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第53話 依存の末路

 ジルベルトはレティシアを自分の胸に抱き締めながら、オスカーによって取り押さえられたクララを冷徹な目で見下ろす。


「王城内で、しかも王族へ向けて禁止されている攻撃魔術を使うなど、気がふれたのか?」


「……ぁ……っ!!

 何故……、何故、わたくしではなく、その女を婚約者に選ばれたのですか……!?

 わたくしを選んでくださっておりましたら、わたくしだってこんな事………っ……ぁっ……

 こんな……っ、何の取り柄もなく、家柄と父親の力だけでその立場にいる女などっっっ!!」


 クララが溢したその言葉に、ジルベルトは鋭い視線を彼女へ向け言葉を返す。


「そんな事もわからず、このような場でこのような事を起こすようであるから、選ばれなかったのだとは思わないのか?

 まぁ……、こんな事を仕出かしたのには、他にも理由がありそうだがな

 その顔色や、その衝動的としか言い様がない行動……

 正気であれば、有り得ない行動だとは思うが……そなたには心当たりはないのだろうか?

 そんな状態であれば、まともに答える事も出来ないか……

 ああ、答えられる者がこの場にもう一人いた事を、忘れていたな」


 この惨事に静まり返っている会場内で、ジルベルトはそう呟くと、ある人物へ視線を向け、その者の名前を口にした。


「ねぇ? マリアベル王女、こんな状態になる原因を貴女はよおく知っているのではないですか?」


「え……?

 な、何を仰有っているのですか……?

 わたくしは、存じませんわ!?」


 多少狼狽えながらも、知らないと答えるマリアベルへ、ジルベルトは射抜くような視線を向ける。

 その時、クララの様子が急変した。

 突然、苦しみだしたのだ。

 顔面蒼白となり、膝から崩れ落ちるように(うずくま)る。

 そんなクララの様子に、周囲の者達は皆、彼女から距離をとったが──


「……っ……がはぁっ!!……っああぁぁぁ……」


「クララ様っ!!」


「レティっ!?」


 クララの異常な状態を目の当たりにしたレティシアが、咄嗟に彼女へ近付こうとする事を、ジルベルトは腕を掴み止めた。


「何をするつもりだ!?

 あの者に何が起こっているのか、わからない状況なんだぞ!

 君に何か危害があったらどうするんだ!!」


「だけどっ!!

 あの状態が中毒発作であったら、このまま、放っておいたら命に関わるかもしれないのよ!?」


「君は、自分があの者に何をされたのか忘れたのか!?

 一歩間違えば、命を奪われていたのかもしれないんだぞ!?

 君が自身の力を削ってまで、助ける必要などない!」


「今は、そんな事を言っている場合じゃないわ!!

 目の前にいる苦しんでいる人を放っておくなんて、私には出来ない!

 この場にいる中で、治癒能力を持っているのは私だけよ

 すぐにその力をクララ様へ施す事が出来るのも、私だけなの!」


 レティシアは、この場が他の生徒達の前であるという事も考えずに、王太子であるジルベルトへ意見し、彼の手を振りほどくと、クララの傍へ駆け寄っていった。


 苦しみ(もが)くクララへ、レティシアは自身の手を翳す。

 その様子を顔を歪め見詰めていたジルベルトは、傍にいた侍従へこの場に至急、侍医と治癒魔術を使える術者を連れてくるよう命じた。

 だが、そんなジルベルトの胸中には、不安と怒りが混じりあったような感情が蠢く。


(だから、君をこの場には連れてきたくはなかったんだ

 君は、自分を害した相手でも、今のように自分の身を挺して助けようとすると想像できたから……

 そして、こうなった君は、頑なに私であろうが、誰の言葉であろうが聞き入れる事がない事もわかっていたから、君を閉じ込めておきたかったんだ……

 ()()()でなかったとしても、公になっている治癒魔力であったって、君の体力を削る事は同じだ

 まだ、体力が完全でない状態の君に、何かがあったら私はこの一件に関わっている全ての人間を、この手で消し去ったとしても絶対に許せない……)




 その場にいる者は、レティシアが治癒魔力を持っている事は公になっており知っていたが、実際にその場面を見る事は初めての者が殆どだ。

 手をクララへ翳すレティシアと、その彼女の力を施されているクララを囲むように、暖かな光が二人を包む。

 顔面蒼白であったクララの顔色がいつもの顔色に戻りはじめ、頬にも多少赤みが戻る様は、幻想的にも見える情景であった。

 少し落ち着きを取り戻したクララが、自身へ治癒魔力を使っているレティシアの事を認識すると、ポツリと呟く。


「何のつもり……なの……?

 わたくしを助けて……どうしようと……?」


「どうもしません

 ただ、目の前で苦しむ人を助けなければと思っただけで、その方がクララ様であっただけです

 誰であっても同じ事をしました」


「偽善者……

 こうまでして、その立場を離さないつもりなのね……

 憎い相手を……助けている慈悲深い姿を周囲に見せて……支持を得ようなど……」


「………私の行動をどう捉えてもらっても構いません

 何とでも仰有ってください

 ただ……一つ言わせて頂くなら……

 クララ様と私は、何か一つ切っ掛けが違えば、立場が逆であったのかもしれないと以前から思っていました

 そして、もし私がクララ様の立場であったら、クララ様の感情も理解できるとも……

 クララ様が、本当に殿下の事をお慕いしているのなら……」


「盤石な立場を……得ている人に……そんな事を言われたくはないわ……」


「そうでしょうね

 ですけど、私はクララ様の立場であったとして、クララ様の感情を理解できたとしても、クララ様が今までしてきた事は、絶対にしなかったとも断言出来ます

 それは……そんな事をしても……

 いえ、そんな事をしたなら、殿下は殿下のお気持ちを絶対にその相手へは向けてくれないと、思いますから……」


(ジルは……相手を陥れたりする事に嫌悪感を示す……

 そして何より、何かを頼ってまで力を強くする事を認めていない

 私が()()()を使って、ジルの力を強めた事に、今回を含めて二回とも、強く怒って、そして酷く悲しませた顔をさせてしまったもの……)


 クララの顔色が大分良くなった事を見届けたレティシアは、翳していた手をおろした。

 その瞬間、大きな治癒魔力を使った為に、体力を削ってしまったようでグラリと傾いたレティシアの身体を、傍に来て見守っていたジルベルトが受け止める。

 そしてジルベルトは、クララへ問い掛けた。


「ヘインズ嬢

 ()()()()()()を口にしていたのではないか?」


 ジルベルトの言葉に、その場にいる殆どの者は何の事を話しているのかわからない様子であったが、一部の者達は僅かに狼狽える。

 横になっていたクララは、ジルベルトとレティシアへ向けていた視線を外し、そのまま一度空へ視線を向けると目を閉じた。


「お父様から、殿下の側妃に上がる前に、わたくしの唯一不安定であった魔力を何としても安定させなければならないと、命じられました

 そして、あくる日、夢のように魔力が安定するだけでなく、持ち合わせている魔力が更に高める事までできる、『万能の蜜』という名の品を手にしたのです

 その蜜は、わたくしにとって初めは自信が持てる支えになっておりましたが……

 その名の通り甘い蜜のように、どんどんと依存していきました……

 その効能は身体への負荷の方が上回り、殿下の御前であるのにも関わらず、醜態を晒してしまい大罪をおかしてしまった程でえります……」


 先程迄の、荒々しい態度ではなく、落ち着き、しっかりとした口調でクララはジルベルトの問いに答えていく。

 クララの言葉に、ジルベルトはマリアベルを見据えた。


「マリアベル王女

『万能の蜜』とは、最近シャルテ王国で茶に入れる蜜として話題に上がっている品でありますよね?

 それも含めて貴女と、ゆっくり話したい事が幾つもあるのですよ」


「話なんて、わたくしには───っ!?」


 マリアベルへ見えるように、ジルベルトはあるものを手にして見せた事に、マリアベルの表情がひきつる。

 ジルベルトが手にしていたものは、いつも彼が耳に着けていたイヤーカフであった。


「これを、貴女はよくご存知の筈ですよね?

 ()()についても、聞きたい事が沢山あるのですよ

 ここでは、貴女も話しづらいでしょう?

 別室で、ゆっくり話しましょうか」


 ジルベルトは、マリアベルへそう告げると、生徒達へ視線を向ける。


「折角の茶会を騒がしてしまい申し訳ない

 我々は席を外すが、そのような気分ではないかもしれないが、皆はこのまま茶会を楽しんでいってもらいたい」


 ジルベルトは、そう言葉を生徒達へ掛けると、マリアベルを誘導するように近くにいる侍女へ指示をする。

 自分の側近候補である生徒会の面々と、第二王子であるアルフレッド、そして婚約者のレティシアを連れてその場を後にした。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!励みになっております!



前回の更新から一週間もあいてしまい申し訳ありません…

今年中に、もう一話くらい投稿したいと思ってはおりますが……言い訳としては思いの外、年末の行事や冬休みによって、時間が殆ど取れなく……でも、頑張ります!!

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