第5話 隣国の王女
オーガストラ王国の隣に位置する、シャルテ王国からの馬車が両国間の国境を潜り、数週間という時間をかけてオーガストラ王国の王城へ着いた。
正門前では国を代表し、王太子のジルベルトと第二王子のアルフレッドが出迎えるという形は、他国の客人をもてなす待遇としてはかなり敬った待遇である。
豪奢な馬車から侍従の手を借り降りてきたのは、ふんわりとしたストロベリーブロンドに、髪色と同じ睫に縁取られたアーモンドの形のような大きな空色の瞳を持つ、小柄な愛らしい容貌の王女であった。
その場で、初めに言葉を発したのはジルベルトであった。
「初めまして
ようこそオーガストラ王国へお越しくださいました
後程改めて正式にご挨拶致しますが、オーガストラ王国王太子でありますジルベルト·オーガストラと申します
隣に居ますのが、弟で第二王子のアルフレッドです」
「初めまして、アルフレッド·オーガストラです」
二人の挨拶に、シャルテ王国の王女はニッコリとした笑みを返し、綺麗な淑女の礼を向けた。
「初めまして
シャルテ王国第ニ王女であります、マリアベル·シャルテと申します
このような出迎えを、ありがとうございます
わたくしの事は、名前で呼んでくださいませ
わたくしも、お二方をお名前でお呼びしても構いませんか?」
「ええ勿論です
私達も構いません」
ジルベルトと隣国の王女のマリアベルが和やかに話す中、アルフレッドは挨拶しか言葉にせず、その会話に入ろうとはしなかった。
次の日の夜は、マリアベルの来訪を歓迎するという事で、王城では舞踏会が開かれた。
レティシアも招待されていたが、ジルベルトは王族席でマリアベルを出席者達に紹介するという役目があった為に、彼女の兄であるアランが、レティシアをエスコートすることになっていた。
ジルベルト的にはその事が不満であったが、立場上どうする事も出来ず、せめてものレティシアへの償いという形として、彼女へ舞踏会で着るドレスを贈った。
金糸と銀糸の刺繍がふんだんに施されているドレスは、ジルベルトの姿を彷彿とさせ、またレティシアの容貌をさらに引き立てている。
そんなドレスを纏ったレティシアは、周囲の貴族子息からの注目のまとであった。
舞踏会が国王の挨拶で開始され、ファーストダンスには普段であれば国王夫妻が前に出てくるのだが、今日の舞踏会の趣旨はマリアベルの歓迎というものである為に、王太子であるジルベルトのエスコートでマリアベルが中央に姿を現す。
そのマリアベルの愛らしい容姿に、出席者達からは感嘆の声が漏れ出た。
その様子をレティシアは、アランの隣でぼんやりと眺めていた。
胸の奥にチクリと痛みが刺しながら………
二人のファーストダンスが終わると、盛大な拍手が鳴り響いた。
マリアベルのダンスの腕前も、立ち振舞いや所作も王族として、また淑女としても完璧であり、尚且つ華やかで多くの者の目を引く。
そんなマリアベルへ、オーガストラ王国貴族達からの挨拶が順に行われ、落ち着いた頃レティシアとアランの姿をジルベルトは目に止めた。
「マリアベル王女、沢山の客人達の挨拶にお疲れだとは思いますが、貴女に紹介したい者がいるのですが構いませんか?」
「ジルベルト様がわたくしに紹介したいお方ですか?
勿論構いませんわ」
マリアベルの返事に、ジルベルトはアランとレティシアを自分の近くに呼ぶ。
「アラン、レティシア、こちらへ来てくれないか?」
ジルベルトに呼ばれ二人が彼等の側に寄ると、ジルベルトはマリアベルへ二人の事を紹介し始めた。
「彼は、我が国の宰相でもあるハーヴィル公爵の長男で、私の幼馴染みであり信頼している友人でもあるアラン·ハーヴィルです」
ジルベルトから紹介されたアランは、その場で綺麗な王族へ向けての礼をとる。
「ジルベルト殿下にご紹介頂きました、ハーヴィル公爵家嫡男のアラン·ハーヴィルと申します
殿下にお目もじがかない、とても光栄にございます」
「こちらこそ、オーガストラ王国宰相のご子息はとても優秀だというお噂を、こちらに訪れた時から聞こえてきていましたの
わたくしの事は、マリアベルと呼んでもらえると嬉しいですわ」
アランの紹介が終わると、ジルベルトはレティシアへ柔らかい笑みを浮かべ、彼女の腰を優しく抱き寄せた。
「マリアベル王女、そして彼女はアランの妹で私の婚約者でもあるレティシアです」
レティシアは、マリアベルへ綺麗な淑女の礼を向ける。
「殿下にお会いでき光栄にございます
ハーヴィル公爵家長女のレティシア·ハーヴィルと申します」
マリアベルは、レティシアへ可愛らしい笑みを向ける。
「あなたがお噂の、ジルベルト様の婚約者様でいらっしゃるのね?
早くお会いしたいと、思っていたのよ
膝を折ったままではなく、顔をあげてちょうだい
わたくし達は、同じ歳であるとも聞いたわ
良いお友達になれると思うの
わたくしの事はマリアベルと呼んでほしいわ
わたくしも、貴女の事をお名前で呼んでも構わないかしら?」
「勿体ないお言葉にございます
マリアベル殿下の呼びやすい形で構いません」
マリアベルは、レティシアの手をギュッと握ると、さらに笑みを深める。
そんな王女の姿に、レティシアは王女へ粗相もなく関わる事ができ、王女からも好意的に自分の事を見てもらえた様で大きく安堵した。
レティシアは、自分でも人との関わりがお世辞にも得意とは言えない事はわかってはいた。
しかし、王太子であるジルベルトと婚約し将来的に婚姻するという事は、外交は避けられない。
だからという訳ではないが、自分なりに人との関わりを上手く出来るよう、試行錯誤しながらも頑張っていたのだ。
レティシアとマリアベルの様子を見守っていたジルベルトは、二人へ声を掛ける。
「マリアベル王女とレティシアが仲良くなったなら、私も嬉しく思いますよ
それでマリアベル王女
ここからの貴女のエスコートを、弟のアルフレッドへ引き継ぎたいと思うのですが宜しいですか?」
「あら、何かご用でもおありなのかしら?」
「客人を魅了して止まないマリアベル姫のエスコートを、私が一人占めしてしまうのも申し訳ないと思うからですよ」
「まあ」
ジルベルトは、側にいたアルに目配せをする。
「アル、マリアベル王女のエスコートを宜しく頼むよ」
アルフレッドは、ジルベルトの言葉に表情をあまり動かさず、一つ頷くとマリアベルの前に手を差し出した。
「マリアベル王女、自分は兄上のようにエスコートに長けてはおりませんが、御一緒に歓談してくださいますか?」
「勿論ですわアルフレッド様
ジルベルト様、ここまでエスコートしてくださりありがとうございました
アルフレッド様、宜しくお願いします」
マリアベルは、ジルベルトへ綺麗な礼を向けた後、アルフレッドの差し出した手に自分の手を重ね、可愛らしい笑みを彼へ向ける。
マリアベルがアルフレッドのエスコートでその場を離れると、ジルベルトは隣にいるレティシアへ、彼女にだけしか見せない甘い微笑みを向けた。
「漸く、レティのエスコートが出来るよ
待たせてごめんね」
レティシアは、そう言って自分の前に手を差し出すジルベルトの手に、そっと自分の手を重ねる。
ジルベルトは、重ねられた彼女の手をギュッと握り締めると自分の腕にその手を置いた。
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◇作者の覚書
マリアベル·シャルテ
オーガストラ王国の隣国に位置する、シャルテ王国の第二王女。
マリアベルの上には二人の兄と、一人の姉がいる。
ふんわりとしたストロベリーブロンドに、空色の瞳を持ち小柄な容姿。
いつもにこやかに笑みを溢し、王族として完璧な振る舞いをするも庇護欲をそそるような雰囲気を持つ。




