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第31話 守護石

 王城の端にある、樹木に囲まれた池。

 そこは、レティシアとジルベルトの思い出深い場所であるのと同時に、王族しか立ち入る事の出来ない場所でもあった。

 レティシアは幼い頃に、ジルベルトが頼んだ事もあって国王から許しが出ており、その場所は他の者の目もない事から、緊張感を緩める事が出来るので、昔からよく訪れていた。

 それはジルベルトも同じで、二人ともその場で穏やかな時間を幼い頃からずっと過ごしていたのだ。

 ジルベルトが自分の記憶だけを失くした後も、レティシアはそこへ足を運んでいた。

 辛い現状への自分の感情を、少しでも落ち着かせる為であった。


 今日も、王妃教育の合間にレティシアが池の畔でぼんやりとしていると、カサリと草を踏む音に振り返る。

 そこにいたのはジルベルトであった。

 王族しか立ち入れない場所にレティシアが居た事に、ジルベルトは表情を固くする。


「君がどうして、ここに……?」


 ジルベルトの言葉に、彼はここで自分と過ごした大切な思い出も失くしてしまっているのだと、レティシアの胸に痛みが走った。


「…………っ……殿下がこちらにいらっしゃるとは思わず……

 申し訳ありません……」


「そうではなくて、ここは王族しか立ち入れないはずだが……?」


 レティシアは、ジルベルトのその言葉に顔を歪める。

 本当に、自分の事に関する事は何も覚えていないのだと、さらに突き付けられたように感じたのだ。


「……わたくしが幼い頃に、陛下がここに立ち入るお許しをくださったので、そのお言葉に今まで甘えておりました……

 殿下が、良しとされないのであれば、そのお言葉に従います

 申し訳ありません……」


 レティシアが頭を下げてそこから立ち去ろうとするのを、ジルベルトは思わず彼女の手を掴み、止めた。

 そのジルベルトの行動に、今まで自分に対して距離をとっていたのに何故?と、レティシアは驚く。


「……殿下……?」


「あ……、いや……、すまない……急に掴んでしまい……」


 ジルベルトは、咄嗟に掴んだ手を離すと、気まずそうに視線を反らした。


「いえ……」


「父上が許可しているのなら、いいんだ

 気にせず今まで通り、ここに足を運んで構わない

 君がここを知っている事も、よく訪れている事も私は覚えていなく……

 あのように、咎めるような口調になってすまない……

 私だけでなく、君だってこの状況に戸惑っているのに、君の気持ちを考えようと私はしていなかった……」


 レティシアは、ジルベルトなりに今の状況の中、全く覚えていない自分の事を受け入れようとしてくれているのだと、ジルベルトの表情から察する。

 ジルベルトが、令嬢に対して上辺でしか関わらない理由をアランから聞いて知っていた彼女は、覚えていない自分の事を受け入れる事は、彼にとっては至難であるのかもしれないとも思い始めていたのだ。

 そんな、ジルベルトの内情を漸く受け入れたレティシアは、自分だけが悲劇のヒロインのように感じていた事を恥じた。

 そして、自分が傷付きたくないが故に、頑なにレティシア自身も今のジルベルトから距離を取ろうとしていた感情が和らぐ。


「殿下が悪い訳ではないのですから、そのようにわたくしに謝らないでください」


 ジルベルトは、柔らかな笑みを浮かべたレティシアの表情を見た瞬間、何か大切なものが自分から抜け落ちているような感覚を一瞬覚えた。

 そして、アランの言葉が頭の中で木霊する。



『お前は、人の意見に左右されない質だと思っていたのに、何故レティシアの事は自分から知ろうとしない?』



(何故、私はここまで覚えていなかった彼女の事を知ろうと、自分から動かなかった?

 まるで、私自らが知ろうとする事を、敢えてさせないように、妨害するような不自然さ……)


 突然、黙り込んだジルベルトにレティシアは首を傾げる。


「殿下……?

 どうされたのですか?」


 ───そう呼ばれたくはない……


「………っ!?」


 レティシアの言葉に反応するかのように、自分の頭の中に一瞬過る感情にジルベルトは狼狽える。


(何……だ……?

 この、気持ち悪い感覚は……?)


 わからない感覚に俯いたジルベルトは、レティシアの指に光る指輪が目に入った。

 その指輪にはめられている石に目を疑う。


「それは……?」


「え……?」


「君のその指輪は……?」


 レティシアはジルベルトの視線の先の、自分の指にはまっている指輪に気が付き胸の前に手をあげる。


「これは、殿下が婚約式の時、わたくしにくださった指輪ですが……」


「その指輪の石……」


(この石は、私の守護石の兄弟石だ

 婚約式で王族が相手に指輪を贈る事は、この王国の習わしだ

 婚約が決まった相手に兄弟石を贈る事は慣例となっているが、この兄弟石を贈るのは生涯一人とする者にしか贈らないもので、成婚式でもないのに、()()()が贈ったというのか?

 どんな欲を抱えて、自分の傍に近付いてくるのかわからない女には、婚約の段階で贈るのは有り得ないと私は思って──

 本当に私はそう思っていたのか……?

 何だ? 何なんだ? この相反する感覚は……)


「……君は、その石の事を知っているのか……?」


 動揺しているジルベルトの問いに、レティシアは戸惑う。


「あの……殿下が教えてくださった事柄は存じております……

 王族に与えられる守護石の兄弟石であると……

 そして、お互いの身に何かがあれば反応すると──」


 その時、レティシアは違和感に気が付く。

 ジルベルトが倒れた時、自分の指輪の石は何も反応しなかったと……

 レティシアの言葉にジルベルトは自分の耳に手をあてた。

 そこにあるはずのイヤーカフが指に触れなかった事に、ゾワリと血の気がひく。

 普段、自身の聖剣を持ち歩く事は不便な事も多いので、聖剣をイヤーカフに姿を変えてジルベルトは身につけていた。

 しかし、そのイヤーカフがない事に今まで気が付かなかった、己の愚かさを呪う。

 ジルベルトのイヤーカフが無い事に気が付いたレティシアは、自分の指から指輪を抜き取ると、ジルベルトの前に差し出した。


「え……?」


「このような不測の事態の為に、もう一つの兄弟石があると教えて頂いております

 ですから、殿下はこちらをお持ちになられてください

 わたくしも、殿下のイヤーカフ……聖剣を探します

 それまで、殿下が守護石を身に付けていない事はあってはいけません

 ですから、こちらを身に付けていてください」


「だが……」


 ふわりと笑みを浮かべたレティシアに、ジルベルトの心臓はトクリと音が鳴った。


「やっと少しでも、今の殿下にもお役にたつ事が出来そうで、良かったです」


「………っ……」


 ジルベルトは、この胸の温かさに覚えがあったが、それがどうしても思い出せなかった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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