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第29話 孤児院訪問の理由

 王城のジルベルトの執務室では、ジルベルトとアランの二人が執務に追われている中、マリアベルから茶会の誘いがあった。


「毎日、お前を茶会に誘って王女殿下は何を考えて居るのだろうな?

 その誘いに対して、せっせとその場に通う者もいるようだが、先日あの国を切るって言っていながら、俺には理解ができないよ」


 そんな、棘の含む言葉をアランがジルベルトへぶつけた理由は、ジルベルトの態度だけでなく、周囲に広がる噂にも苛立ちを感じていたからだ。

 ジルベルトは、タメ息を一つ溢してから、誘いの話を伝えにきた侍従へ返事を返す。


「王女には、執務が落ち着けば顔だけ出すと伝えておいてくれ」


「はい、畏まりました」


 ジルベルトは自分の身に起きた一件から、アランとの関係にも溝が出来つつあった。

 アランも、ジルベルト自身がレティシアの事を忘れたくて、記憶を失くした訳でない事はわかっているが、感情が先に出てしまう事が止められないでいる。

 そんなアランを、ジルベルトは何も言わずに受け止めていた。

 そんな時、ジルベルトの頭に先日からずっと気になっていた事がふと思い浮かぶ。アランへ、先日見たレティシアの孤児院での事を聞いてみる事にした。


「……アランは、レティシア嬢が孤児院へ足を運んでいる事を知っているのか?」


 ジルベルトの問いにアランは、ジルベルトへ視線を向ける。


「どうして、お前がそれを知っている?」


「先日、視察で城下街へ行った時に、視察が早めに終わった事もあって、近くの孤児院を訪問したんだ

 その時、彼女がその孤児院に来ていた」


「……レティが、孤児院へ足を運ぶようになったのは、あいつがまだお前の婚約者候補だった時に、各候補の令嬢が妃としての資質があるのかを視る為の視察同行で、お前の視察に同行した時からだ

 レティが孤児院へ足を運んでいる事は、()()()お前も知らない

 あいつは、お前にはずっと秘密にしていたからな」


 アランの言葉にジルベルトは、レティシアを忘れる前の自分でも彼女について知らない事があったのかと、何故だか安堵した。


「彼女の同行先は、何処だったんだ?」


「城下街にあるスラム街だよ」


「え……スラム街?

 貴族の令嬢に?」


「宰相の娘という事だけでなく、お前の幼馴染みでもあるから優遇されていると、周囲のやっかみも入っていたんだろうな

 そういう場に行けば取り乱して失態をおかしたり、行くのが嫌だと言わせて、レティには妃の資質がないとさせたかったのだろう?

 初め、その同行先の決定にお前も苦言を言っていたが、この国の実状をレティにも見せておきたいと、結局同行先を変えなかった

 それまで、そんな国の影の部分を見た事がなかったレティにとっては、スラム街を目にした事は酷くショックだったようだ」


「それは、貴族の令嬢にとっては、嫌悪感が多かった事だと思う

 何故、私は彼女をそんな同行先へ──」


「違うぞ」


「え……?」


 レティシアがそんな暗く汚い場所へ行って、嫌悪感を感じたのだろうとジルベルトは思い、自分の力の無さでそのような所へ彼女を連れて行った事を悔いた時、アランはその考えを否定する。


「レティシアは、スラム街が汚く、足を踏み入れたくなかったからショックを受けた訳じゃない

 あいつの性質を勘違いしないで欲しい

 甘やかされた、お高くとまっているようなその辺の令嬢と、俺の妹を同列に考えるな

 今のお前は、そんな俺の言葉も身内の贔屓目だと思うかもしれないが、()()()お前は、そんな事を言われなくてもレティシアの事を理解していたから、スラム街へ同行させたんだろう?」


 アランの言葉に、ジルベルトは何も言えなかった。


「レティシアがスラム街を見てショックを受けたのは、あのような場で苦しむ民がいる事を知らずに、自分は暖かで、綺麗な場所の恵まれた中でのんびりと暮らしていたという、落差にショックを受けたんだ

 お前が、スラム街を同行先にした事には不満など持たず、逆に感謝していた

 その時から、自分に出来る事をしたいと言って、両親や俺は止めたけど、孤児院へ足を運ぶようになったんだ

 それは、多くの貴族が行っている偽善的な形だけの訪問じゃない

 お前がどこまで見たのかわからないが、レティシアなりに自分でやれることはと、考えて空いている時間を孤児院への訪問に費やしている

 自分で行ける一部の場所しか行けないと、悔しそうにはしていたけどな」


「彼女の持っているという、治癒魔力であの場にいる者を癒していたのも、いつもの事だと言うのか?」


「魔力を使いすぎるなとは、言い聞かせているけど、レティシアは無理しながら、あいつの力を求めて来る市井の民の事を治癒している

 元々、治癒の魔力を持ち合わせている者は国内でも少ないし、市井でその力の恩恵を得るには高額の金が必要だ

 だけど、レティはそれを無償で行っているから、あいつが院を訪問する事がわかると、列が出来てしまうんだ

 力を使いすぎてしまえば、体力だってなくなると言うのに、あいつは言うことをきかない

 だから、お前には内緒にして欲しいと頼まれていたんだ」


「何故?」


()()()お前なら、その事を絶対に止めようとしたからだ」


「私が止めようと……?

 称賛される行動だというのに、何故……?」


「レティシアのもう一つの力を知ってから、その力とは関係ない治癒魔力ですらレティシアが使う事をお前は危惧したからだ

『レティの身体が壊れるおそれがあることは、認められない』と言ってな」


「もう一つの力……?」


 アランは、その言葉を呟いたジルベルトへ鋭い視線を向けた。


「レティシアのもう一つの力の事は、()()お前には絶対に教えない」


「え……?」


「俺がうっかり口に出してしまった事が悪いが、それ以上はお前がレティシアの事を思い出すまでは絶対に言わない

 万が一、陛下がレティシアのもう一つの力の事を()()お前に言ってしまってお前が知ったとしたら、周知されたものだとしてもレティシアとお前の婚約は白紙に戻してやる!」


 アランの形相が変わった事に、ジルベルトは戸惑う。


「何を……

 それに、私が聞いた彼女に対しての評価が、人によって違いが大きすぎて、彼女の事がよくわかないんだ」


 そんなジルベルトの言葉は、アランの感情を逆撫でする。


「そんな事は当たり前の事だろう!?

 レティシアに対してやっかみを持っている奴が、あいつの良い評価を言うと思うのか!?

 お前は、人の意見に左右されない質だと思っていたのに、何故レティシアの事は自分から知ろうとしない?

 俺はお前のその態度が、レティシアを忘れた事以上に気に入らないんだよ!」


「それは……」


 ジルベルトが表情を曇らせた事に、アランは大きなタメ息をつく。


「お前が、女に対して懐疑的になる理由は知っている

 覚えていないレティシアに対して、そういう目で見てしまう事も理解しようとは思うが、感情的になったら駄目だとわかっていても、レティシアに対してもそういう目で見ているお前が、俺は許せないんだ

 昔の俺との約束まで、お前に反故にされている気がしてならない!」


 アランの言葉に、ジルベルトは顔を歪ませた。



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