トラリオンとリスの新しい仕事
◇
「ねぇトラ、スキルって何?」
「得意技みたいなものだ」
「アバウトすぎ! もう少しちゃんと説明してよ」
俺の説明にリスは納得できなかったのか、食って掛かってきた。
「知っての通り、俺のスキルは『寝技』だ。関節をキメて締め上げる」
「それは知ってる! どうやって手に入れたか教えてよ」
「ひたすら修行。それしかない」
仮に、リスにも何らかの特別なスキルが眠っているとして、俺にその秘められたスキルを引き出せるかは正直、わからない。
鍛錬で身に付けるのがスキルだ。
剣術や魔法が最たるもの。
日々の鍛錬と勉強と努力の積み重ねだ。
ピンチで都合よく眠っていたスキルが覚醒! なんて都合のいい話は無い。
おっと、魔物の一部に例外はいる。魔導師によって設計段階から組み込まれたスキルを発動し、攻撃してくる魔物のたぐいだ。
「えー……」
「えーじゃない。足腰を鍛え、自分を信じて鍛錬を続ける。そうして身につけるもんだ」
「もっとこう、ぱーっと! 簡単に強くなれるヤツがいい」
「ねぇよ」
「ぶー」
唇を尖らせるリス。
水桶をカカシみたいな格好で運んで、大きな水桶に注ぎ込んだ。
「出来るようになったじゃんか」
「……ふんだ」
リスが家に転がり込んで数日が過ぎた。
水汲みの修行もだいぶ板につき、川から水を零さずに運ぶことが出来るようになった。足腰がしっかりしてきたからだ。
飯を美味い美味いとモリモリと食いやがるし、アララールとおしゃべりをして、ぐっすり眠る。そのせいか日を追うごとに元気が増してきた。
擦り傷だらけだった身体の傷もだいぶ癒えた。険しく刺々しい表情も和らいできた気がする。
「次は組手だ。打ち込んでこい」
「本気で行くけどいい?」
「かまわんぜ」
庭先で家庭菜園の手入れをしながら、俺はリスの修行の相手をしている。修行といっても師匠の真似事だが。
――当たらなければどうということはない。
これは俺の師匠の口癖だった。
相手が掴みかかってきたら手を弾き、身を守る。
相手が殴りかかってきたら身を引いて避け、攻撃をそらす。
互いに攻守を入れ替え、基礎的な防御訓練を繰り返す。
「片手で避けるの、ムカつくんだけど……っ!」
「お前の攻撃なんて片手で十分だ、ほれ」
「もうっウザッ!」
相変わらずウザイだのなんだのと言いやがるが、生意気盛りな年頃だから仕方ない。
まず身を守る方法を覚える。
護身術を徹底的に身体に叩き込む。
実戦での防御は重要だ。ダメージを食らえば致命傷となりかねない。攻撃こそ最大の防御とばかり積極的に仕掛ける戦い方がもてはやされるが、防戦から始まる戦いもある。
数日前――。
リスは、同じ「施設」で育った姉妹と遭遇したという。
突然、特殊なスキルで攻撃されたという。
俺は気が付かなかったが、おしゃれカフェ星々婆にそんな危険なヤツがいたとは、すっかり油断していた。
人気の高い店で、暗殺用のスキルを自慢気に「見せびらかした」というし、穏やかではない。
姉妹たちもリス同様、ロクでもない事情を抱えているヤバイやつらばかりなのだろうか。
面倒事に巻き込まれるのはゴメンだが……。
「ん?」
ポケットに入れていた簡易通信用魔法石が振動した。
「スキありっ!」
ぼかっ、とリスの蹴りが尻に炸裂した。
「痛ぇ! ちょっと待てよ」
「待たない!」
笑いながらリスの頭を押さえつつ、ポケットから紐付きの魔法石を取り出す。
魔法石の表面に文字が浮かんでいた。
――新着:1
――登録ギルドから仕事の斡旋
「仕事だ……!」
それはイストヴァリイの町の中堅ギルドからの依頼だった。
――急募!
――ギルド『スマイル連合』所属、Sランクパーティ『ハウンド・ドック』の補充要員。
――人数:若干名
――職種は『荷物持ち』(初心者・経験者歓迎!)
――報酬は前払いで銀貨5枚。帰還後の成功報酬は金貨3枚。
「……悪くない」
『荷物持ち』は後衛に位置するパーティの支援職。食料や水、予備の武器や物資などの運搬を担う重要な職種ではある。
前衛はパーティの戦闘の要で花形だし、後衛にも魔法師の護衛という職種がある。それぞれシビアな戦闘技術が必要とされる。
俺は本当なら前衛の戦闘職、あるいは護衛職が希望だった。
そんな前衛職と違い、荷物持ちは直接的な戦闘技術は必要ない。
地味なパーティの裏方だ。
だが、贅沢はいっていられない。
収入はどうしたって必要だ。
「参加申請する」
「あたしは?」
「留守番してろ」
「嫌……! あたしもいく」
危ないから来るな、といって聞く娘じゃないか。
「……リスも行くか? 荷物運びだが、勉強にはなる」
「行く! 行きたい!」
リスは二つ返事で瞳を輝かせた。
早速、魔法通信で返事をすると運良く二名の枠があるという。
リスにとってもいい経験になるだろう。
直接戦闘には加わらないケースがほとんどで、安全性も高い。
危険があれば俺が守るしかないか……。
◇
翌朝、指定の場所に赴いた。
イストヴァリイの町の入り口にほど近い、隊商の馬車が出入りする広場。そこが各冒険者ギルドのパーティの集合場所になっていた。
「ねぇこの格好、ダサイんだけど」
「文句いうな。傷だらけになって泣いても知らんぞ」
リスには簡易的な装備を身に着けさせた。
丈夫な布の服は、昨夜アララールが用意してくれた。かつて一緒に旅をしていた時に着ていた服のお下がりだ。
その上に動きを妨げない程度に、革の部分鎧を装備させている。胸や腹部、膝や肘などを守る防具をベルトで固定。怪我から守るようにした。
俺はいつも防具は最低限。膝と肘、局部を守る革製の防具だけを身に付けていた。
「うぃーす! オレらが『ハウンド・ドック』だ」
と、6人組の一行がやってきた。
先頭のリーダーは背中に二本の剣をくくりつけ、赤い鎧が目立っている。金髪の髪をツンツンに立てた若造だ。
「はじめまして、トラリオンです。こっちが補助員のリスです」
リスは黙ってぺこりと頭を下げた。
俺は丁寧に自己紹介をし握手を求めたが、相手は薄笑いを浮かべただけだった。
「オレはリーダーのイギリルドだ。まぁ、よろしくな」
少々、嫌な印象だ。
「補充要員って、大男とガキ?」
「おっさんと小娘か……」
イギリルド率いるパーティは、他に前衛の戦士職が二人。
一人は斧を持った黒髪のヒゲ男。パワーファイターか、背丈は俺と同じぐらい。
小柄な茶髪青年は小型のナイフを身体中につけている。シーフのように素早さ重視か。
「ふぅん? 見た感じ、荷物持ちに向いてそうなオジサンね」
「ふん、足手まといにならねばいいが」
金色のヒラヒラした衣装を身に着けた、赤毛の魔女が一人。
陰気臭い顔の、白髪頭の魔法師が一人。
「どうも……」
最後は荷物持ちの少年。
気弱そうな表情で、年はリスよりも年上だろうか。既に大きな荷物を持たされている。
「うちはさ、人気上昇中のSランクパーティでさ。『ハウンド・ドック』ってんだ。ゴブリン狩りじゃ有名でよ! 圧倒的な数を駆逐する猟犬って呼ばれているんだぜ。魔法の動画配信で見たことあんだろ?」
リーダーのイギリルドが、俺とリスを値踏みするようにじろじろ眺めながら話しかけてきた。
「……すまないが疎くてな」
「ちっ、これだからオッサンは。よぉ、お前は知ってるか?」
イギリルドがニタニタとリスに話を振る。
「知らない」
リスが冷たくそっぽを向くと、イギリルドは舌打ちをした。
横でリスが何か言いかけたが、踏みとどまった。
どうもこのパーティは雰囲気がよくない。
「今日限りの仕事だ。すこしの辛抱だ」
「おーし! 今日はここから乗合馬車で一刻ほど向かった集落からのゴブリン討伐の依頼だ。今度の群れは数が多いんで、荷物も多めだからよ」
「じゃぁ荷物を頼むぜ」
約束通り前金の銀貨を受け取り、俺とリスは荷物を背負った。
「こんなに!?」
「これぐらい普通だ」
とは言うものの、一日分にしては少々多めだ。
それに何故、こんなに重い武器の予備を持つ必要があるのだろう。
ゴブリン狩りを専門にするパーティにしては重装備すぎる。
どうも腑に落ちない。
リスに割り当てられた荷物の半分は俺が背負うことにした。
重量的には二人分を背負った格好だ。
「ふんっ……!」
「トラ、平気なの?」
「修行だ」
「でも……」
リスが俺を気遣う事に驚いたが、パーティは目的地に向けて出発した。
<つづく>




