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第34話 忍び寄る足音

 王城の庭園で、ジルベルトの守護石の力を辿っていたレティシアとアルフレッドに話し掛けてきたのは、カーティスであった。


「お二人揃って、こんな所で何をなさっているのですか?」


「カーティス様……」


「オーガストラ王国では、男性が婚約された令嬢と二人でこうして会っている事は、普通なのですか?

 最近、耳にするあなた方のお噂は、真実であったのでしょうかね?」


 カーティスの言う噂とは、急にジルベルトとレティシアの交流が少なくなった事から、彼女への王太子の寵がなくなったという噂と同じくして、レティシアとアルフレッドの間に幼馴染み以上の感情が存在しているといった、醜聞にもなり得るような噂であった。

 こういう時、下手に言い訳をすると余計に憶測を生んでしまうという事はレティシアもわかっていたが、何も言わない事も肯定する事と同義であり、どうしたら良いかと戸惑っていると、先に口を開いたのはアルフレッドであった。


「彼女と俺は二人きりではないが……?

 護衛や侍女も伴っているのが、わからないのだろうか?

 そもそも、あの事実無根である噂を流した者は、不敬罪にあたる事を理解していないのが腹立たしいが、貴殿は噂を流した者を知っているのか?」


「まさか、他国の者である僕が知っているわけがないでしょう?」


「ここに二人で居たのも、兄上から頼まれた事であるし、兄上は知っている事だが、何か問題でも?」


「頼まれたとは、どんな事です?」


 カーティスの言葉にアルフレッドは、鋭い視線を彼へ向けた。


「貴殿は、シャルテ国王の実弟の子息で甥という立場や、王位継承権も持っているようだが、それでも立場は公爵家子息だ

 他国の公爵家子息が、他国の王族へ向ける振る舞いとして、貴殿のその振る舞いは以前から疑問に思っていた

 王族同士で交わしている要件を、貴殿が知る必要はない」


 アルフレッドの毅然とした態度に、カーティスは少し怯む。

 しかし、すぐ顔に人好きのするような笑みを浮かべた。


「アルフレッド殿下は、そのように身分で相手への関わり方を変える方であったのですね?」


「貴殿が、俺の事をどう捉えたとしても、どうとも思わない

 シャルテの中で一番玉座に近いと噂されているようだが、それでも今は貴族子息でしかないだろう?

 そんなに、俺に突っ掛かりたりのなら、同じ立場を手にいれてからにしたらどうだ?」


 そのアルフレッドの言葉に、カーティスは嘲笑めいた表情を一瞬浮かべた。


「第二王子である殿下と同じ立場をですか?」


 そんなカーティスの挑発ともとれるような言動にも、アルフレッドは動じる事もなく、冷静に返す。


「第二王子だから何だというのだ?

 俺はこの立場に不満を持った事も、その他の立場を羨んだ事もない

 貴殿が、俺の事を蔑もうが、その挑発に乗るつもりもない

 ただ、もう少し自重したらどうかと言っただけだ」


 カーティスは、今まで取り繕っていた振る舞いをやめて、言葉を返した。


「本当に噂通りの人ですね

 優秀な第一王子には何も敵わないと、諦めた凡人の第二王子っていう噂通りのね

 そんな貴方が粋がれるのは、自分より立場が低い者へだけですもんね?

 さっさと、マリアのご機嫌をとってれば良かったものを、それすらも上手く出来ないから、全てをお兄さんに持っていかれるんですよ?」


「………っ! そんなっ──」


「レティ」


 カーティスのアルフレッドに対する酷い蔑みの言動に、レティシアは反論しようとするのをアルフレッドが止める。

 アルフレッドは、カーティスの言葉に特には反応せずに静観していた。

 そんなアルフレッドの態度が気に食わないカーティスは、自分の挑発に乗らないアルフレッドから、レティシアへ矛先を変える。


「レティシア嬢、貴女も噂通り親の立場だけで、その今の地位にいるようですよね?

 ただ、その事に安心しきって、他の王子も誑かしていていいのですか?

 その地位すら危ういというのに──」


「今、何て言った?」


 カーティスの言葉に反応したのは、アルフレッドであり、その声は怒りを押し殺したような低い声であった。


「何が?」


「今、何て言ったかと聞いている

 誰が誰を誑かしているだって?」


「ははは、殿下のそれ

 そんなに自分の事のように怒って、たっぷり彼女に入れ込んでいるじゃないですか?

 顔に似合わず、悪女とは本当だった───」


 カーティスは、言葉を言い終わらないうちにその場に倒されていた。

 アルフレッドが、カーティスの事を魔法でその場に倒したのだ。

 カーティスは、自分に初め何が起きているのかわからなかったが、目の前の表情を消しながら自分を見下ろす存在に、意識していないのに身体全身が恐怖で強張る。


「俺の事をどう言おうが構わないが、レティシアの事を蔑むのであれば許しはしない

 こちらの事を挑発して、何を聞き出そうとしていたのかは知らないが、お前の主人に伝えておけ

 態度によっては、こちらにも考えがあるってな?」


 アルフレッドの殺気に震える身体を、カーティスは何とか抑えてアルフレッドへ嘲笑を向けると、意味深な言葉を吐いた。


「強がれるのも今のうちだ

 もう既に、全てがこちらの手の内にいるんだからな!」


 カーティスはそう言い放ち、身体を起こすとアルフレッドと、レティシアの前から立ち去っていった。

 カーティスの去っていった方向を、黙って見ているアルフレッドへレティシアは駆け寄る。


「アル……?」


 レティシアに呼ばれ、アルフレッドは彼女へ顔を向けた。


「レティ、ごめん……

 俺が上手くあの男の相手を出来なかったせいで、お前の事を酷い言葉で言われた……」


「アルは何も悪くないわ

 反対に私の事を庇ってくれてありがとう

 私の方こそ、上手く立ち回れなかったから……

 でも、カーティス様……あんな人が変わったような振る舞いって……」


「あれが本性なんだろう?

 ずっと、あの男の振る舞いと表情に違和感を感じていたんだよ

 だけど、あの言葉……

 俺の考えが当たってなければいいが……

 嫌な予感がする……」


「嫌な……予感……?」


 アルフレッドもレティシアも、この時、不穏なものが自分のすぐ後ろまで忍び寄ってきている事を、まだ知らずにいた。


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