第52話 噂話
学園に通う生徒達は、昼間のお茶会に相応しい装いに着飾り、茶会が催される王城の庭園に集まっていた。
その場に王太子であるジルベルトの到着の声がかかり、生徒達は皆、一斉に王族へ向ける礼を向ける。
マリアベルをエスコートし、そこに現れたジルベルトは生徒達へ声を掛けた。
「皆、楽にしてくれ、今日は場所は王城ではあるが、学園の理と同じく身分を気にせずに、楽しく過ごしてもらいたい
だが……、その前に茶を飲みながら、皆に聞いてもらいたいことが幾つかあるのだが、聞いてくれるだろうか?」
そのジルベルトの言葉で、各テーブルで城のメイド達が生徒達のカップへ茶を入れ、茶会が始まる。
「皆に行き渡っただろうか?
歓談する為のこのような場で、こんな話をするのもどうかとは思ったのだが、皆の意見を聞いてみたくてね
少しだけ、私の話に付き合って貰えるとありがたい」
そのようなジルベルトの言葉に、隣にいたマリアベルは期待に満ちた瞳で、ジルベルトを見詰めた。
「最近、学園内で気になる噂を耳にしたのだが、皆は聞いた事はあるだろうか?」
そのジルベルトの言葉に、生徒達はざわつく。
マリアベルは期待した言葉でなかった事に、不満な表情が僅かに顔に浮かんだ。
生徒達の様子を一度見たジルベルトは、話を続ける。
「私の弟であるアルフレッドと、私の婚約者として周知されているレティシア嬢がただならぬ仲であると……
その噂を聞いて、私は耳を疑ったよ」
ジルベルトはそう言うと、近くにいたアルフレッドへ視線を向けた。
アルフレッドはジルベルトと視線を一度交えると、表情を変えずに真っ直ぐ前を向く。
マリアベルは、ジルベルトを宥めるような仕草を向け、口を開いた。
「わたくしも、耳にした事がありますけれど、酷いお話ですわ
ジルベルト様の心中をお察し致します
そんな事……、不敬罪だと問われても言い訳は出来ませんもの」
「不敬罪……と、いうと?」
「ええ……、ジルベルト様という素晴らしいお方の婚約者のお立場を頂けたのに、そのような噂が流れるような誤解される振る舞いが既に、ジルベルト様を愚弄しているように思えますわ」
ジルベルトは、マリアベルの言葉に感情を伴わないような表情を向けた。
「そうか……
貴女はそう考えるのですね」
「ええ!
婚約者というお立場を頂いたのであれば、その立場に恥じない振る舞いをする事は当然ですわ
幾ら、殿方からチヤホヤされるような状況が居心地が良いとしても、自分の振る舞いを自制する事は大切ですもの
そんな噂が流れてから、身を隠すようになさるのもどうかと思いますわ
今、領地へ帰られていると耳にしましたけれど、それもこのお噂が理由なのではないでしょうか?」
マリアベルの言葉は、レティシアの噂されている振る舞いについて指摘するような内容であり、その事にジルベルトは口角を上げる。
「マリアベル王女、貴女はこの噂を聞いてレティシア嬢の振る舞いに、非があると思われたのですね?」
「ええ、そうですわ
淑女たるもの、分別をもたなければなりませんもの」
「マリアベル王女は、この噂を事実だと思われたということですか?
その根拠は?」
「え……?」
「私は、第二王子であるアルフレッドと私の婚約者であるレティシア嬢に対して、そんな根も葉もないような噂を作り上げた者が、不敬罪に問われるのではないかと思ったと、言いたかったのですけどね?」
「ジルベルト様……?」
マリアベルは、ジルベルトの思ってもいない言葉に、戸惑いを覚えた。
「私達兄弟とレティシア嬢は、それこそ彼女が生まれた頃からの間柄であるのですよ
一緒に過ごす事の多かった幼馴染みであって、兄妹同然と言っても過言ではないのです
勿論、アルフレッドとレティシア嬢が昔から仲が良い事も私は知っているし、その事に対しては私は何とも思わず、改めろとも思わない
そんな二人の仲が良い事が、不義を働いたというようにも取れるような噂に仕立てた事は、王族であるアルフレッドに対しての不敬にあたるし、私の婚約者であるレティシア嬢を侮辱していると思うのだよね?」
ジルベルトは、マリアベルにニコリと笑みを向けるとさらに言葉を続ける。
「マリアベル王女が、このように勘違いしてしまうように、噂を信じた者がこの二人に対して見る目が変わるという事は、とても恐ろしい事のように思うのだよ」
マリアベルは、自分の思っていた方向とは違う様なジルベルトの言葉に不安を覚え、言葉をポツリと溢した。
「ジルベルト様……?
今日は、わたくしとの関係のお話をしてくださるのでは……?」
そんなマリアベルの言葉に、ジルベルトは笑みを向けたまま何も答えず、話を続ける。
「この噂話が気になって色々と調べたら、必ずある人物へ辿り着くのだよ
ねぇ、クララ嬢
この噂話を、貴女はどう思う?」
話をふられたクララは、ビクリと身体を揺らし元々悪かった顔色がさらに悪くなっていった。
その時、ジルベルトは生徒達に見えるように、手にあるものを持つ。
「あとね、これは何だかわかるかな?」
見慣れない形の代物に殆どの生徒は、わからないといった表情を浮かべていたが、先ほど話をふられたクララの手は小さく震え出した。
さらに、ジルベルトの横にいたマリアベルも、ジルベルトの手にしている物が目に入ると、表情をピクリと揺らす。
「わからない者が殆どなのは仕方がないよ
これは、正規的に公に出回っているものではないからね
これは、ある国が作った、魔術制限を一時的に解除する為の魔具なんだ
これがね、魔術制限のかけられている学園のある場所に落ちていたのだよ
その場所とはね、それもまた私の婚約者であるレティシア嬢が、何故か起こるはずのない場所で突然起きた魔術によって生み出された突風で、階段から落とされた場所なんだ」
ジルベルトの言葉に、生徒達はざわめき立つなかジルベルトはさらに言葉を続ける。
「ああ、安心してくれ
レティシア嬢は、無事ではあるよ
私がその場を偶然通り掛かった時に事が起こって、彼女を助ける事ができたんだ
だが、一歩間違えば最悪な事になっていた
階段を使っていたのが彼女が一人の時に、魔具まで使ってそのような事をするなど、明らかに悪意があると思わないかい?」
ざわつく生徒達へジルベルトは、言葉を続けた。
「私の話ばかりしてしまって、すまない
ああ、そういえば、今日はこの茶会へもう一人招いているのだよ
先ほどから話にあがっていたレティシア嬢だが、領地へ帰っている為に学園を休学しているという話題も出ていたと思うが、それは違っていてね
実は、体調を崩してしまっていて休んでいたのだよ
漸く少し良くなってきたようで、この茶会に出席したいと話していたから、体調面を考慮して少しの時間であれば良いと了承したんだ」
そのジルベルトの言葉の後、アランのエスコートで現れたレティシアの姿に、マリアベルは呆然とした。
マリアベルは、自分がクララへついた嘘の話題が、本当に起こっている現状に戸惑う。
レティシアは、ジルベルトへ綺麗な淑女の礼を向けた後、生徒達へも一礼する。
彼女の姿は、体調を崩していたというジルベルトの話も納得できるぐらい、元々華奢であった身体がより細くなり、真っ白な肌も普段よりも蒼白く見えた。
「皆様、お久しぶりでございます
この場をお借りして、皆様へご挨拶する許可を頂きましたので、伝えさせて頂きます
長らく学園をお休みさせて頂いておりましたが、体調が万全になりましたら、また皆様と一緒に学園で学ばさせて頂きたいと思っております」
レティシアが生徒達へ挨拶を終えると、ジルベルトはマリアベルの前をスッと横切り、直ぐ彼女のエスコートの為に手を差し出す。
ジルベルトの差し出された手へ、自然と自分の手を重ねるレティシアの姿にマリアベルは表情を歪めた。
その時、レティシアの姿を見てからずっとブツブツと呟いていたクララが、彼女へ向けて手を翳すとその手には魔方陣が現れる。
「よくも、ノコノコと平気な顔を出せたわね!!
あんたさえ居なければ、私はっ!!」
王城のさらに王太子であるジルベルトの前で、あろうことかクララは炎の魔術をレティシアに向け放った。
その瞬間、アルフレッドが詠唱無しに陣を発動させ、レティシアとジルベルトの前に防御壁を作り、クララにはオスカーの剣が突き付けられていた。
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◇お知らせ◇
お話が佳境に入っている所なのですが……
活動報告でもお知らせしましたが、この次の話から、申し訳ありませんが、私的な理由で不定期な更新になってしまうことをお知らせいたします。
一週間に1~3回程度の更新を、頑張って目指したいと思っております。。。
更新の時は活動報告にてお知らせ致しますのでどうぞ、これからも宜しくお願い致します!




