第33話 交錯する想い
ジルベルトは、自分の記憶から失くなってしまったレティシアの事を避けていた時はあまり気にならなかったが、レティシアの事を自ら知ろうと意識的に彼女を気にするようになると、ある事に気が付いた。
弟である第二王子のアルフレッドが、レティシアの事をとても気にかけて接している姿をよく見掛けるのだ。
そしてその時のアルフレッドの表情は、普段はあまり表情を変える事がないのに、レティシアに対しては慈しむように見詰め、彼女の表情が陰れば、アルフレッドも辛そうな表情を浮かべていた。
察しのいいジルベルトは、レティシアの記憶がない今の自分でも、そんなアルフレッドの心情にすぐ気が付く。
そして、ジルベルトは王城の回廊で話している二人の姿を今日も見掛け、アルフレッドの表情に目をとめた。
(アルは、彼女に気持ちを寄せているのか……?
兄で王太子である私の婚約者だと周知されたのに?
アルの彼女への想いを、以前の私は知っていながら、彼女と婚約を結んだのか?
周囲が言うには、私が望んで婚約に至ったという話と、彼女の身分や立場がこの婚約に影響が大きかっという声があったが……)
ジルベルトは、一番身近に居て昔から信頼しているアランの前で、アルフレッドの事をポツリと溢す。
「アルは……彼女の事をとても大切にしているようだな……
まるで……」
そのジルベルトの言葉に、アランは表情を消して彼へ鋭い視線を向けた。
「今の状態のお前が、アル本人にそんな事を間違っても聞くなよ?
こんな状況になっても、自分の感情を抑えている、あいつが可哀相だ」
「以前の私は、アルから彼女を奪ったというのか……?」
「レティシアの事を覚えていないお前であったら、アルの事を優先的に考えるのは当然だと思うが……
以前のお前は、アルの気持ちを知っていながら、レティシアと婚約を結んだ事は事実だ」
ジルベルトは、アランの言葉でより悩む。
それは彼が、弟であるアルフレッドの事を、幼い頃から大切にして、とても可愛がっていたからだ。
それなのに、アルフレッドのレティシアへ向ける感情を知りながら、その気持ちを応援し後押しをするのではなく、自分がアルフレッドからレティシアを奪ったという事実に困惑する。
数日後、そんなジルベルトを、さらに惑わすような事が起こった。
それは、マリアベルの茶会へ招かれた時であった。
普段であれば、カーティスやクララが居るのに、今日は王女一人であった事に、ジルベルトは警戒する。
「今日は、お一人なのですね?」
「ええ……ジルベルト様に大切なお話があったので、皆さんには遠慮して頂いたのです」
「大切な話……ですか?」
マリアベルは、哀しげな表情を顔に浮かべると話しずらそうにしながらも、口を開いた。
「ジルベルト様は、わたくしのお父様……シャルテ国王からオーガストラ国王陛下へ向けた、内密な書状の内容を知っておりますか?」
「内密な書状の内容……と、いうと……?」
「アルフレッド様の事であります」
「貴女との婚約を望んでいるという内容の書状の事でありますか?」
「ええ……」
マリアベルが浮かべる哀しげな表情に、ジルベルトは警戒しながらも、その言葉の先を彼女へ促した。
「どうされたのですか?」
「お父様のお考えやお言葉は、わたくしにとっては絶対であります
逆らう事は許されません……
初めに、お父様からそのお話を聞いた時は、アルフレッド様がどのような方なのかわからず、不安しかありませんでした
アルフレッド様が、とてもお優しい事をオーガストラに滞在させて頂く事で、知る事が出来て安心しました
ですが……アルフレッド様は、わたくしの事はあまり良い感情を抱いておられないのだと思ってしまったのです
このお話自体、全く乗り気ではない事も……」
「………何故、そのように思われたのですか?」
「わたくしが、アルフレッド様と交流を深めたく思い、お茶会にお誘いしても、良いお返事を頂けない事が多かったのです
それに……それだけでなく………っ……こんな事をジルベルト様にお伝えする事は憚れるのですが……」
「私は構いませんからお話ください」
マリアベルは震える手をギュッと握りしめると、ジルベルトを見詰め震えた声で言葉を続けた。
「アルフレッド様は……レティシアさんの事を誰よりも大切にされている事を、何度も見て思い知らされたのです……
アルフレッド様のお心の中には、わたくしの入る余地が一つもないのだと……
レティシアさんも、アルフレッド様の前ではとても自然な表情で、そしてとても信頼されているように察しました
ですが……レティシアさんは、王太子であるジルベルト様のご婚約者様であり、この事をわたくしの胸の中でおさめた方が良いのか、どうしたら良いのかと悩みましたわ
だけど、わたくしは皆様にお幸せになって欲しいと思ったから、今日ジルベルト様にお伝えしようと決意したのです」
マリアベルの伝えた事は、今のジルベルトも何度も二人の姿を見て、二人の表情から感じていた事で、疑う事はなかった。
「それで……貴女はその事からどうしたいと考えたのですか?」
「わたくしは───」
ジルベルトとマリアベルがそんな話をしているとは知らず、レティシアとアルフレッドは、ジルベルトのイヤーカフを王城で探していた。
「やっぱり駄目だ……」
「また、途切れたの?」
「ああ……何かに守護石の力が遮断されているんだ
だけど、それは強い魔力ではない事はわかる……
遮断される理由がわかれば、近付けると思うんだが……
それでも、おそらく兄上のイヤーカフは王城の外にはない」
「お城の中にあるっていう事……?
それなら、ジルをあのようにした人がお城の中に居るって事になるの……?」
「そうだとは、はっきりと断定は出来ないが、その可能性が高いかもしれない」
「そんなこと──」
「お二人で何をしているんですか?」
「カーティス様……?」
庭園に居たレティシアとアルフレッドに、声を掛けて来たのはカーティスであった。
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