第51話 然るべき場所
マリアベルの滞在している部屋の中では、女官達が慌ただしく動いていた。
「お美しいですわ、マリアベル王女殿下」
マリアベルの身支度を任されている一人の女官は、鏡に写る王女の姿を見ると、ほうっと感嘆の声を漏らしながら言葉を掛けた。
「当たり前よ
今日は特に注目を浴びる事になると思うから、念入りに準備をしてちょうだい」
「はい、畏まりました」
そう女官達は返事をすると、またマリアベルを着飾る手を進める。
今日は、ジルベルトからの提案で、学園の生徒全てを王城の庭園へ招き、大規模な茶会を催す事になっていた。
今回は、マリアベルではなくジルベルトが茶会の主催を務める事になっている為、マリアベルは特に茶会の進行には携わってはいない。
その事も合わせて、ジルベルトが特別な機会をわざわざ自ら作った事に、マリアベルは以前、彼が言っていた然るべき場所とは、今日のお茶会であると確信を持っていた。
その為、生徒達の羨望の目を沢山浴びる事になるからと、朝早くから、自分の身支度を念入りに行っていたのだった。
しかしマリアベルは、一つ気がかりな事があり女官へ訪ねる。
「カートは、今日のお茶会への参加は何と、言っているの?」
「まだ、お身体の調子が本調子ではないとの事で、様子を見させて欲しいとの事を、イェドヴァル様付きの侍従から伺いました」
「そうなの……」
マリアベルは、先日カーティスと意見を違えた数日後から、彼と会っていなかった。
(ずっと体調が悪いなんて言って、学園にも来ないなんて……!
わたくしの側に付き添う為に、オーガストラ王国へ同行してきたっていうのに、何をやっているのよ
結局、わたくしの言う通りジルベルト様について特に何も出て来なかったから、わたくしと顔を合わせづらいのよね?
自分の思った通りにいかないから、ヘソを曲げているのよ
カートったら、まだまだ子どものままなのだから……
でも、わたくしが正式にジルベルト様の婚約者になったら、わたくし自ら声を掛けて仲直りしてあげようかしら
わたくしも、カートには甘いわね)
マリアベルは、身支度をしながらそんな事を考え、ふふふと笑みを溢していた。
◇*◇*◇
マリアベルは、本来ならジルベルトのエスコートで、茶会の会場がある庭園へ向かう予定であったが、ジルベルトから茶会前に所用があると言われ、マリアベルは先に侍女を伴い庭園へ向かっていた。
その途中、庭園の側の回廊でクララの姿が目にはいる。
クララの顔色は悪く、ふらついている様子に、マリアベルにはどうしてクララがそんな状態になっているのか、心当たりがあった。
(全く……あれは、ただ安易に使えばいいってものじゃないのに、あれじゃあ、使い過ぎて身体に影響が出ているじゃないの……
幻覚も見えてしまっているのではなくて?
クララさんが、学園でレティシアさんを標的にしたと報告を受けたけれど、結局怪我の一つもさせられずジルベルト様が助けたと聞いた時は、ジルベルト様が心変わりされたのかと心配になったわ……
婚約者の立場は予定通りに、わたくしが手にする事になったから、彼女は、もういらないわね……
あんな軽率で、気品のない方は、側妃だとしても側に居られるのも嫌だわ
ご自分で、今の立場から降りてもらおうかしら
あまり、今日の素晴らしい日に、ケチは付けたくはなかったけれど……
ジルベルト様や皆様の前で醜態を晒してしまえば、あっという間に転落してしまうわよね……)
そんな事を考えるマリアベルは、顔に笑みを浮かべ、クララへ近付いていった。
「ごきげんよう
クララさん?」
「マリアベル王女殿下……、殿下におかれましては──」
「形式的な挨拶は無用よ?
わたくし達の間柄でしょう?」
「……はい………」
「ねぇ……クララさん
その顔色……
あれを今日もお使いになってるのかしら?」
「あ………
使うと……力を頂けるので……」
「そうなの?
あれは万能なものではあるけれど……
あまり多用してしまうと、お身体に負担もかかるから、適量にとどめておく事の方がクララさんの為よ?」
「……はい……ご助言をありがとうございます……」
マリアベルは扇を口元に当てると、さらにクララへ近付きある言葉を囁いた。
「クララさん……、噂で聞いたのですけれど……
今日のお茶会に領地に帰られていらっしゃるという、レティシアさんが出席されると、わたくし耳にしてしまったの……」
「え……」
「どういう事なのかしら?
気になると思いませんこと?」
「あの女が……」
マリアベルの言葉に、クララはポツリと呟く。
その様子に、マリアベルは笑みをさらに深めた。
「では、会場でまたご一緒に楽しみましょうね」
ブツブツと呟くクララをその場に残して、マリアベルは立ち去る。
レティシアが今日の茶会に出席するなんていう話は、マリアベルの思い付きの嘘であった。
マリアベルの手に入れている情報では、レティシアは領地に籠ったまま引き込もっていると聞いていた。
クララが、幻覚が見えているとふんだマリアベルは、レティシアが茶会に来るとクララに植え付け、彼女が感情的になるように唆したのだ。
マリアベルが会場の庭園に付くとジルベルトも漸く姿を現し、彼女へ手を差し出した。
「こちらまでのエスコートが出来なく、申し訳ありませんマリアベル王女」
「いえ、ご執務でしたら仕方がない事ですわ
ジルベルト様、本日のお茶会をジルベルト様自らが主催してくださったのは、以前仰有っていらした、わたくしへの返事を然るべき場所でしてくださる為なのでしょうか?」
マリアベルの問いに、ジルベルトは笑みを王女へ向ける。
「マリアベル王女は、察しがいいですね」
その言葉にマリアベルの鼓動は高まり、満面の笑みをジルベルトへ向けた。
「やっぱり思った通りだったのね
わたくし、とても嬉しいですわ
こんな素晴らしい場所で、お返事を頂けるなんて感激だわ!」
「そう、ですか……
では、参りましょうか?」
「はい!」
ジルベルトは、前を向くと今まで浮かべていた笑みを消す。
そして、マリアベルをエスコートしながら茶会会場へ足を進めていった。
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