第22話 指輪
マリアベルのお茶会で、レティシアが意識を失った一件から数日がたった頃、レティシアにとって複雑な変化があった。
それは、学園でアルフレッドが、今までのようにレティシアに関わる事がなくなった事だった。
その変化は、もちろん王城でも同じで、あの一件の後に公爵邸をアルフレッドが訪れた後から、レティシアとアルフレッドは必要最低限の事柄しか関わる事がなくなっていた。
そんな変化に、レティシアは胸を痛めていたが、かといって、この複雑な状況をどうする事も出来ないでいた。
この日も、レティシアは学園が終わった後、王城での王妃教育の講義があり早めに学園を出ようとしていた。
レティシアが帰りの準備をしていると、後ろの席のアルフレッドはレティシアに声も掛けず、彼女の横を無言で通り過ぎた事に、彼女の胸はズキリと痛む。
何故、こうなってしまったのかと、複雑な表情のまま、レティシアも自分の席を立った。
馬車寄せへ向かっている時に、そんなレティシアを呼び止める声が廊下に響く。
「レティシア嬢
今からお帰りですか?」
「カーティス様……」
「今日、これから王城で、マリアと一緒にお茶会でもどうですか?」
「えっ……?
あ、わたくし……今日は……」
「ああ、先日の一件を心配しているのかな?
それなら、結局何も異変はなかったのだよね?
僕達も、特に気にはしていないから大丈夫だよ
もう、体調は良いのだよね?」
「え、あ……、体調は特に問題はないのですが……
今日は……」
「だったら、いいよね?
マリアも待ってるし、一緒に行こうか」
「あのっ!」
躊躇しているレティシアの話を殆ど聞こうともせず、カーティスは強引に彼女の手を取ると歩き出した。
無理やりに近い形で手を取られたレティシアは、戸惑い、そしてカーティスが触れている手に不快感を感じる。
馬車寄せが見えてきて、カーティスに引っ張られたままのレティシアは断ろうと、口を開いた。
「あのっ! カーティス様──」
その瞬間、レティシア達に影が射すと、その存在はカーティスの腕を取りレティシアを奪うように抱きしめた。
「君には、レティシアは私の大切な婚約者だと、以前も言ったと思うが?」
「ジル……」
その存在はジルベルトで、突然の事にレティシアは思わず愛称で彼の名前を呼んでしまう。
カーティスは腕をジルベルトに掴まれ、痛みで顔を歪めた。
暫く、射抜くような視線をカーティスへ向けていたジルベルトはカーティスの腕から手を離すと、レティシアを自分の腕の中に隠すように抱き締める。
そして、低い声で言葉を続けた。
「誰の許しがあって、彼女に触れた?」
「殿下、ただ僕は、マリアのお茶会へレティシア嬢を誘っただけでありますよ?」
「レティシアは、今日は城で王妃教育の講義があるから、それは無理だ
王女には、そう伝えておけ」
「まあ、今日も講義があるのね」
ジルベルトのその言葉に、後ろから聞こえたのはマリアベルの言葉であった。
「マリアベル王女
このような、急な誘いは予定がある者もいるので、難しい事があることも、理解してもらいたい」
「それは、仕方がないわ
それに、わたくしは無理にお誘いしている訳では、ないですもの
カートがレティシアさんの調子を気にしていたから、お誘いしたらどうかと言っただけですわ
レティシアさん、急にごめんなさいね
それなら、レティシアさんの変わりに、ジルベルト様が参加してくださるかしら?」
「それは……」
「それも、難しいのかしら?」
ジルベルトはため息を一つ溢すと、言葉を返した。
「少しの時間であれば、顔を出します
それで、満足ですか?」
「ええ!
それなら、クララさんもお誘いしようかしら
ねぇ? カート、いいと思わない?」
「マリアの意見には、僕は反対はしないよ」
そんな二人へ、冷たい視線を向けたジルベルトは、レティシアへ声を掛ける。
「このまま、私と一緒に城へ帰ろう」
「あの……、でも……」
ジルベルトからは「謝罪はいい」と言われたが、レティシアは戸惑いながらも、マリアベルへ頭を下げた。
「王女殿下、今日もせっかくの殿下のお誘いをお断りしてしまい、申し訳ありません」
そんなレティシアへ、マリアベルは笑みを向ける。
「レティシアさん、よろしいのよ
わたくしのお茶会よりも、大切な講義があるようなのですもの
でも、王太子妃になるなら、お勉強ばかりだけじゃ後で苦労する事になるかもしれないから、頑張ってくださいませね」
マリアベルのその言葉は、本人には深い意味はなかったのかもしれないが、レティシアにはグサリと突き刺さるような言葉であった。
優先しなければならない事柄の判断を誤るなと、言われたようにレティシアは捉えたからだ。
王城へ向かう為に、馬車が出立するとジルベルトは口を開く。
「レティ、さっきの王女の言葉は気にしなくていい」
「え……でも……、笑顔ではあったけれど、王女殿下は気を悪くされたのよね……?
だから、あんな言葉……」
「外交は大事ではあるが、彼女はいきすぎている
それに、ここで話す事でもないが、彼女のお茶会は、私は重要なものだとは思ってはいない
私も、今日は顔だけ出すだけで、席に座るつもりもない」
「大丈夫なの? そんな事をして、王女殿下の機嫌を損ねたら……」
「心配いらないよ
言葉は悪いが、どちらかというと、ゴマをすらなければならないのは、彼女の方であるんだ
国の力関係を考えたとしてもね
今まで、放任していたが、そろそろ目に余る
アルとの例の話もなくなる予定であるから、もうそこまで彼女を気にしなくていい
立場で言ったって、彼女とレティとでは、今は王女と公爵令嬢であるが、レティはただの公爵令嬢でないだろう?
国内外に周知している、正式な我が国の王太子の婚約者なのだからね」
「ごめんなさい……」
レティシアが謝った事に、ジルベルトは隣に座る彼女を抱き締めている手に力を込めた。
「どうして、謝るんだい?」
「今日だって、ジルは執務が沢山あったのでしょう?
私がちゃんと初めに自分で断れていたら、ジルの事を巻き込まないで済んだのに……」
「別に、巻き込まれたとは思ってないよ?
当然の事をしただけだよ」
「それに、どうして私が無理に誘われているのがわかったの?
生徒会のお仕事だって、あったのでしょう?」
レティシアのその言葉に、ジルベルトはレティシアの指を絡めながら手を持ち上げる。
「これの、おかげかな?」
「指輪?」
「そう、私達の石が君の危機を教えてくれたんだ」
レティシアの指にはまっている指輪は、ジルベルトから婚約した時に贈られた指輪であった。
婚約式の時に王族が相手へ指輪を贈る事は慣例であるが、ジルベルトはその指輪に埋め込む石を、公にはされていない王族に与えられる守護石の兄弟石を埋めて彼女へ贈っていた。
この石には、与えられた者の危機を、対の石を持つ者へ伝える力を持っている。
この兄弟石は、正妃になる唯一の者へ与えるものであった。
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