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第57話 傀儡の王子

 シャルテ王国には二人の王子がいる。

 しかし、臣下からはあまり期待されるような存在ではなかった。第二王子は、横暴であり、女にだらしがなく、まともに公務を行っているような姿等を、見たものは殆どいない。

 そして第一王子であるルーカス·シャルテは、ぼんやりとした風貌、威厳のない振る舞い、さらに父親である国王の言うがままに行動する姿に、影ではうつけ、国王の傀儡等と揶揄されるような存在であった。

 そのような状況からなのか、シャルテ王国では王位継承件を持つ者は数人いるが、現段階で未だに王太子がいない事が続いていたのだ。


 そんな、第一王子がマリアベルとカーティスのオーガストラ王国での後始末をする為に、国王の代理としてやってきた事に、当事者である二人とも呆然とした。

 しかし、マリアベルの様子は驚いただけではない様子であった。


「ルーカス……お兄……様……」


 マリアベルをジッと見詰めるルーカスは、恐らく真顔ではあるのだろうか、目元が笑っているような風貌で、今の心情が全くわからない。

 そんなルーカスの姿に、マリアベルは恐れを感じる。


(周囲からは、頼りないとかお父様の傀儡だなんて蔑む声が沢山あるけれど……

 わたくしは、昔からルーカスお兄様の眼がずっと怖かった……

 笑みをいつも浮かべているような、この眼……

 だけど……、笑みを浮かべて見えるのは目元がそんな風貌なだけで……

 その目の奥は───)


「マリア」


 ビクッッッ!!──


 マリアベルは、ルーカスの声にビクリと身体を大きく揺らす。

 視線をルーカスから反らそうとするものの、その兄の視線に縫い付けられたかのように、彼女は視線を反らす事すら出来ない。


「あの……」


「お前達は、本当に余計な事をしてくれたね

 父上は大変なお怒りだ」


「余計な……、って……わたくしはお父様の言う通り……」


「父上が、何時オーガストラ王国の王太子と婚姻を結べと言ったのかな?」


「それは……だけど、そのほうがより国同士の結びつきも強く……」


「父上の考えを、勝手に解釈して命じられてもいない事に手を掛け、騒動を起こす……

 そして、それはマリアだけでなく、カートも同じように勝手な行動をとった

 慢心から自分の力量を勘違いし、()()を侮ったから故の失態……

 その行動が、自国のシャルテにどれだけの迷惑を掛けたのかすら理解出来ないお前達には、ため息しか出ない……と、陛下はお考えだ」


 そんなルーカスの言葉に、カーティスは苛立ち、反論する。


「何をっ!

 いつもぼんやりとして、ろくに公務も行っていないのに、このような時だけ、僕達を愚弄するような言葉はどうなのですか!?

 ご自分が、そんな事を言える立場なのですか!?」


 そんなカーティスの言葉に、笑みを向けたルーカスは口を開いた。


「カート、君も周囲の臣下達と同じく、私の事をそのように蔑み、見下していた事は気が付いていたよ

 私自身、己れの資質は理解している

 だけどね、人の資質を自分の主観だけで判断するようじゃ、君が手に入れたいと思っている玉座など到底、手が届かない」


「なっ──」


「内輪の無駄話は後にしてくれるだろうか?」


 カーティスの言葉を遮ったのは、ジルベルトであった。

 その声に、ルーカスはジルベルトへ顔を向け謝罪する。


「これは、失礼致しました

 あまりにも愚かな二人に、思わず言葉が漏れてしまいました故……

 それで……オーガストラ国王陛下からは、今回の一件についてはジルベルト王太子殿下に一任しているという、お言葉であったのですが……」


 ルーカスの何とも言えない表情に、彼へ向ける視線がより鋭くなったジルベルトが口を開いた。


「今回の件で彼女等に対しての、シャルテの考えを聞かせて貰おうか」


「二人をシャルテに引き渡し願う為に、こちらが二人への処遇として考えている事ですが……

 マリアベル王女は、王族の地位剥奪の上、修道院へ

 カーティス·イェドヴァルは王位継承件剥奪、並びに廃嫡という処罰で、と……、我が国は考えております」


 ルーカスのその言葉に、マリアベルとカーティスは一瞬唖然とし、すぐ言い募る。


「お兄様!

 その処遇はどういう事ですの!?

 このわたくしが、王族から追放され、修道院へなどっ!!」


「僕の王位継承件を剥奪だなんて、そんな馬鹿げた考えを、本当に陛下が言われたのだと言うのですか!?」


 そんな二人を見据えたルーカスは、淡々と言葉を発する。


「それだけの事をお前達はしたのだよ?

 父上が、可愛がっている娘や甥であったとしても、そんな愚かな者を庇う為に勝てない戦を、オーガストラへ仕掛けるとでも思っていたのかい?

 そうであったら、どれだけ自分に都合の良い思考で、おめでたいとしか言いようがないよ」


「………っぁ……」


 顔面蒼白になる二人にはそれ以上構わず、ルーカスは再度ジルベルトへ視線を向けた。


「そのような処遇で、どうでしょうか?」


「話にならないな」


 ジルベルトは、そんなルーカスの言葉をバッサリと切るように言い捨てた。


「……話にならない……」


「そんな処遇だけで、我が国が納得するとでも?」


 暫く無言でジルベルトと視線をぶつけ合うとルーカスは、ジルベルトの前のテーブルへ書簡を置く。

 その書簡には、不可侵条約と記されている文面にシャルテ王国の印が押されていた。


「シャルテ国王は随分と、この条約への締結を濁されていましたが……

 漸く、貴国の立場や力量と状況を認識しましたか?」


「……私からは何とも……陛下のお考えですので……」


「本来であれば、この条約は貴国的には随分とこちらが譲歩しているのですよ?

 この条約は()()()侵略行為を許さないという事ですからね?

 地図上から、シャルテの名が消えずに済んで良かったと思って貰いたい」


 オーガストラ王国は、以前からシャルテ王国へ不可侵条約への締結を申し出ていたが、シャルテ国王はその話を濁していた。

 しかし、今回のマリアベルや、カーティスの起こした問題から国王は、簡単に両国家間の溝が埋められないと考え、渋々であったろうが印を押したと見られた。


「これで、ご納得を……?」


「納得……と、まではいかないが致し方がない……

 こちらは、彼女等の我が国での行動には、今回抗議を入れた事柄以外にもまだ色々とあった

 だが、それらを公表するかは、今後の貴国の振る舞い方を見てからにしたいと思う

 ()()貴国で王太子は不在ではあるが、シャルテ国王の頭の中では、既に大方決まっているのであろう?」


 ジルベルトのそんな含みをもった言葉に、ルーカスは表情を変えずに答える。


「陛下は、お考えを周囲へはあまり口にしませんので……何とも……」


「シャルテ国王は、随分と()()()()()、駒を持っているようだ

 今回の件で、我が国に大きな借りが生じている事は理解してもらいたい

 この件が、各国に伝われば国の信用などあっという間に失くなるのであるからね」


 ジルベルトへ、笑みを浮かべたような表情をルーカスは向けると言葉を発した。


「貴国の妖精姫に触れようとした者は、金色の鷹の逆鱗に触れるとはお噂だけではなかったようですね?」


 一瞬室内の空気にピリッとしたものが流れた。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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