第23話 王妃教育
ジルベルトの言葉に、柔らかな笑みをレティシアは彼へ向ける。
「危機って程じゃ、なかったけれど……」
「でも、彼に嫌悪感は抱いただろう?
でなければ、私の石が反応しないよ」
「うん……少し……」
「だから、生徒会の仕事はアランに任せて、私は愛しの姫の元へ駆け付けたのだよ」
おどけて、そんな事を言うジルベルトに、先程までのピリピリとした殺気がジルベルトから消えたようで、レティシアはホッとした。
しかし、ジルベルトの表情を見て、レティシアは不安気な表情を浮かべる。
そして、ジルベルトの両頬に手を添えた。
「レティ?」
その瞬間、フワリとした温かさに包まれ、ジルベルトは目を見張る。
「疲れがたまっているのにごめんね
だけど、ありがとう
これは、気休めでしかないかもしれないけれど……」
「今……」
「癒しの力の方よ
だから、心配しないで
それに、そんなに強い作用ではないから気休めでしかないけど、それでも、ジルの疲れた表情が心配だったの」
「レティ……」
レティシアには、二つの魔力があった。
一つは、治癒能力。
今ジルベルトへ使った力で、怪我や病状を完全に治す事までは出来ないが、症状を軽くさせる事の出来る力であった。
そして、もう一つの力は公にはしていなく、知る者もごく限られている力である。
その力をレティシアが持っている事がわかったのは、偶然であり、そしてその事を知った、レティシアを大切にしている彼女の家族は、彼女の身の安全を危惧した。
その力というのは、レティシアが強く願うと、その相手の能力全てを増強させる事の出来る作用のある力であった。
しかし、その力を使うと彼女の身体に反動による負荷が多大にかかり、彼女の命を脅かし兼ねなかった。
そのような力は、政治利用される危険性もあり、国外は勿論、国内の身内ですら内密にされ、知っているのはレティシアの両親と兄のアラン、国王、そしてジルベルトだけであった。
「無理……しているのよね?」
ジルベルトは、自分の頬に触れるレティシアの手に、自分の手を重ねた。
「君には、本当に敵わないな……」
レティシアの手をそのまま握り、手のひらに唇を寄せる。
ジルベルトの唇の熱を手のひらに感じ、レティシアはピクリと身体を揺らした。
「ジルに執務の他に、私の事でも負担を掛けてしまっているから……」
「………アルの事かい?」
「………………」
レティシアは俯く。
「レティのせいではないよ
私も、そしてアルも、この事に直面する事を避けたくて後回しにしていたんだ
しかし、何時かはそれを解決しなければいけなくて、それが、今であるって事なのだからね」
「………私、……アルの気持ちにずっと気が付かなくて……
もっと、私が相手の気持ちに敏感だったら、こんな複雑な状況になっていなかったんじゃないかって、思って……」
「レティが気が付かなかったその責任は、私にもアルにもあるんだよ」
「どうして?」
「今は言わない」
ジルベルトは、レティシアの問いに彼女を抱き締めると言葉を返した。
「え……?」
「少し、私も感情的になりすぎていて、そのようにアルに接してしまっているんだ……
だから、君のその質問の答えは、冷静に二人で話をしてからでもいい?
アルの事は、私にとって可愛い弟ではあるけれど、それ以上に脅威的な存在なんだ
だから、情けないが私も余裕がなくて、そういう態度をアルへとってしまった
君のことは、アルであっても絶対に奪われたくはないんだよ」
ジルベルトの言葉に、驚いたような表情を向けるレティシアへ、彼は言葉を続ける。
「どうして、そんな驚いたような顔をしているの?」
「だって……、ジルが余裕がないって……」
「いつでも、私が余裕があると思ってたの?」
レティシアは、コクリと頷く。
「以前も伝えた事があるだろう?
君の事に関しては、余裕なんて全くないんだ
だけど、君の前では格好つけたくて、大人ぶっている
それでも、時折君には情けない姿を晒してしまう
私も、君の事が好きすぎる、ただの男なんだよ」
ジルベルトの吐露した言葉に、レティシアは抱き締められている体勢のまま彼の背に腕を回した。
「どんなジルも、私にとっては格好良くて大好きよ……
ジルの事を不安にさせて、ごめんね
もっと、私もしっかりするから」
レティシアの言葉が、ジルベルトはとても嬉しく抱き締めている腕に力を入れる。
「レティ、ありがとう
君の力と言葉のおかげで、疲れなんて吹き飛んでしまったよ」
レティシアは、ジルベルトの自分へ向けてくれる想いを強く感じ、今の現状に狼狽えるだけでなく、もっとしっかりと自分自身強くあろうと思った。
◇*◇*◇
王城で何時ものように様々な講師から、レティシアは王妃教育を受けていた。
今日の講義は、古くから後宮で女官を務めている女官長からのものであった。
「レティシア様、本日は側妃制度について、再確認も含めた事に関してでございます」
「はい、宜しくお願いします」
「レティシア様も一通り学ばれて、既にご存知ではあると思いますが、オーガストラ王国は、基本は一夫一妻制ではあります
ですが、王族には側妃をもうける事の出来る規定がございます
その理由は、もうご存知ですよね?
後継者問題を安定させる為、そしてこの場ですから包み隠さず申し上げますが、派閥の安定を保つ為にございます」
「はい、学ばせて頂いた事ですので、理解しています」
「レティシア様は、あの宰相殿のご息女でありますから、身分的にも後ろだて的にも心配はしておりません
ですが、歴史的に振り返りましたら、この国でも後宮内での妃殿下方による争いは存在しておりました
歴代の陛下からの寵愛への、嫉妬
王位継承権を、我が子へという考えから相手を失墜させたり、暗殺等その理由は様々ですが、お世辞にも綺麗で穏やかであったとはいえない、後宮の内情があります
そして、その側妃達が住まう後宮を全て管理するのが、王妃になる正妃の仕事でもあります」
「はい……」
「王城で王族方に仕えている我々古参の者は、王太子殿下のレティシア様への寵愛はようく知っておりますが、それでも、既に側妃候補が居られる事は、ご存知でありますよね?」
「ええ……」
「この国のご令嬢としてお育ちになられたレティシア様が、王太子殿下へ嫁がれるという事は、派閥的にもどのような形になられるかは、まだわかりませんが、何れかは貴族派に属するご令嬢が、側妃として後宮に上がられると思います
後宮の争いがどうなるのかは、ご正妃になられるレティシア様のご手腕にかかられておりますこと、しっかりと覚えておいて頂きたいと思います」
「……………」
レティシアは、毎日のように王妃教育を受けている日々で、側妃問題についての話を度々聞かされる度、何とも言えない気持ちになった。
目の前のそのような状況から、逃げ出さずに立ち向かえる力をどうしたら培えるのか、藁にもすがりたい気持ちであった。
レティシアの脳裏に浮かぶのは、クララの存在。
先程のマリアベルの言葉からも、今クララはきっとジルベルトと話をしているのかもしれないと思うと、暗く淀む自分の感情を持て余していた。
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