第24話 暗雲
王妃教育を終えた後、レティシアはジルベルトから帰りに執務室に寄って欲しいと言われていた事もあり、ジルベルトの執務室へ向かっていた。
その途中の廊下で、アルフレッドと鉢合わせる。
「アル……」
アルフレッドは視線を逸らし、レティシアの横を通り過ぎようとした時、レティシアはアルフレッドとこのままの状況ではもういたくないと強く思い、アルフレッドの事を呼び止めた。
「あ……で、殿下っ!
あの、少しお待ちくださいっ!」
レティシアの声に足を止めたアルフレッドは、小さく息を一つ吐く。
「……なに?」
何時もよりも彼の低い声の返しに、レティシアはビクリと身体を強張らせるが、気を強く持ち彼へ自分の気持ちを伝えようとした。
「あの……少しお話したい事があるのです……
ほんの少しでも構いませんから、お時間を頂けませんか?」
自分の事を真っ直ぐ見詰めるレティシアに、アルフレッドは心がぐっと掴まれたような気持ちになる。
「レティ……」
そんな二人の空気を変えたのは、二人の名前を呼ぶ声だった。
「アルっ!レティ!」
二人が、その声のする方へ顔を向けると、珍しく焦った表情のアランの姿があった。
「お兄様……?」
「アラン、どうしたんだ?」
「今から、俺と一緒に来てくれ!」
そのように二人へ伝えたアランは、その後無言で歩き何処かへ向かう。
その後ろを、レティシアとアルフレッドはついていくが、何処へ向かっているのか、何が起こっているのか、アランは何も話そうとしなかった。
「おい、アラン! 何処へ行くんだよ!?」
「ここでは詳しく話せない、今向かっている場所についてから話す」
レティシアの心の中は、不安でいっぱいになっていく。
いつも、落ち着いている兄のアランの様子が違うこと。
その訳を、どうしてか教えてくれない事。
そして、今向かっている場所は、通常では王族の身分でなければ入る事の出来ない場所へ、向かっているように思えたからだ。
(お兄様のこの様子、いつもなら考えられない
それに、この先は……)
アルフレッドも同じように思ったようで、アランへ問う。
「アラン、この先は王族の居住区だぞ!?
どうして、そこへ向かうんだ?」
アランは、アルフレッドの問いに何も答えず、王族の居住区の前で護衛についている騎士に伝える。
「陛下から、この先へ足を踏み入れる事の許しは得ている」
「は、はい!
先程、そう伺いましたので、お入りください」
レティシアは、簡単に王族でない兄や自分が、この場所に立ち入る事が許された状況に、さらに不安が募った。
(何が起こっているの?
嫌な予感しかしない……
だけど、こんな予感……当たってほしくない……)
アランが向かっている一つの部屋の前には、人払いされたのか、本来、居るはずの近衛騎士の姿がなかった。
アランが向かっているその部屋が、誰の部屋なのかわかったアルフレッドの表情が変わった事と、アランのいつもと違う様子に、レティシアの心臓は痛いくらい大きく鳴り響く。
そして、部屋の前にたどり着いた時、漸くアランは口を開いた。
「中には、既に陛下が来られていると思うから、先に伝えておく」
───ドクン……
(何が起こってるの……?)
「父上が来ているって……
アラン、ここは兄上の私室だろう?」
───ドクン……
(やめて……)
「そうだ」
───ドクン……
(やだ……)
アランがその部屋の扉を開き、一歩ずつ足を進める度、レティシアの心臓の音が大きく響く。
そして、その状況をしっかり認識した瞬間、レティシアは息を呑んだ。
───ドクンッ……
部屋の奥にある、大きな寝台の傍に居る国王の姿も自分の父親である宰相の姿も、レティシアの目には入らない。
目に写ったのは、寝台に横たわる顔色の悪いジルベルトの姿だった。
「ジ……ル……?」
「兄上……?」
それは、アルフレッドも同じだったようで、二人とも何が起きているのか、なかなか理解が追い付いてこなかった。
初めに、我に返ったのはアルフレッドであり、アランを問い詰める。
「兄上に何があったんだ!?
何が、起こった!?」
「執務室で倒れていたんだ
その時、俺はたまたま居合わせていなくて、ジルに何が起こったのかわからない
俺が執務室に入った時には、ジルと護衛の近衛騎士が倒れていた
だが、二人とも呼吸音等は正常であり、一見すると眠っているようにも見えた
だが、何が起こっているのかわからず、隠し通路からここまで運んで、内密に陛下や侍医等を呼んだんだ」
「その場で侍医を呼ばなかったのか!?
何故!?」
そのアルフレッドの問いに、傍にいた国王が口を開いた。
「アランの行動は、側近としては正しい
あまり大事にして、このような状況を多くの者へ知れ渡らせる事は、我々の立場上あまり良い事ではないのだ
それこそ、謀反等を考えている者に知られれば、良くない方向へ向きかねない
その場で命に関わる事でない事が確認できたのなら、そのように動けと側近になる者には命じている事だ
侍医の見立ても、現状ジルベルトはただ眠っているだけとの事だ」
「眠っているだけって……」
アルフレッドの頭には、先日起こったばかりの事が思い浮かぶ。
そんなアルフレッドの表情に、国王は頷くとレティシアへ目を向けた。
「そうだ、お前の目の前でレティシアが倒れた、先日の状況と似ているのだよ」
動揺していたレティシアは、国王の言葉に我に返り、膝を折ろうとすると、それを国王は止めた。
「レティシア、今は我々しかいないから、そのように膝を折らなくとも良い
そなたは、こんな時にジルベルト自身が誰よりも傍に居て欲しい存在であると、私は思ったからアランに連れてきて貰ったのだ」
「陛下……」
「父上は、レティと同じ要因で兄上も倒れたと考えているんですか?」
「はっきりそうだとは言いきれないが、今のジルベルトの様子を見る限り、その要因が一番近いのではと、私も宰相も考えている」
アランは、国王の言葉に付け足すように言った。
「アルもそうだと思うが、ジルも一通り毒物や薬物に対しての耐性はつけてきているし、執務室に置いてあったジルが口にしたと思う、お茶や茶器からもその類いは検出されなかった
今日も、マリアベル王女の茶会に顔は出したようだが、席にも座らず挨拶だけして城内へ戻ったと、茶会の配膳をしていた侍女からは確認が取れている
それらを考えると、毒物や薬物の可能性は低い
それならば、魔術と考える方が確かかとは思うが、魔術制限のかかっている王城内で魔術を使えば、魔術師団にその事が伝わる
だが、その異変も確認がとれていない
その事全てが、レティシアの時と同じなんだよ
しかし、レティシアの時とは状況が違う
もし、何者かが故意にこのような事を起こしたのなら、これは謀反にもあたる」
アランの言葉に、訝しげな表情をアルフレッドは浮かべた。
その時、レティシアはポツリと呟く。
「ジル……最近とても疲れている表情をしていて……
それは原因ではないの?」
「そうだな、侍医が言うには過労も大きいとは言ってはいたが、それだとすると、護衛騎士まで倒れていた事に説明がつかない」
レティシアは寝台の横に膝をつくと、小さく震える手でジルベルトの手をギュッと握る。
いつもよりも冷たい彼の手に、よりいっそう胸が苦しくなった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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◇作者の呟き◇
ネタバレではないとは思いますが……
少し呟きたく……
しかし、こんなネタバレに繋がる呟きはいらないっていう方はバックしてください(((・・;)
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サブタイトルの通り、この回から暗雲がかかり、話の内容が一気にシリアスモードに突入する予定であります。
そして、伏線も色々と張っている所でありますので、鬱な内容が苦手な方はお気をつけください……
それでも、一ノ瀬はハッピーエンドが大好きです!




