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第49話 断罪の計画

 夜空に星が煌めく頃、フワリとサラサラな蜂蜜色の髪の毛を梳くような、長い指で優しく撫でられる感触に、閉じていた目蓋がうっすらと開き、綺麗な翠眼が現れる。


「──ジル……?」


「あ……ごめんね、起こしてしまって」


 遅い時間に、自分の私室へ戻ってきたジルベルトは、自分の寝台で眠るレティシアの顔を見ながら、彼女の頭を撫でていたのだ。


「ううん、私の方こそジルが戻るより先に休んでしまって、ごめんなさい

 随分遅かったのね?」


「ああ……、そうだね

 少し、厄介な仕事があってね

 片付けるのに時間がかかってしまったんだ

 大分、顔色が良くなったね」


「うん……」


 レティシアは、ジルベルトが何かを抱えているような表情に気が付く。


「ジル? どうしたの?」


「いや? 何でもないよ?

 ただ……、レティの事をこうやって長い間、私の部屋に閉じ込めてしまって、ごめんね……

 でも、あともう少しだけ……君には私の守れる場所に居て欲しいんだ」


 レティシアは、そんな言葉を溢すジルベルトの事を見詰めた。


「ジル……、何を隠しているの?」


「え……?」


「ジルから、今起こっている事を教えてくれるのを、私……目が覚めてからずっと待っていたの……

 でも、ジルも、お兄様やアルも何も教えてくれない……」


「それは……

 心配しないで、私達に任せておいてくれたら、大丈夫だから……

 もう少しで、片付く」


「そうじゃなくて……

 私は、こんな風に頼りなくて……ジルの力になるなんて、全然出来ないかもしれないけど……

 それでも、守ってもらうだけなんて、嫌……」


「レティ、君の事を頼りないなんて思った事はないよ?

 だけど──」


「ジルの事を操っていた相手に、辿り着いたのよね……?

 ジルが、ここまで私の事を隔離する訳は……

 私にも、関係がない事ではないのでしょう?」


 自分の言葉を遮ったレティシアの言葉に、ジルベルトは深いため息を吐いた後、彼女を見詰めながら頬に大きな手をあてると、彼女の頬を優しく撫でた。


「君に、隠し通せるとは思ってはいなかったよ

 ただ、私がやろうとしている事を、君には知られたくなかったっていう、私の単なる我が儘から、君に何も伝えずに自分の私室に君を閉じ込めた

 君に、軽蔑されたくはなかったんだ」


「軽蔑……?

 私が?

 ジルの事を、軽蔑なんてしないわ」


「君は、私の残忍性を目の当たりにした事がないから、そう言うのだよ

 そんな姿を見たら、君だって、私の見る目が変わってしまうと思う」


 ジルベルトの言葉に、レティシアは彼の瞳から目をそらす事なく、真っ直ぐ見詰める。

 ジルベルトはそんなレティシアの視線を感じながら、話を続けた。


「私は、どうしても許せないのだよ……

 あのような問題を起こしたのは、マリアベル王女だ

 彼女は、シャルテ国王が婚姻の打診を持ち掛けた当初の予定のアルではなく、王太子である私の妃になり、将来的にこの国の王妃なろうと目論んで事を起こした

 それとは別に、レティを学園の階段から魔術を使って落とそうとしたのは、クララ·ヘインズ嬢だという事もわかった

 マリアベル王女と彼女は繋がっていたようだが、その方向性が変わって仲違いしたのか、ヘインズ嬢が単独で事を起こしたようだけどね

 そして、最後にカーティス·イェドヴァル

 彼は、王女の目論みとは別に、この国をシャルテ国王の思い通りに動かす為に、私の弱点を君だと察して、君の事を狙おうとしていた

 それが、今私が掴んでいる大まかな情報だ


 私が許せない事は、自分達の欲の為に君をも巻き込んだ事が、一番許せない

 だから、然る場所で三人を断罪しようと考えている」


「断罪って……、相手は隣国の王女殿下もいらっしゃるのに?」


「そこの問題を、クリアに出来る手筈は整えている

 だけど、君は優しすぎるから……

 そんな罪を犯した者達をも、許そうとするだろう?

 しかし……今回は、私は絶対に許せない

 そんな、怒りの感情で事を進めようとしている自分の姿を、君には見せたくなかったのだよ」


「ジル……」


「長く話していると身体に障る

 もう、休んだほうがいい

 まだ、体調が完全ではないのだからね」


「でもっ!」


「また明日、ゆっくり話そう

 私は隣の部屋にいるから、何かあったら声を掛けるのだよ?」


 ジルベルトは、それ以上話したくなかったのか、それともレティシアから自分が考えている事を推測されたくはなかったのか、話の途中であったが話を切った。そして、レティシアを寝台に横にし額に口付けてを落としてから、隣にある部屋に入っていく。

 残されたレティシアは、そんなジルベルトの背中を見送った後、ぼんやりと天蓋を見詰めた。

 そして、心の中に様々な感情が入り交じっていく。


(私は……ジルが思っている程、そんなにいい子じゃない……

 今回の事だって、ジルをあんな風にした事は、私だって許せない……

 だけど、断罪って……ジルは何をするつもりなの?

 もし、この事で隣国と争いになったりでもしたら……ジルの立場だって危険な事になるかもしれない

 私は……私は、どうする事が正解なのだろう?

 ジルの言う通り、全てをジルに任せてしまう事が正解なの?

 それとも───)



 次の日、レティシアが起きた時にはジルベルトの姿は既になく、侍女のエマに聞くと、朝早くに執務室へ向かったとの事であった。


 寝台から起き上がると多少ふらつく事はあるが、レティシアの身体の調子は大分良くなっていた。

 レティシアは部屋の窓や扉を調べて見るが、ジルベルトは徹底して結界を張っているようで、外からは勿論だが、中からも出る事は出来ないようになっている。


(今の外の様子を知りたいけど、ここまで厳重に結界を張られていると、私にはどうする事も出来ない……)


 何もする事が出来なく、レティシアが考えあぐねている時、エマから声を掛けられた。


「レティシア様、アルフレッド殿下がいらっしゃっておりますが……」


「え……、アルが……?」


 レティシアの昼食を持ち、部屋を訪れたアルフレッドへ彼女は顔を向ける。


「レティ、起きていて大丈夫なのか?」


「ええ、もう平気よ?

 それより、どうしてアルが……?」


「兄上が、どうしても手を話せない事があって、俺が代わりにお前の様子を見に来る事になったんだよ」


「そんなに今、執務や公務が大変なの?

 昨日も、かなり遅い時間に戻ってきていたけれど……」


「まぁ……、執務というか……

 兄上にとっては、今は執務よりも重要っていうか……」


 アルフレッドは、複雑な表情で言葉を濁した。

 そんなアルフレッドの様子に、レティシアは彼へ問う。


「ジルが操られていた相手の事……?」


「え……お前、何でそれを知って……!?」


「ジルが、昨日漸く少し教えてくれたの

 でも、殆ど教えてくれなかった

 ねぇ、今、外では何が起こっているの!?

 アルも知っているのよね!?」


「それは……」


「ジルに口止めされてるの!?

 でも、私も知りたいの!

 私だけ、安全な場所で守られているだけなんて、嫌!」


「レティ……」


 レティシアは、必死にアルフレッドへ自分も今の状況を知りたい事を伝えた。




ここまで、読んで頂きありがとうございます!

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