第18話 異変
突然聴こえた鈴の音と、僅かな魔力に顔色を変えたアルフレッドは、その場に立ち上がる。
(何だ? 今、感じた魔力は?
それに、聞き慣れない鈴の音……
何かが、おかしい……)
アルフレッドが突然警戒するような表情で、周囲を見渡す様子に、レティシアは思わず愛称で声を掛けてしまった。
「アル、どうしたの……?」
「いや……それは……」
未だに警戒心を解かないアルフレッドの様子に、マリアベルやカーティスも訝しげな表情を向ける。
レティシアは、そんなアルフレッドへ近付こうと席を立とうとした時、その異変は起こった。
「アル? 何かあったの?
…………っ!?」
レティシアの身体がふわりと揺らぎ、足にまるで力が入らなかったのだ。
(え……? 何……?
ふわふわして、上手く立てない……
それに……
視界が───)
「レティっっ!!?」
レティシアの異変に気が付いたアルフレッドは、その場で意識を失い倒れ、地面に身体を打ち付ける寸前のレティシアの身体を抱き止めた。
レティシアが突然倒れた事に、マリアベルは悲鳴を上げ、カーティスも抱き止めようと咄嗟に駆け寄る。
「きゃぁぁぁ!!」
「レティシア嬢!!」
「レティシアに触るな!!」
駆け寄り、レティシアへ触れようとしたカーティスを、アルフレッドは声を荒げて制止した。
普段のアルフレッドからは、感じられないような鋭い視線に、カーティスは一歩退く。
アルフレッドは、意識のないレティシアを抱き上げると、自分の護衛や周囲にいた侍従や侍女へ指示をした。
「僅かに城内に異変を感じた
警備体勢を再確認し、何か少しでも変わった事があったら知らせろ!」
「はい!!」
アルフレッドは、次にマリアベルとカーティスへ顔を向ける。
「マリアベル王女、イェドヴァル卿、茶会の途中ですが、何やら城内に異変を感じた事と、レティシアの異変に、何もない事は前提ではありますが、念のため警備を増やします
このまま、自室へ戻って待機して頂けますか?
すぐ、確認をとった後に詳細をご連絡します
後、俺自身もここにあるお茶と茶菓子を口にしていたので、何もないとは思いますが、身体に少しでも変調を感じたらすぐ申し出てください
貴女方、貴賓を招いている時に、このような不安を与えるような事態になり、先に自分から謝罪します」
「不測の事態は起こる事もありますもの、それはわたくしは何も思いませんわ
ですが、レティシアさんは大丈夫ですの?」
「………これから、侍医へみせますので、ご心配なさらないでください
では、必ず護衛と共に自室へ
お前達は、マリアベル王女と、イェドヴァル卿をしっかり警護し、貴賓室内の異変もないか確認を怠るな」
「はい! 畏まりました」
アルフレッドは指示をすると、足を城へ向けた。
早足に歩きながらも、側にいる侍従へ確認をしながら指示をしていく。
「直ぐに、侍医を呼べ
父上への報告と………
後、兄上やアラン、宰相も、今何処にいる?」
「お三方共、本日は公務に出られており、城へはまだ帰っておられません」
「………そうか、ではハーヴィル家の屋敷へ連絡を入れろ
公爵夫人に早めに連絡をしてくれ」
「はい!」
(何なんだ……何が起こっている?
それに、こんな事があったときに、たまたま兄上もアランや宰相までも居ないとか、そんな偶然があるのか?
事を起こす為に、こういう機会を狙っていたようにも勘ぐってしまう
今は、マリアベル王女も滞在しているというのに、外交問題にもなりかねない事態だ……)
アルフレッドは、抱き上げているレティシアへ視線を向ける。
顔色はいつもよりも悪いようにも思えるが、腕に感じる彼女の鼓動や熱も変化がないようにも思え、苦しそうな様子も見られなかった。
だが、いつまでも目を開けないレティシアに不安が募っていく。
その後、侍医の診察が終わり、侍医からレティシアの状態を彼女の母親も到着していなかったので、アルフレッドが聞くことになった。
「寝ているだけだと?」
「はい、脈拍や呼吸音も正常で、顔色やその他の身体の状態から見ても、異変を感じるような所見は見当たりません
殿下からの、ハーヴィル令嬢が倒れた時の状況を聞く限り、恐らく、強力な睡眠薬か魔術の類いをかけられたのではないかと……」
「睡眠薬か魔術だと?
だが、あの場にあったレティシアが口にしていたものからは、何も薬物反応は出なかったと聞いた
後は魔術……俺が感じたあの僅かな魔術が、レティシアをこんなようにしたという事なのか?
そんな事……あり得るのか?
幾つか強制的に眠らせる魔術はしっているが、そのどれにも当てはまらない……クソッ……
で? レティシアは大丈夫なのか?
それに、何時目を覚ます?」
「薬物であれば、それを摂取した量等から割り出すことも可能でありますが、魔術になると……」
侍医の言葉に、ゾワッとアルフレッドは強い恐怖感を感じた。
それは、このままレティシアが、目を覚まさない可能性もあり得るという言葉であったからだ。
「殿下、少し様子を見ていきましょう」
「…………わかった
下がっていい……」
アルフレッドは、横になるレティシアへ視線を一度向けると、部屋に控えていた女官へ伝えた。
「今の侍医の話しの内容を、父上と母上へ報告してくれ
それに、そろそろ兄上達も帰城する頃だろう?」
「はい、畏まりました」
女官が部屋を退室し、部屋の中には一時的だが、アルフレッドとレティシアの二人きりとなった。
アルフレッドは、レティシアの頬に自分の手のひらをあてると、優しく撫でる。
滑らかで、しっとりとした肌質のレティシアの頬に触れたアルフレッドは、何とも言えない気持ちになっていった。
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