第46話 本性
学園で午後の講義が終わった後、カーティスは珍しくマリアベルと共に王城へ帰らず、ある場所へ向かっていた。
ある場所とは、学園内にあるサロン。
その場所は、学生達が交流を深める為の場所でもある。
カーティスが話をしたい人物が今日の放課後、そのサロンに居るという情報を聞き、彼はそこへ足を運んだのだ。
数人の令嬢方と談笑する一人の令嬢へ、カーティスは声を掛ける。
「プリシラ嬢」
突然声を掛けられた、レティシアの親友でもあるプリシラは振り返った。
そこに立っていたカーティスからは、同じクラスではあるが今まで殆ど話し掛けられた事がないのに、何の用だろうかと首を傾げる。
「何でしょうか?」
カーティスは戸惑っているプリシラに、人好きのする笑みを向けた。
「プリシラ嬢と、話したい事があるんだ
僕に君の時間を少しくれると、嬉しいな」
プリシラとサロンで話していた他の令嬢方は、魅惑的な笑みを向け、容姿の整っている隣国の公爵家嫡男、さらに現王弟の息子という王家の濃い血筋でもある青年にウットリとした表情を向ける。
だが、プリシラのカーティスへ向ける振る舞いが変わる事はなく、少しの間、彼女は彼を見詰めると、カーティスの誘いへ返答した。
「サロンでは、お話する事は出来ないのですか?」
「ここで?
出来れば内密に話したいのだけど……」
「それは、難しいかと……」
カーティスは、プリシラの自分が思ってもいない返事に、驚いた表情を向ける。
その訳は、今まで彼が笑みを向けて誘えば、ほとんどの令嬢方は了承の返事をしていたからだ。
「難しいって……僕が誘っているのに?
放課後、サロンで話しているぐらいなんだから、用等はないのだよね?
それなのに、断るってさ……」
「わたくしには、婚約を結ばせて頂いているお方がいらっしゃいます
それなのに、何もないとわかっていても、他の殿方と他の方の目のない所へご一緒する事は、不誠実であると思いますの
ですから、カーティス様のお誘いを受ける訳にはまいりません
ご無礼であれば、大変申し訳ありません」
プリシラの言葉に、カーティスは残念そうな表情を浮かべる。
「そうか……大切な話しだったのだけど……
残念だな……
だけどさ、プリシラ嬢はしっかりしているね
体裁を考えて、婚約者に対して恥じない振る舞いをしているなんて、令嬢の鏡だよ
それに比べて姫と持て囃されている例の彼女は、そういう所を親友の君から見習っていたら、今のようにはなっていなかったのにね?」
カーティスが言った事は、明らかにレティシアの噂について揶揄しているのだとプリシラにはわかった。
言いたい事は沢山あったが、グッと感情を押さえ込む。
カーティスは、それ以上プリシラに対して無理強いする事もなく、笑みを浮かべたまま、その場を去っていった。
プリシラは、カーティスが何の話があって自分に声を掛けたのか、とても気になったが、深入りしない方がいいのかもしれないと思った。
サロンでの話が終わり、プリシラが屋敷へ帰宅する為に向かった馬車寄せで、自分の家の馬車の御者へ尋ねる。
「お兄様は、まだ来られていないの?
生徒会で予定があるから、お兄様を待つ為にサロンで時間を潰していたのだけれど……」
「ミカエル様ですが……
まだ、お時間がかかるとの事で、プリシラお嬢様は先にお帰りになって欲しいとの伝言がありました」
「そうなの……?
わかったわ、じゃあお兄様の言う通り、一人で先に帰るわね」
帰り道、暫く馬車に揺られている時に、馬車が急停車する。
───ガタンッッッ!!
「きゃっあっ!?」
馬車が急停車した事でプリシラは体勢を崩し、身体を馬車の壁に打ち付けた。
そんなプリシラの耳に届いたのは、御者が誰かと何か言い争っている声、そして次に聞こえたの御者の叫び。
それから扉が開いた時、プリシラに見えたのは……?
◇*◇*◇
何処か廃屋のような古びた場所に、手を後ろ手に縛られているプリシラの姿があった。
そして、そんな彼女を冷たい目で見下ろしていたのは、学園では人好きするような笑みを浮かべているカーティスであった。
そんなカーティスを、プリシラはキッと睨む。
「何の理由があって、このような事をするのですか?」
「君がさ、僕の誘いを立場も弁えもせず断わったからだよ
婚約者を立てるようなご高説を垂れていたけど、この様だ
拐かされた令嬢の末路は知ってるかい?
何もなかったとしても、その令嬢に付きまとう噂をさ?
まぁ、拐かされて何もないっていう事は、あり得ないのだろうけどね?
学園で大人しく、僕の誘いを受けてれば婚約者を失わずに済んだのにね」
「………ここまでして、わたくしに何の話があるというのです!?」
カーティスの脅しに乗る素振りすら見せないプリシラに、カーティスは舌打ちをする。
「本当に可愛げのない……
脅えるとかすればいいものを……
そもそも僕の誘いを断る事が、間違っているのだけどね?
凡庸なお前に、わざわざ僕が声を掛けてあげたのにさ
勘違いされても迷惑だから言っておくけど、僕は特に大した能力もなくて、容姿も平凡なお前になんか興味はないから
たださ、お前がレティシア嬢の親友だって事だから、お前なんかにこの僕がわざわざ声を掛けたんだよ?」
酷い蔑みの言葉をプリシラへ、カーティスは見下した表情で言い放った。
しかし、人が変わったかのようなカーティスに、プリシラの表情は歪む事すらない。
「レティ……?
わたくしが彼女の親友だとして、カーティス様に何の話があるというのです?」
「彼女は今何処に居る?
知っているんだろ?」
「それを知ってどうなさるのですか?」
プリシラの動じない姿に苛ついたカーティスは、彼女の頭頂部の髪の毛を鷲掴みする。
「煩い……」
「………っ!!」
それは、紳士が令嬢にするような振る舞いではなかった。
「僕の質問だけに答えろ
僕はさ、お前のような身分の者が、そう気安く話し掛けられるような身分ではないんだよ?
わかる?
頭がそれ程良くないからわからない?
早く言った方がいいと思うけど?
妖精姫は今何処にいる?」
そんなカーティスに脅える素振りも見せず、プリシラは真っ直ぐにカーティスを見据える。
「カーティス様もご存知でしょう?
レティは、公爵夫人と一緒に領地に行ってるという話が、世間に広がっているではありませんか?」
カーティスは、普通の令嬢なら泣き叫んだり、脅えるような仕打ちをしているのにも関わらず、動じず真っ直ぐ見据えてくるプリシラに異様な雰囲気を感じた。
「………お前が彼女の親友っていうのは、やはり間違いだ
そもそも、妖精姫と言われる公爵令嬢の彼女と、大した能力もない凡庸なお前が親友っていう、同列に並んでいると考える事事態が間違っていたんだ
ただの、引き立て役のくせに……
お前なら、知っているかと思ったけど、見当違いだったよ
そもそも、そんな容姿で大した能力もないお前が、騎士団長でもある公爵の長男の婚約者っていう所から、理解が出来なかったんだ
だけど、引き立て役であっても次期王妃になる予定の妖精姫の近くにいるお前なら、何か利用出来るとでも騎士団長は考えたのかな?
本当に不思議な国だね、ここは
こんな事までして、お前からレティシア嬢の居場所を聞き出そうとしたのに、時間の無駄なんてさ……あり得ないんだけど?
……っていうか、本当にマリアの言った通りな訳?
王太子と妖精姫は、本当に別れたっていうの?」
カーティスは、プリシラの髪の毛を掴んだまま彼女を横に倒し、足で倒れた彼女の肩を蹴る。
「ねぇ……?
本当に嘘ついていない?
僕の勘は、外れる事がなかなかないんだけどな?」
プリシラを見下ろすカーティスは口角をあげた。
「……………」
そんなカーティスの視線を真っ直ぐ見返すプリシラに、彼は彼女の制服のリボンをむしりとる。
「やっぱりさ、黙っているって事は、本当の事を知っているんだよね?
僕は、彼女の居場所を知らなければならないんだよ
もう、面倒くさいから早く言いたくなるようにしてあげる」
カーティスは、プリシラへそう言うと、笑みを向けながらむしりとったリボンをポトリと床へ落とした。
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