第45話 仲違い
マリアベルの滞在している部屋からは、マリアベルとカーティスの話し声が聞こえていた。
「ねぇ、マリア
ちゃんと調べなくて、いいわけ?」
「調べたけれど、特に怪しい事もなかったもの」
「マリアって、そんなに楽観的だったわけ?
あの王太子の周囲に送り込んだ密偵が、未だに一人も戻ってきていないんだよ?
それに、王太子のイヤーカフもまだ見付かってないんでしょう?
どれを考えても怪しいよね?」
「ジルベルト様の怪しい所を必ず見付けなさいって命じたから、見付けられなくて戻って来にくいのでしょう?
買収しただけのこの国の者達だもの、初めから期待はしていないわ」
「何で、そんなにあの王太子の事を信用している訳?」
「鴉の報告だって、王都の公爵邸にも既に彼女の姿はないようだし
それにジルベルト様自らが、わたくしの提案へのジルベルト様の答えを、然る場所でわたくしに伝えてくださると仰有ってくださったわ
どれをとっても、邪魔者はいなくなって、わたくしの願い通りになったって事でしょう?」
「だけど、マリアの術が破られて、さらに術をかける為に手に入れた王太子のイヤーカフも消えたままなんでしょう?
それなのに、未だに操っている状態が続いているって思えないよね?
マリアはおかしいと思わないの?」
マリアベルは、カーティスの言葉にうんざりしていた。
「そんなに、まだジルベルト様に不信感を持っているなら、カートが調べたら良いのではなくて?
カートが気にいっていたレティシアさんが、王都を離れてしまって面白くない事に、わたくしまで巻き込まないでちょうだい!」
「巻き込んでいる訳ではなくて、忠告しているんだよ!
もし、あの王太子が術が解けているのにも関わらず、未だに操られたふりをしているとしたら、怪しすぎるよ」
「わたくしは、お父様の言う通りこの王国の妃になる為の努力はしたわ
いいえ、お父様の考え以上の功績よ、これは!
だって、王太子妃として求められる事は確実なのだもの
これで、お父様ももっと喜んでくださるわ
お父様は、この王国を牛耳りたかったのだものね
もし、不都合が出てきたら、また、わたくしの術をかければ良いだけの事だし……」
カーティスはため息を一つ吐く。
「マリアがこれ以上あの王太子を疑わないなら、仕方がないから僕が調べてあげるよ
後で、僕に感謝する事になったとしたら、その時は僕にも考えがあるからね?」
「好きにしたらいいわ!
反対に何も出て来なかったら、わたくしもカートをシャルテ王国の王太子に、って、お父様にお薦めする事も考えさせてもらうわよ!」
機嫌を損ね居室から寝所へ向かうマリアベルを、カーティスは黙って見詰めポツリと呟いた。
「結局は、マリアも同じだったって事か……」
マリアベルの安易な考えに、カーティスは彼女に対して失望する。
(マリアは頭の回転も速いし、あの能無しの王子っていう名だけの従兄弟達とは違うかとは思っていたけど、結局は兄妹だったって事か……
国王陛下は主君として立派だけど、その資質は子ども達には受け継がれなかったっていう事は可哀想だよね
ただ、権力を振りかざして我が儘放題な従兄弟達には、昔から呆れていたけどさ……
結局、マリアも見せ掛けだけだったって、思わざるを得ないよね
すっかり、あの腹黒そうな王太子に陥落しちゃって……)
「さて……、どうしようかな……?
マリアは、僕がここに一緒に着いてきた本当の理由を知らないから、あからさまには動けなかったけど……
好きにしたら良いって言ったのはマリアだし……
そっか……、じゃあ手始めに弱点を突く所からだよね」
カーティスはそう呟くと、足を組み直し笑みを浮かべた。
◇*◇*◇
王城の王太子の執務室に響く、ペンを走らせる音が一度止まる。
「………そうか……
ただの小者ではなかったという事か……」
「どうされますか?」
「手筈通りでいい
初めに命じた事に変わりはない
そのまま、今まで通り見張っておけ」
「御意……」
執務室内の、ジルベルトではないもう一人の声が消えたのと同時に、扉が開き入ってきたのはアランであった。
「あ……、影が来ていたのか?
話を遮って悪い」
「いや、丁度報告が終わった所だったから問題ない」
アランが言った影とは、オーガストラ王国の王家に仕える公には知られていない密偵の別名であり、その姿を見た者はいない。
唯一、姿を現すのは、直接指示をする王家直系の者の前のみであった。
「それで?
対象達は、殿下の思い通りに動いているって?」
「いや……、ただの腰巾着っていう小者では、なかったようだ
だてに、噂だけではなかったって事かな?」
「王子達を差し置いて、玉座に一番近いっていう噂か?」
「まぁ、それくらい多少の能力がある者がいなければ、こちらも潰しがいがなくて面白くはない
どの程度なのか、実力を見せてもらおうかと思ってね」
「殿下の興味は、あの王女からそっちへ移ったって事か?」
「興味なんて、そもそも初めからないよ
自分の能力もわからず、立場を弁えもせずに傍若無人に振る舞っている者の事なんてね
たださ、このままあっさり断罪するのも面白くないと思わないかい?
それでなくても、こちらが味わわされた屈辱は大きいのだからね
まったく……、そんな小者に振り回された、私自身が一番愚かでしかない
少しは手応えがないと、気が済まないよ
挫折など味わった事のない、自信満々な者を潰した時の屈辱に歪む顔を見ないとね……」
そう呟くジルベルトに、アランは呆れた。
「性格、悪……」
「今さら?
私を怒らせたのだから、それ相応の報いは受けてもらう事は当然でしょう?
それに、そんな性格の悪い私の考えに、アランは賛同してくれるのだろう?」
「俺も、お前に負けないくらい、腹がたっているからな
この国で好き放題はさせないさ」
ジルベルトは口角をあげ、くくっと笑いを溢した。
「流石は未来の宰相だね
まぁ、自分達が既に四方を囲まれているとは気が付かない鼠達の、最後の足掻きをゆっくり見物させてもらうよ」
「で? レティにこの事は?」
「まだ、言わなくていい
体調もまだ完全とはいえないからね
それに、レティはこんな私の考えを知ったらさ……
無理をして、あんな酷い事をした者達を庇いそうな気もするんだ
彼女は、そういう子だから……
それだけでなく、直接私の見せたくはないような姿を、見せる事にもなりそうだしね……」
「お前も人の子だった、って事か」
「どういう意味だい?」
「レティの前では、冷酷な王太子っていう姿を見せたくない、なんてさ
レティは、お前のその姿の事に気が付いているって言っていたのは、お前じゃなかったか?」
「気が付いているだろうけど、直接その姿を見せる事はまた違うだろう?
婚約者である間だけでも、まだレティの理想の王子様でいたいっていう、ささやかや望みが私にだってあるんだよ」
「そうか……」
切な気にそう言葉にするジルベルトを見て、そういう所は不器用であるなとアランは感じる。
ジルベルトは、何かを思い立つと立ち上がり扉へ足を進めた。
「……っていうか、おい! どこ行くんだよ!?
まだ、執務が残っているだろうが!?」
「レティの顔が見たくなった
急ぎのものは終わらせてあるから、問題ないはずだよ?」
そう言って執務室を出ていくジルベルトに、アランは呆れたように、ため息を吐く。
「何が理想の王子様だ
安全の為とはいえ、まだ婚約の間柄だっていうのに、自分の手元に置いたら、やりたい放題じゃないか……」
そんなアランのぼやきが、執務室に溢れた。
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◇作者の呟き◇
ジルベルトの性格が悪すぎてすみません~~!
彼は、心を許した者以外への対応はかなり冷たいです。
元々の性格と、幼い頃に自身に起きた事からの性質の変化も合わせてなのでしょう。
それは、自分でも自覚していて、コントロールしながら周囲の者と関わっています。
特に害のない者には、穏やかな王太子の姿で関わっていますが、彼の逆鱗に触れた時は……




