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第47話 言質

 自分を見据えてくるプリシラに、カーティスは乾いた笑みを浮かべた。

 そして、彼女の胸ぐらを掴む。


「ここまでして、まだ動じないんだね

 なんなのかな?

 それとも、僕にこうされる事を望んでいる訳?」


「………何故、そこまでレティに固執するのですか?

 レティの居場所を知らなければならない理由が、何故カーティス様にあるのですか?」


「………僕がその理由を、馬鹿正直に言うと思う?」


「何か企みを持たれているのなら、言わないでしょうね……」


「企みねぇ……

 理解しているかわからないけどさ

 お前が、最後まで彼女の居場所について口を割らなくても、或いは知らなかったとしても、そして我慢出来なく口を割ったとしても……

 無事に、今まで通りに戻れる訳じゃない事は確かだもんね

 可愛そうだから、教えてあげるよ

 そして、レティシア嬢の側にいたせいで、自分の一生が滅茶苦茶になった事を恨みなよ」


「初めから、わたくしを無事に帰すおつもりはなかったという事なのですね?」


 カーティスは、掴んでいたプリシラを床へ押し倒した。


「ははは、そうだよ

 徹底してやらないと、自分の首を絞める事になるからね

 その証拠になり得るものがあれば、初めからなかった事にすればいいだけさ

 君が友達だと思っている彼女は、この国の王太子の弱点なんだろ?

 何度か、彼女が絡むと感情を露にする王太子が居たんだ

 だからね、あの王太子を我々の手の内で操る為にも、彼女が必要なんだよ

 この国は色々と利用価値があるから、手中におさめておきたいしね

 偉そうなんだよ、この国は……」


「この国を、どうにかされるおつもりだという事なのですか……?」


「攻め込んでも、軍事力的にシャルテには分が悪い

 だけどね、シャルテにはこの国にはない素晴らしい特産物があるから、軍事力に頼らなくともその影響力は大きいんだよ

 もう既に、この国の中でもその特産物の依存は大きくなっていると思うよ?

 初めは、王太子に依存させたかったけど……、何かの耐性でも付けてるのか、全然効かないからさ

 違う使い方をさせてもらったけど、それも僕は失敗しているように思うんだよね

 だから、彼女が必要なんだよ

 あの王太子の目の前で、彼女をさ……

 使い物にならないように壊したら……、王太子へ付け入る隙が出来るだろう?」


「………壊すって……?」


 プリシラの問いに、カーティスは懐刀を取り出しプリシラの胸元へあてる。


「方法は、幾らでもあるけど……

 出来れば、王太子が一番ショックを受けるような壊し方をしたいなぁ」


 そんな言葉と同時に、カーティスは手にした懐刀でプリシラの上着の釦を弾き飛ばし、笑みを浮かべながらさらに言葉を続けた。


「別に、命を奪おうとは考えていないし、壊した後でも僕の可愛らしい人形にするつもりだよ?

 だって、あの容姿を易々と無くしてしまうのは、勿体無いだろう?

 でも、お前はさ……、そんな容姿じゃあ僕の好みでもないし、人形にして売り払っても二束三文にしかならないだろうな……

 まぁ、シャルテにも容姿は気にしない物好きもいるから……その者達がそれなりに可愛がってくれるだろう?」


 プリシラは、目の前の人間の正気の沙汰ではないような考えに、吐き気がしたが感情を押さえ込んだ。


「カーティス様は、特にご興味もないかと思いますが、わたくしの最期の戯れ言だと思ってお聞きください

 その後、わたくしの知っているレティの事についてお話しますわ」


「へぇ、あんなに強気だったのに口を開いてくれるの?

 まぁ、いいか

 聞いてあげるよ

 僕は、そんなに慈悲のない人間じゃないからね」


「先程わたくしが、騎士団長を務めるマルクス公爵のご子息と婚約を結んでいる事が、理解出来ないと仰有られましたよね?

 その理由、教えて差し上げますわ

 わたくしは、学力も魔力も人並みで、容姿も目立つものではなく、凡庸でありますけれど、一つ得意にしている事がありますの」


「得意……?」


「ええ……

 その得意にしている事に、マルクス騎士団長様が興味を持ってくださって、ご嫡男のサイモン様の婚約者にと仰有ってくださったのですよ?

 カーティス様は、人を見極める目を余りお持ちでないようですね?」


「なっ──……っ!?」


 プリシラは、後ろ手に縛っていた縄を隠し持っていた刃物で切ると、自分を押さえ込んでいるカーティスの手に、自分の手を添えた。

 その瞬間、カーティスの身体の位置と、プリシラの身体の位置が入れ替わる。


「は……?」


 プリシラは、カーティスの肩を押さえ、手を後ろにして身動きが取れないように押さえ込んだ。


「わたくし……武術を少々得意にしておりますの

 こうなるかもしれない、という事は、カーティス様は一つもご想像されませんでしたか?

 それに、お喋りが過ぎるのも、ご自分の首を絞める事になりますわよ?」


 そうプリシラが言ったのと同時に、古びた家屋の扉の前に陣が現れると、勢いよく扉が壊れた。


「どの程度なのかと、黙って見ていたら……

 余りにもお粗末過ぎて、話にならないな」


「何……?」


 そこにいたのはジルベルトとアルフレッド、そしてジルベルトの側近候補である生徒会の面々であった。

 そして、呆気に取られていたカーティスが気が付いた時には、頬に冷たく無機質なものが触れる。

 それは、プリシラの婚約者であるサイモンの手にした剣であった。

 カーティスは、どうやってサイモンが扉から離れていた自分に近付き剣を向けているのか、その動きもわからず気が付きもしなかった。


「サイモン、お前の気持ちもわかるが、()()()()でも、一応シャルテの王位継承権を持っている

 不本意だろうが、傷はつけるなよ?」


 普段は、もの静かで穏やかな雰囲気のサイモンではあったが、鋭い眼光でカーティスの事を睨み付ける。


「殿下のご慈悲と、ご自分のご身分に感謝してください

 プリシラを、このような目に合わせた事、そしてプリシラに対しての数々の侮辱的な言動は、誰が何と言おうと私は到底許す事は出来ませんので……」


「なっ──」


 サイモンの言葉に腹を立てたカーティスが、怒鳴ろうとする言葉にジルベルトは言葉をかぶせた。


「サイモンの言葉には私も至極同意するよ

 カーティス・イェドヴァル、貴様は先程何と言っていたかな?

 レティをどうするつもりだって?

 そんな、おぞましい事を貴様の頭の中で考えただけだとしても、万死に値するが……?」


「その呼び方……

 彼女の事を……思い出して……

 やっぱり術が解け──」


「術が解けたら、どうだと……?

 ここで聞いた言葉だけでも十分だが、貴様には詳しく聞きたい事が山ほどあってね……?

 協力してくれるとありがたいよ

 協力しない場合はどうなるか、そんな頭でわかるかな?」


 カーティスの事を、腕を組みながら見下ろすジルベルトは、手を挙げると連れてきていた近衛騎士達を呼びカーティスを拘束した。


「貴殿は、()()()()()であるから、丁重に扱わせてもらうよ

 そして、ゆっくり話を聞かせてもらおうか?

 それにしても、余りに能が無さすぎて驚いた

 シャルテの玉座への有力候補が、この程度とはね?

 シャルテ王国自体も、その程度であるって事だな?」


「何時から、僕を張っていた!?」


「張る?

 そんな必要はないじゃないか?

 貴様が、自らこちらの手に落ちてきたのだからね?」


 近衛騎士達が、拘束したカーティスを連れていく姿を、その場にいる面々は見送る。

 サイモンは屈むと、カーティスに乱暴に扱われていたプリシラを、優しく抱き起こして自分の上衣を彼女へかけた。そして、撫でるように頭や身体に付着している土汚れ等を払う。


「あ……、サイモン様……

 サイモン様の上衣が汚れてしまいますので……」


「そんな事はどうでもいいよ

 君は本当に無茶ばかりする……

 幾ら、君が武術に長けていたとしても、君は女の子で、私の婚約者なんだから、その事を忘れないで欲しい」


「はい……心配をかけてしまって、ごめんなさい……」


 シュンとしたプリシラを、サイモンは優しく抱き寄せると、ゆっくりと背中を撫でた。しかし、次には鋭い表情に変えると、ジルベルトへ顔を向ける。


「殿下

 今回の件、プリシラ自らが引き受けた事とは言え、私は今でも納得はいっておりませんので……

 この貸しは大きいですからね?」


「わかってるよ

 サイモンの大切なプリシラ嬢を、こんな目に合わせてしまって悪かった

 自分に置き換えたとしたら、あり得ない事だからね……

 プリシラ嬢、あの者の言質を取る為とはいえ、君に不快な思いをさせた上に、危険に晒してすまなかった」


 ジルベルトが自分に対して謝罪する姿に、プリシラは慌てる。


「そんなっ!

 殿下が謝る事はありません!

 わたくしも、レティを助けたかったんです!

 レティは、わたくしにとっても大切な友人なんです

 だから、今回の事を引き受けたのですから

 わたくしは、この通り何ともないですわ

 サイモン様も、そんなに心配なさらないでくださいね」


 プリシラは、ニコリと笑みをその場にいる面々へ向けた。



ここまで、読んで頂きありがとうございます!



◇作者の呟き◇

主人公不在継続中で申し訳ありません……

もう少しお待ちくださいませ

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