第16話 変わらないやり取り
ジルベルトの執務室では無表情のアランが、レティシアとジルベルトの前で、言い逃れは許さないというような雰囲気を纏いながら立っていた。
「で?
この状況の理由は、聞かせて貰えるんだよな?」
「理由?
ちょっとした、お互いの行き違いがあっただけだよ」
「行き違いだけっていう答えで、俺が納得するとでも思うか?
お前は、王女殿下の茶会を途中退席した事に加え、執務もたまっているっていうのに、四半刻だといったのにも関わらず、なかなか執務室に籠ったまま、扉を開けようとしない
さらに、レティシアがまだ王妃教育講義の途中だというのにも関わらず、一方的に自分が時間を貰うと、講師へ通達したらしいじゃないか?
後処理に回る、俺達の苦労をわかっているのか?」
「そんな事よりも、もっと重大で後回しに出来ない事が起こったのだから、その代償に比べたら、そんな事は比べ物にすらならないよ」
「そんな事だと?
以前から言っているだろう!?
お前はレティシアの事になると、周りが見えなくなりすぎるんだ!!
もっと、冷静に状況を把握しろよ!」
「レティシアよりも、大切な事なんて私にはないよ」
「お前な~~~
一国の王太子だという奴の、言っていい言葉じゃないだろう!?」
そんな、ジルベルトとアランのやり取りに、オロオロとしていたレティシアは口を開く。
「お兄様ごめんなさい!
全部、私が悪いの!
私が、感情的になったから、それをジルが全てを後回しにして受け止めてくれたの!
だから、ジルは悪くないから」
ジルベルトは、そのようにアランへ伝えるレティシアを見詰めると、彼女の頭を優しく撫でる。
「レティ、今回の原因は私にあるのだから、君は謝らなくていいのだよ
君の事よりも、最優先しなくてはいけないものなんて、ないのだからね」
「ジ、ジル……」
「ったく……
まぁ、今回は大目に見てやる
王女殿下からも、苦情は今のところ入ってはいないしな」
「私からも、王女殿下へ再度、謝罪した方がいいかしら?」
ジルベルトは、レティシアの頭を撫で続けながら首を横に振った。
「途中退席をしたのは私だから、君は謝罪しなくて大丈夫
それに、今後君へ王女の茶会への招待があっても、いつものように振る舞えばいいから」
「うん……わかった」
コクリと頷いたレティシアの額に、ジルベルトは口付けを落とす。
その様子に、アランは苛立ちながら口を開いた。
「俺の前で、堂々とそういうことをレティシアにしないでくれないか?
イチャついている暇があるなら、さっさと、この溜まっている執務を片付けるぞ」
ジルベルトの執務机に置かれた書類の束に、レティシアは不安気な表情を浮かべる。
「最近、本当に今まで以上に執務や公務が多いのね?」
レティシアの呟きに、ジルベルトは答えた。
「そうだね
いつもの執務に加えて、今はシャルテ王国からマリアベル王女が来訪しているから、彼女と彼女が連れて来た従者達への待遇面への指示や警備体勢等は、私に一任されているからね
その他にも、小さな案件が立て続けに起こっているし……
まぁ、こういう時もあるよ
今はまだ、学園へ通っているから、これでもその辺を考えてもらっている量ではあるけどね
卒業したら、もっと増えるのだと思うよ
アランも、卒業後も宜しく頼むよ」
「まだ、任命もされていないのに、勝手に頼んでいいのか?」
「父上も、私の執務の補佐はアランしかいないと思っているから、大丈夫
でなければ、卒業前からこうしてアランに手伝ってもらえないよ」
レティシアは、複雑な表情をジルベルトへ向ける。
「レティ? どうしたのだい?」
「こんなに大変なのに、私の我が儘でジルの事を振り回してごめんなさい……」
「レティ、またさっきの会話に戻るのかな?
言っただろう?
私は、君の本音を聞きたくて仕方がないのだから、振り回されてもいないし、大変だとも思ってない
寧ろ、君の本音を聞けて安心したのだよ
だから、そんな顔をしない
でないと、アランの前で同じ癒し方をするよ」
「っ!? それは……」
ジルベルトのその言葉に、アランはピクリと顔を揺らした。
「癒し方って何だ?」
「えっ!? お、お兄様!?」
「癒し方は、癒し方だよ
不安を感じていた、レティの事を私が癒していただけだから」
ジルベルトのアランへの返しに、レティシアはまた狼狽える。
「ジ、ジルっ!!」
「俺は言っただろう!?
まだ、お前とレティシアは婚約関係であって、節度を持てと!!」
「節度を持った行動しかしていないけど?
ねぇ? レティ?」
「へっ!?
な……、しっ、知らないっ!!」
「ほら、アランのせいでレティが怒ってしまっただろう?」
「俺のせいでなくて、お前のせいの間違いだろう!?」
レティシアは、ジルベルトとアランの言い合いに恥ずかしさで一杯になるが、いつもと変わらないやり取りに安堵感を深く感じた。
こんな自分の事を受け止めてくれる、ジルベルトには感謝しかないと思う。
ジルベルトが傍に居てくれれば、沢山の困難も乗り越えていく事も、頑張る事も出来ると強く思った。
自分が不安な感情を溢してしまったことで、この日ジルベルトと気持ちを再確認でき、二人の間にある絆を改めて強く信じる事が出来たのだ。
だからかレティシアは、今、自分達の周りにある違和感にあまり気が付いていなかったのかもしれない。
この幸せを脅かす、足音が近付いてきている事を──
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