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番外3 シスコン気味の兄達

 番外編3作目となります。次は、この人が語ります。

 俺の妹は、人が良すぎるところがある。あれだけ幼馴染の南部(のべ)から、煮え湯を飲まされたと言うのに、何時(いつ)かは分かり合えるのではないか、と期待する気持ちがあるようだ。俺から見てもそれは絶対にないだろうと、確信しているというのに…。まだ人を信じたい気持ちの方が、強いみたいだな。


他人を信じることは悪いことではない、とは思うけれどもその一方で、誰でも彼でも信じるのは愚かなことだと、思っていた。妹には忠告をしていたものの、妹からすれば友達を悪く言う兄には好意を持てないようで、暫く俺は敢えて見守ることしか出来なかった。


南部の性格が悪いことは、妹から紹介された瞬間に理解した。ああ、コイツは所謂ぶりっ子とかいうヤツだ、と。見た目は優し気で愛くるしい容姿だが、実際には顔だけの女の子だと思った。可愛い女の子を()()()()()()()()偽善者。


最初は単に、俺を取り込もうとしたのかもしれない。俺に媚び諂う様子を見せていた南部(あいつ)が、俺が全く相手をしなかった所為もあり、何時の間にか南部(あいつ)も俺を無視するようになっていた。まあ単純に、俺が好みではなかっただけだろう。そう考え、それ以上深くは追及しなかった。しかし数日後、その理由が何となく理解出来た。如何やら俺が堕とせないのは妹が原因だと、南部(あいつ)はそう思ったようである。何という理不尽な理由を、考え付いたものだな。


妹が俺と南部(あいつ)との仲を邪推して、俺達が仲良くならないように邪魔をした、というそんな噂が流れていた。俺が気付かない間に、南部(あいつ)に付き纏われなくなって安心している間に、南部(あいつ)はそういう意地悪な噂を自ら流していたのだ。まるで見ていた他の誰かが、噂を流したようにして。


その頃には既に南部(あいつ)に傾倒する輩が、少数だが何人か居た。その頃は女子ばかりが南部(あいつ)の味方だったけれど、それは徐々に男子へも感染して行った。女子はコソコソしか噂していなかったから、中々本人の耳には入らなかったのに、男子が絡むようになってからは、堂々と本人に「お前、南部さんに意地悪しただろ。謝れ。」とか直接言いに来たりするので、意外と(たち)が悪かったりする。男子達は元々隠すことが苦手だし、()()()()()()()()()()()()、自分が信じる事だけを見るから、妹は何度も傷ついた顔をしていたな…。


それでも南部(あいつ)は嘘が上手くて、俺でさえあの頃は嘘を見破れなかった。簡潔に言えば、南部(あいつ)が原因だと分かっていても、証拠が出ないから南部(あいつ)を問い詰められない、という意味だ。南部(あいつ)は用心深くて、肝心の部分は他の人物にやらせていたからな。然もそういう人物達は、南部(あいつ)の熱心な信仰者でもある為、正直に白状することもなく、南部(あいつ)は常に安全圏にいた。


小学生の頃からそういう嘘を平気で吐く南部(あいつ)は、天性の詐欺師かもしれないと、俺がそう思う時期もあったが、今はただ単に口が達者なだけで、特に難しいトリックを使ってもおらず、味方が居てこそ出来た嘘ばかりだった。あんな単純な絡繰(からく)りに本気で騙されていたのか、俺は…。


頭の出来の良い俺が、あんなお花畑の頭の中身で、自己中な女を追い詰めることが出来ないなんて…。それだけ南部(あいつ)の演技力や嘘の()き方は、核心に迫っているのだろう。南部(あいつ)はまだ幼い時分(じぶん)から、これだけの嘘を堂々と()けるとは、ある意味天才的な悪知恵の働く子供だったのだろうな。


俺は妹を大切に思うし守りたいけど、肝心の妹が南部(あいつ)を信じて味方をしている以上は、どうにもならない。俺は基本的に真面目な性格で、生真面目過ぎるほどではなくとも、正当法の考えばかりで行動しており、妹を南部の魔の手から救い出せず、長年放置していたようなものだな。そんな時、南部(あいつ)は妹を徹底的に裏切ったのだ。到頭本性を現したな…と思ったよ、俺は。


小学生の時のクラスでの発表会で、クラスでやる劇の主役を巡り、表向きは華奈未(かなみ)南部(あいつ)が対立した風に見えるだろう。しかし現実は、南部(あいつ)自らが華奈未を主役に押して置きながら、自分の味方の生徒達には、華奈未が南部(あいつ)に推薦しろと強制したように嘘を吐き、妹の評判を貶めたのである。流石にこれを切っ掛けに、妹は南部(あいつ)の元から()()()()()()()()()()()が、妹の評価は地に落ちる結果となる。多勢に無勢では、俺が妹の味方でいることしか出来なくて…。


ところがその直ぐ後に、佐々木兄妹が転校して来たことを機に、俺達兄妹の方へと風向きが変わって来た。妹と仲良くなった佐々木・妹が、華奈未の味方をする理由は知っているが、俺と親友になった佐々木・兄までが、何故か華奈未の味方に付いてくれたのだ。


柚弦(ゆずる)は誰にでも本心から、他人に優しい人物ではない。どちらかと言えば、損得で動くような人物だと、仲良くなった時点で理解した俺。それでも俺は柚弦に、俺と同類の妹好きの匂いを感じ取り、親友となっていた。そうでなければ、柚弦のような腹黒い奴とは、流石に俺も本心から仲良くしようとは、思わないことだろう。





 

   ****************************






 「俺の妹は人見知りが激しいから、俺がしっかりと見守ってやる必要が、あるんだよ。」


そう語る柚弦は、妹を心配する優しい兄だった。俺も妹には色々と思うところがあり、常に心配している状態だ。誰にでも優しくて穏やかな性格で、時々突っ走るところがあるのが(あや)うくて、こうと決めたら曲げない芯の強さも持つ妹は、一瞬たりとも目が離せない。心配する内容は微妙に違えど、妹に対する気持ちは同じだ。


何時の間にか柚弦は、華奈未と知り合っていた。仲良く話す2人を初めて見た時、俺は置いて行かれたような気分になる。何となく俺よりも、華奈未を理解している柚弦を見て。実兄の俺には相談が出来ないことも、柚弦には相談している華奈未を知り。何となく…華奈未を、柚弦に盗られたような気がして……。


その後に妹の親友が偶々、柚弦の妹だったと知らされた時には、そういう繋がりなのかとホッとした。小学生で既に完璧な柚弦に、妹が盗られた俺の存在は何だったのかと、自信をなくしかけていたんだよ。あの時は血の繋がりが切れる訳もないのに、何故そういうことを考えたのか分からずに…。しかし今ならば、どういう意味なのかを理解出来るよ。


あれは恋愛的に盗られるのだと、思ったのだろうな…。昔の俺は恋愛なんて知らないし、実は今も恋をしていない。それぐらいまだ恋には興味がないし、あの頃はそれ以上に恋か家族愛なのか、その違いが全く理解出来なくて、同様の物だと思っていた節がある。恋愛感情は別だということぐらいは、今は理解しているつもりだ。それでもまだ恋愛の経験はないので、恋心なのかそうでないのかは判別がつかず、また恋がどういう感情なのかは、未だよく知らない俺。


最近になって、柚弦が俺の妹を「華奈」と呼ぶようになった。何時の間に、そう呼び合う仲になったんだ…。如何(どう)やら当初の勘は、当たってしまったらしい。柚弦は多分、華奈未に恋をしているのだろう。やはり妹を盗られると言う感想は、間違っていなかったな…。いや、こればかりは…間違っていて、ほしかったかもな…。


華奈未を大切に想う柚弦が言い出した、南部(あいつ)への仕返しの為の機会は、思わぬ形でやって来た。こういう腹黒い時の柚弦は、絶対に敵にしてはならない…。3年の俺達のクラスメイトの一部は、腹黒い柚弦に気付いたみたいで、腹黒い状態の柚弦に逆らう者は居なかった。それよりもその柚弦の相手である妹に対して、大いに興味を持たれてしまったようだ。妹は見世物では、ないんだがな…。


兄としては不本意だったが、華奈未が本気で嫌うような行いを、柚弦が仕掛ける訳もないので、俺は柚弦に協力する道を選ぶことにした。……ふん。今回だけは華奈未の為にも、お前に()()()()()()()()()するよ…。


こうして南部(あいつ)を嵌める準備が、着々と進められて行く。柚弦は罠を幾つも仕掛けていて、中々にエグイ仕返しを考えていた。俺は顳顬(こめかみ)をひくつかせて、柚弦の行動に心底退()いた…。


……うわあ。柚弦(おまえ)が華奈未の味方で、良かったよ…。柚弦自身、ストーカーされたりして、前の学校でも女子生徒とは距離を取っていたようだし、南部(あいつ)みたいなタイプは本心から嫌っているだろう。そうとも知らずに、いや、知っていても追い掛けているかもしれない南部(あいつ)は、全くへこたれる様子も見せず、柚弦にアピールし続けていたけどな…。


先ずは南部(あいつ)が主役だと見せかけ、次に南部(あいつ)の相手役を妙に期待させて、その次には子供っぽいヒラヒラな場違いの衣装を用意させ、更には華奈未の練習時の相手を俺にさせたり、という色々な策略を練っていた。他にも、南部(あいつ)が問題のある言動に出ると睨んで、事前に察知して対策したりしていたな…。そして華奈の練習相手を、俺にさせるとは…。本番でああ言うセリフを、実の兄妹で言い合うのは、()()()()()()()勘弁してほしいから、練習だけで良かったけどな…。


だからと言って…柚弦が良いとは、俺は絶対に…言ってないぞ。芝居中の華奈未と柚弦が、本物の恋人同士に見えた時には、流石に俺も額に皺を寄せていたようだ。特にあのシーンは、柚弦が華奈未の腰を引き寄せたシーンは、台本に書いてないだろっ!……おい、柚弦。勝手に本番で、アドリブを入れるなっ!…俺の妹に、必要以上にベタベタするんじゃない!


俺は嫉妬心を丸出しにして、舞台袖でイライラしていたようで、裏方に居た生徒達から苦笑されていたらしい。そんな中で(ただ)1人、俺に好意的な目を向けてくれていた人物がいたらしいが、俺自身がそれを知るのは、()()()()()()()()()()だった。今の俺はまだ、唯のシスコン兄なんだし…。


俺が恋を知るのは、まだまだ先になるだろう。そして我が妹も、恋を知るには早すぎる。今はまだ兄妹で仲良くしていたい。今しかそういう機会は、ないのだから。

 主人公お兄ちゃん視点となりました。本編では影の薄い兄ですが、妹のことは忙しい両親に代わり、溺愛しています。咲歩子のことはずっと危険視していたけど、妹が仲良くしていた為、反対出来なかったようですね。


また主人公同様に恋愛には疎いですが、柚弦の華奈未に対する気持ちには、いち早く気付いていて…。身内の勘でしょうか…。



※本編は既に完結しています。残すは、番外編のみとなります。この作品は、残り2回ほどで完全に終了となる予定です。

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