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第1話 朝の語らい

はじめましての方も、お久しぶりな方も、一ノ瀬葵と申します。

4作目となるお話を投稿開始いたしました!

今作は、3作目『まだ、恋を知らない妖精姫』の続編として作りました。

はじめましての方が、このお話だけを読んでも、わかるように執筆しているつもりですが……わかりにくかったら申し訳ありません。

設定の甘さなど、色々と目につく所もあるかと思いますが、広いお心で読んで頂けるとありがたいです。

このお話も、どうぞ宜しくお願い致します!

 澄みわたる青空が朝から広がるような爽やかな朝、オーガストラ王国内の数多ある貴族の一つである、ハーヴィル公爵家の屋敷に何時ものように豪奢な馬車が到着した。


 エントランスの扉が使用人によって開かれると、そこに姿を見せたのは、蜂蜜色の腰まである真っ直ぐなストレートヘアを風にフワリと揺らし、髪色と同じ色の長い睫に縁取られた大きな翠眼を持つ、妖精かと見間違えるかのような容姿の整った少女であった。

 少女の名は、レティシア·ハーヴィル。

 この王国の宰相を務める、ハーヴィル公爵の愛娘である。

 彼女がエントランスに現れるのを待ちわびたかのように、エントランス前に停まっていた馬車の扉が開くと、馬車から降りてきたのは、襟足が少し長めのプラチナブロンドが朝日によって煌めき、金色の瞳を持つ長身で容姿の整った青年であった。

 ジルベルト·オーガストラという名のこの青年は、この王国の第一王子で王太子の位についており、レティシアの婚約者でもある。


 ジルベルトは、穏やかな笑みをレティシアへ向け口を開いた。


「レティ、おはよう」


 甘さを含んだ声色のジルベルトの挨拶に、レティシアは柔らかな笑みを返す。


「おはよう、ジル」


 婚約者であるレティシアを毎朝迎えに来る事が、ジルベルトの日課となっていた。

 その訳は、十六歳になる年から十八歳になる年までオーガストラ王国では、王侯貴族の子息令嬢が通う事が決められている、王立学園へ通う為に、朝の時間を馬車内でレティシアと一緒に過ごす為だ。


「今朝も良い天気だね、朝日が降り注ぐ中にいる君の姿は、朝露を纏った薔薇も勝てないくらいに、美しくて眩しいよ」


 そんな甘さにお腹が一杯になりそうな言葉を、さらっと口にするジルベルトにレティシアは顔を赤くし俯く。

 そのような姿の彼女も愛らしいと、ジルベルトは目を細め、口元は弧を描き、レティシアの手を取ろうとした時、彼女の後ろにいる存在に気が付いた。

 その存在は、呆れた表情を浮かべ口を開く。


「朝からよく、そんな甘ったるい言葉がポンポンと出てくるな

 見せられているこっちが、朝から胸やけがしそうだ」


「アラン、居たのだね

 気が付かなかったよ」


「お前の目には、レティシアしか映らないようだからな」


「レティが目の前にいると、他のものが霞んで見えてしまうからね」


 レティシアの後ろで、ジルベルトと軽口をたたきながらやりとりしているのは、彼女の兄でジルベルトと同い年の公爵家嫡男であるアラン·ハーヴィルであった。

 アランはジルベルトと幼馴染みであり、幼い頃から親しくしている事もあってか、王族であるジルベルトに対してこのように気安く関わっている。

 レティシアは、何時ものようにジルベルトとアランが自分の事で言い合う様子や、彼と自分とのやり取りも合わせて、公爵家の使用人達から生暖かい目で見られている事に、何とも言えない気持ちになってきた。


「ジルもお兄様も、学園に遅れてしまってはいけないわ!

 それくらいにして、出発しましょうよ……」


 狼狽えながら、早く学園へ行こうと促すレティシアの手をジルベルトは取ると、チュッと手の甲へ口付けを落としながら笑みを彼女へ向けた。


「そうだね、私の愛しの妖精姫」


「なっ……!? ジ、ジルっ!!」






 公爵家を出発した王室の紋の入った馬車内では、レティシアの隣には何時ものようにジルベルトが腰を降ろし、レティシアの艶やかな髪の毛を、ジルベルトが梳いたりと触れながら、二人で会話を楽しむのが日常であった。

 初めは、そのようなジルベルトの距離が近い触れ合いに、戸惑いを隠せなかったレティシアであったが、日を重ねる内に少しだけではあるが慣れてきた様子であった。


 そして、今日も何時もと同じようにレティシアの髪の毛に触れていたジルベルトは、彼女の髪の毛からほのかに薫る香りに気が付く。


「この香り……

 使ってくれたのだね

 先日、君へ贈った香油の香りがする」


「あ、うん

 瓶の蓋を開けた時に、とても良い香りがお部屋の中にも広がって、朝から幸せな気持ちになったわ

 素敵な香油をありがとう、ジル」


「たまたま、隣国の外商が来ていた時に立ち合ってね

 レティに似合いそうな香りだと思ったのだよ」


「特別な日でもないのに、こんなに素敵なものを頂いても良かったのかしら……」


「先日、私に君が贈ってくれた、君が自ら刺した刺繍の入った手巾(ハンカチ)の、お返しの一つだと思ってくれたらいいよ

 こんな香油ぐらいのお礼だけで、済ますつもりはないのだけれどね」


 ジルベルトが言う手巾とは、以前にジルベルトの象徴とされているモチーフの鷹を、レティシア自らで刺した刺繍の入った手巾の事である。いつも自分の事を優しく見守り助けてくれるジルベルトへ、お礼としてレティシアが彼へ初めて贈った手作りの贈り物だ。

 その手巾の贈り物をとても喜んだジルベルトは、お返しにと隣国の香油を彼女へ贈ったのだ。


「あの手巾は私からのお礼のつもりだったから、お返しなんていらなかったのに……

 それでも、本当に嬉しかったわ

 ありがとう

 だけど、これ以上は貰えないからこれでお仕舞いにしてね?」


「あの手巾のお礼としては、全く釣り合いがとれていないのだけどな……」


「私は、ジルが喜んでくれた事が何よりも嬉しかったから

 それでいいの」



 ジルベルトは、上目遣いでそんな言葉を言うレティシアが愛しくて堪らない気持ちになる。

 そして、触れていた彼女の髪の毛を自分の口元に近付け口付けを落とす時、またふわりと香油の香りが薫ってきた。


「私の選んだ香りを君が纏ってくれているなんて、堪らないな……」


「え?」


「何でもないよ」


(君の全てを、自分の色で染めたいと思う気持ち……

 その気持ちは、日に日に増していくばかりだ……

 そんな事は、まだ無垢な君には伝えられないけれどね)


 そんな事を考えながら、朝の甘い一時をレティシアと過ごす事はジルベルトにとっては、欠かせない時間となっていた。



ここまで、読んで頂きありがとうございます!

これからも、どうぞ宜しくお願い致します!

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