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第32話 暗中模索

 自分の聖剣をイヤーカフの姿に変えていた、そのイヤーカフを失くしていた事にずっと気が付かず、ジルベルトは己の失態に憤りを感じていた。

 その事を、父親である国王に包み隠さず報告をする。

 王族にとって、自分の命の次に大切なものとも言われる、守護石を埋め込んでいた聖剣を失くした事に、叱責はされたが、この数日ジルベルトがイヤーカフを身に付けていない事に、国王自身も気が付かなかった事もあり、早急にこの事態を明らかにしなければならないとも言われた。

 守護石について知っている者は僅かで、さらに普段はイヤーカフとして身に付けている事を知るのは、自分の他に国王、そして弟のアルフレッドだけであったとジルベルトは考える。

 ジルベルトの頭の中は疑心暗鬼で一杯であった。


(イヤーカフが聖剣であると、何故()()は知っていたのだろうか……

 この一件に何か関わっているのか?

 ………いや……そうなら、自分が持っている兄弟石を私に渡したりはしないだろう……

 ()()の私が伝えたのか?

 こんな、大事な事を?)


 ぐるぐると執務室で考えているジルベルトに、その場に居たアランは声を掛ける。


「そんな顔をして、どうした?」


「あ……、いや……」


(アランにこの事を伝えるべきか……

 父上は、伝えて構わないとは言ったが……)


「アラン……実はだな…………」


 ジルベルトは、悩んだ末にこの事をアランに伝える事にした。

 ジルベルトの言葉に、アランは呆然とし、そしてそれは訝しげな表情に変わっていった。


「俺も気が付かなかった……

 何だ……この状況は……!?」


 アランの返しにジルベルトは驚く。


「アラン、お前もイヤーカフが聖剣だと知っていたのか?」


「ああ、以前にお前から教えてもらった

 だけど、陛下やアル以外に知ってるのは俺とレティシアだけだ

 レティシアが、以前隣国の王子から付きまとわれていた時に聞いている」


「隣国の王子……?」


「それは、一先ず終わっている話しであるから、今のお前が覚えていなくとも、今のところ問題はない

 それよりも、今の状況をどうにかしなければならないだろう!?」


「そうだな……

 彼女と、昨日たまたま鉢合わせた時に、イヤーカフが失くなっている事に気が付いたんだ

 それで……彼女に私が渡したという守護石を、彼女は私に返してきた……」


「それは、当たり前の行動だろう?

 王族が守護石を持っていない事はまずい事であるし、その事をあいつも理解しているから、お前に守護石の兄弟石を返したのだと思う」


「………私は失態ばかりだな……

 彼女は、真摯に私へ接してくれているのに、疑ってばかりいる自分に嫌気がさす

 お前が腹を立てるのも当然だ……

 この、自分の意思とは関係なく操られているような感覚が、気味が悪い……」


 ジルベルトが溢した弱音に、アランは彼を見据えた。


「で?

 お前はこのまま、この得たいの知れないような見えない敵の事を、見ないふりをするのか?」


 アランの言葉に、ジルベルトの纏う空気がピリッと鋭くなった。


「するわけがないだろう?

 私はやられてばかりいる事は、非常に腹が立つんだ……

 この事を含めて、私自身に起きた事全て、絶対に許しはしない……」





 ◇*◇*◇*◇*◇


 ジルベルトがレティシアの記憶を失い、聖剣までも行方がわからない。

 しかし、未だに手掛かりになる事がわからず、この一件を調べている者達は霧の中を歩いているような感覚であった。


 ジルベルトの守護石が失くなっている事に気が付いた次の日、学園の端にあるガゼボでため息を落としていたレティシアに近付く者がいた。


「大丈夫か?」


「アル……」


「兄上から聞いたよイヤーカフの事

 俺も気が付かなくて……その事が不気味に感じる」


「うん……私もお兄様も気が付かなかった……

 ただのイヤーカフであるなら、それも理解できるけど、私達はあのイヤーカフの本当の姿を知っているのにもかかわらず、ジルの耳にイヤーカフがついていない事に気が付かないなんて……

 あまりに不自然で……」


「兄上があんな状態になって、皆それどころでなかったともいえるけど

 守護石の力を俺も追おうとしても、何かに阻まれるんだ……」


「ジルの記憶と、イヤーカフって……

 もしかして関係があるのかな?」


「有り得ない話じゃない……」


「アルの力があっても追いきれないって、相手は物凄い力の持ち主なの……?」


「力が高いというより、力の使い方が上手いのかもしれない

 この件も気になるけど、お前は大丈夫なのか?」


 心配そうに自分を見詰めるアルフレッドに、レティシアは笑みを浮かべた。


「昨日ね、ジルが私の事を忘れてしまってから、少しだけだけどジルとちゃんと向き合って話をする事が出来たの

 ジルも、今の現状に苦しんでいるのに、私は自分ばかり辛い思いをしてるって、心の奥で考えていた事を自覚して、自己中心的な考えに恥ずかしくなった」


「そんなの、そう考えるのが普通だろう?

 こんな時に、相手の事を優先になんて考えられないよ」


「うん……でも私って、ジルに物凄く依存していたんだなって考えさせられたの

 昔から、何か自分に悲しい事や辛い事があると、いつもジルが助けてくれて、優しい声を掛けてくれた

 それが、当たり前だと思っていたのかもしれないって……

 初めてジルから突き放された事に、私は不貞腐れていたのかもしれない……

 私が一番現実をしっかりと見て、ジルの事を信じて向き合わなければいけなかったのにね」


「レティ……」


 今にも泣き出しそうにあるのに、レティシアが涙を溢す事を我慢している事に気が付いたアルフレッドは、様々な感情で一杯になった。


 そんな、レティシアとアルフレッドの姿を、ジルベルトは生徒会室の窓から偶然目にする。

 そのジルベルトの背後から声が聴こえた。


「アルフレッド様とレティシアさんは、本当に仲がよろしいのですね」


「マリアベル王女……」


「ジルベルト様が、窓の外をご覧になられたまま、ずっと微動だにされないから心配になりましたの」


 ジルベルトは、彼女の誘いのまま他の生徒達の目がある食堂で、マリアベル達と連日に渡って食事を共にするのはどうかと思い、自分と共に食事を取りたい時は生徒会室でとることを提案したのだ。


 生徒会室には、マリアベルとカーティス、クララ、そしてアランも同席していたが、アランは席を外していた。


 窓の外の様子に気が付いたジルベルトが、レティシアとアルフレッドの事を見ている時に、マリアベルが声を掛けたのだ。


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