第14話 知らずにいた茶会
マリアベルが王城に特定の人物を呼び、小さな茶会を催している事は、あまり公には知られていながった。その事をレティシアが知る事になったのは、偶然だったのか、それとも敢えて知るように仕向けられたのかはわからないが、その場面をレティシアは目撃してしまい知る事となる。
レティシアの王妃教育の日、薔薇が綺麗に咲き誇る庭園が彼女の目に入った時に、そこに設置されたテーブルセットでマリアベル達が歓談している姿があった。
しかし、そこに居るのがその人物でなければ、特に気にはしなかっただろう。
だがレティシアが、何とも言えない感情を持つ人物達がおり、さらにそのように、自分が知らない所でその人物達が集まっている事を、レティシアはたまたま目撃した事で知ってしまった。
テーブルには、マリアベル、カーティスの他に、クララがいた。その人物達だけなら、親しくなったのだなと、思うだけだっただろう。
だが、そこにはジルベルトも同席していたのだ。
ジルベルトが自ら進んで、その席にいる訳ではないとは思うが、レティシアの胸の中は何とも複雑な感情になった。
レティシアは、この頻繁に感じるジルベルトを独占したいというような感情があらわれる事が、いつも嫌で苦しく感じていた。
そしてその感情は、最近はジルベルトがマリアベルやクララと共にいる姿を見かける度に感じられ、そう感じる自分に対して嫌悪感を持つという事の繰り返しであった。
その様子をぼんやりと眺めていると、先にレティシアに気が付いたのはカーティスであった。
カーティスはその場を離れると、急ぎ足でレティシアの元へ近付き声を掛ける。
「レティシア嬢、奇遇だね、君も今日、登城しているなんて思わなかったよ
あちらで、マリア達とお茶をしていたんだ
マリアも、君とも一緒に楽しみたいと思うから、こちらへおいでよ」
「カーティス様、でも、私……」
カーティスは、レティシアの返事を待たずに、彼女の背に手を回すとマリアベル達のいるテーブルへ彼女を連れて行った。
テーブルまで連れて来られたレティシアは、マリアベルへ挨拶をしようと膝を折ろうとした時、カーティスから奪うようにジルベルトが彼女の腰を抱き寄せた。
「レティ、講義は終ったのか?」
「あ、はい……、今は休憩時間で……」
「講義って、何の講義ですの?」
マリアベルの声に、レティシアは直ぐ姿勢を正し、王女へ淑女の礼を向ける。
「王女殿下、ご挨拶が遅れ失礼致しました」
「レティシアさん、そんな堅苦しくしなくていいのよ?
今は、カートが急に貴女を連れて来るって言って、無理矢理連れてきたのだもの
でも、貴女も登城されているなら、声を掛けたら良かったわね
今、ジルベルト様やクララさんと一緒に、お茶を楽しみながらお話を楽していたのよ
わたくし、レティシアさんとも一緒にお話したいわ」
「あの……、折角お誘いして頂いたのですが……
これから、講義の続きがあって……
大変申し訳ないのですが……」
「講義って、何のかしら?」
マリアベルは首を傾げると、ジルベルトが代わりに答えた。
「今日は、レティシアの王妃教育が王城であるので、その為彼女は登城しているのです」
「王妃教育……そうでしたの
ジルベルト様との婚約が、今年正式にお決まりになったのですものね
それなのに、お時間を取らせてしまって、ごめんなさいね」
「いいえ、とんでもないです
折角のお誘いを断る非礼をおゆるしください
あの……、御前失礼いたします」
「レティ、私も一緒に行くよ」
ジルベルトのその言葉に、レティシアはマリアベルへ頭を下げたまま口を開いた。
「いえ……
殿下は、王女殿下とのお時間をお楽しみください
わたくしは、一人で大丈夫です」
「レティ?」
レティシアは顔を上げると、カーティスとクララにも言葉を続けた。
「カーティス様、クララ様
殿下や王女殿下とのお時間をお邪魔してしまい、申し訳ありませんでした
わたくしは、これで失礼致します」
そういうと、レティシアは踵を返した。
レティシアは足を進める度、自分の心の中にモヤモヤが溢れていくことがわかった。
(なんて、可愛げのない言い方を、ジルへしてしまったのだろう……
だけど、あの場に少しでも長くは居たくなかった)
回廊を曲がり、庭園が見えなくなった時、後ろから急に腕を取られてレティシアはよろける。
その時、ふわりと香ってきたのは自分が一番好きな香りであった。
「レティ、待って!」
倒れかけたレティシアを抱き止めたのは、ジルベルトであった。
「あの場に居たのは、先程急にマリアベル王女から招かれて、断れなかったんだ」
ジルベルトは、レティシアが何かを誤解していると思ったのか、状況を説明する。
その事に、レティシアの心の中のモヤモヤはより濃くなっていき、何時ものように笑顔でジルベルトへ言葉を返せない。
「……………」
「レティ?
君に黙って会っていただとか、そんなつもりはないから
だけど、君に知らせずにごめんね
レティ、だから──」
「理解しておりますので、こんな風に、追い掛けてくるなどせず、王女殿下とのお時間を優先させてください」
「…………」
レティシアの言葉に、ジルベルトはピクリと表情を揺らす。
そして、彼は彼女を抱き寄せたまま足を進め、自分の護衛に指示を出した。
「レティシアの王妃教育の講師に、私が少し時間を貰い、遅れると伝えてこい」
「畏まりました」
「で、殿下っ!?
何を……
どちらに、行かれるのですか!?」
突然の事に狼狽えるレティシアに、何も答えずジルベルトは彼女を自分の執務室へ連れて行った。
突然、レティシアを連れてきたジルベルトに、彼の執務の補佐をする為、執務室の中にいたアランは驚いた表情をする。
「何があった?
お前は、今マリアベル王女殿下から招待を受けていたんじゃないのか?
レティシアも、この時間はまだ王妃教育の講義を受けているはずだろ?」
「……レティシアと話をしたい
少し、二人にしてくれないか?」
「……………」
ジルベルトの何時もと違う様子と、何も言葉を発する事のないレティシアに、何があったのか何となく察したアランは、ため息を一つ吐いた。
「四半刻だ
それ以上は難しいからな」
「ああ」
執務室に二人きりになったレティシアとジルベルトは、しばらく何も話さず、部屋には時計の音が響く。
レティシアは、この空気に耐えきれなく、先に口を開いた。
「殿下、王女殿下のもとへお戻りください
わたくしは、講義がまだ残っておりますので、御前失礼致します」
レティシア自身、自分の言葉に棘があるという事はわかっていたが、このような言葉しか出てこなかった。
そんな自分が、物凄く嫌であったが、この場にジルベルトと二人で居る事にも堪えきれず、立ち上がりその場から離れようとする。
そんな彼女の腕をジルベルトは掴み、その場に彼女を留めた。
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