が鋭い手刀を繰り出した。

「っと危ねぇ!」

 どうみても間合いが遠い。届かない……はずなのにトラの右腕から血が飛び散った。

「なっ……!?」


「よくぞ見切った、だが……!」

 空中に銀色の蛇のような軌跡が見えた。それがまだまだ空中を滑るように動き、トラを背後から狙っている。

「トラ避けて!」

「わってらぁ……!」

 前屈みになって身を低くする。その頭上を銀色の蛇が通過する。

 ジャラララ……と金属音とともに、5号(ペリド)の右腕に絡まりながら戻る。


「仕込み武器のスキルたぁ……気が利いてるぜ」

自在竜鎖拳(ジャッキィチェン)を初見で避けるとはな……!」

 5号(ペリド)が両腕を胸の前でクロス。ジャララ……と左右の腕から二本の鎖がほどけた。先端には尖った分銅のようなものがぶらさがっている。


「トラ! その怪我じゃ無理、三人で戦わないと……!」

「そうなのダ!」

 あたしはイムと同時に飛び出していた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アララールが仕掛けた泥沼はペリドを見事捕らえていた。 だが奴は常識外れの気迫で纏わり付く泥を撥ね返してしまうとは。 それに手札も多彩であり、リスやイムとは一線を画する存在のよう。 ただ、自…
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