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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

11両目

作者: carenda

「小坂さん、この掲示板サイトの怪談なんてどう? 近所も近所、時田駅の怪談だって」

「そ、そうだね羽田乃くん。い、いいんじゃないかな」


新聞部の部室に2人の男女がいた。

背の高いメガネの男子が羽田乃、小柄な茶髪の女子が小坂だ。

小坂がおどおどしているのは性格が原因というよりも、好きな男と2人きりなことが原因だと誰が見てもわかる。分からないのは怪談大好き羽田乃くらいなものだ。


「零時すぎの終電を逃した人が乗った電車が、メイエキとかいう謎の駅にたどり着いて、そこを降りると冥界に繋がってたんだって! 面白そうじゃないか、小坂さん!」

そんなのは9割方、終電後に電車が通ったことから派生した作り話だろうに。しかし小坂は健気にうなずく。

「い、いいね面白そー」

どう聞いても面白いものを見た感情が声に乗ってない。しかし小坂の声に乗った怯えの感情は、羽田乃には届かなかった。


「どうやらその人の話だと、冥界の中で亡者に襲われたけど、偶然持っていた桃の缶詰を投げたら追い払えたそうだよ。それから色々探索した結果、お守りの中に入っていた交通安全の札を通すと改札が開いて、生者方面行の電車に乗り換えて帰ってこられたんだってさ!」

交通安全のお守りはともかく、何で桃缶持ってるんだ。何で怪物に桃缶を投げる選択肢を選べるんだ。


「ってことで今月号に載せる話題と、僕の霊的好奇心のために今日早速時田駅で0時集合!」

「わか、わかったよ!」

「各々で準備はよろしく!」

しょうがない2人だ。果たしてこの2人に恋愛的な意味で進展がある日は来るのだろうか。


◇◆


0時ごろ、スーツケースまで持った羽田乃と、軽装の小坂が時田駅で落ち合う。

「は、羽田乃くん! いろいろ持ってきたんだね。私は桃缶とお守りくらいしかもってきてないよ」

「まあね。僕はまだ怪現象にはあったことないけど、これくらい用意しないと怪現象から生きて帰れないだろうし。時田駅の3番ホームにある、駅員の巡回の死角で待つよ」

「す、すごいね、羽田乃くんは」

ほどなくして終電が来たが、2人とももちろん乗らない。


終電が通り過ぎたあと、いくつか電車が通った。

「こ、これがメイエキ行きの電車!?」

「いや、違うよ小坂さん。これは多分回送だね。明日の始発とかで使う電車をスタート位置まで移送してるだけ。先は長いし、お互いに仮眠取りながら見てよっか」

「う、うんわかった」

そんな声があったが、眠くなってしまいそれ以降は聞いていなかった。


◇◆


目が覚めた俺の耳に声が届く。

「残念だよ。丁度始発が来たし、これ乗って家に帰ろうか、小坂さん」

「そ、そうだね。今日は残念だったね」

残念だと言う割に、小坂の声は嬉しそうに感じた。もしや、羽田乃が仮眠取ってる間に何かしたのかな?


始発電車に乗って、最初に違和感を覚えたのは小坂だった。

「ねえ羽田乃くん、おかしくない? この電車は始発でも結構人乗るはずなのに」

ーー当列車をご利用いただきまして、誠にありがとうございます

車内アナウンスが流れる。

ーー当列車は、5時25分発、大名行きです

ーーなお、11両目をご利用のお客様は何処へも行きませんのでご注意下さい

「さ、さっきいたホームの場所って、確か」

「やったぞ小坂! 怪現象だ!」

怯え声の小坂とは対照的に、羽田乃は喜色満面といった声だった。


◇◆


「と、とにかく10両目にってあれ!? 開かない!」

小坂は連結部のドアを開けようとするが開かない。

「なるほど、窓も乗車ドアも開かない、と」

羽田乃は楽しそうに車内を調べ上げる。


「た、楽しそうにしてる場合じゃないよ羽田乃くん!? ど、どうしよう!」

「正統派な怪現象なら、どっかに手がかりがあるはず。探してみようよ小坂さん」

「う、うん。それしかないよね」

気を取り直した2人で1時間ほど車内を調べまわるが、どうやら成果は出ないようだった。


◇◆


「空き巣用の窓開けは駄目、バーナーで焼き切るのも無理、っと。楽しくなってきた」

羽田乃お前何やってんの!?


しかし、何をやっても出られないこの限界状況に、1人が折れてしまった。

「も、もう嫌だよう、帰りたいよ」

ついに小坂が泣き出してしまった。


とたん羽田乃は急にうなだれ、俺を呼び出すためのボタンを押してぶつぶつと語り出した。

「存在しない11両目に乗った以上、恐らく時空が歪んでる、それも乗るという行為を選んだときに歪んだと考えられる。だから11両目に乗った今は、駅でない場所にいるんだろう」

羽田乃は真剣な声になって続ける。


「となると行き先は存在しない11両目に関係する場所。確か半年前にお役御免になって廃棄処分が決まった電車が山奥の車庫にあったはず。あと6年前に廃線になった駅に2つ。それぞれ住所は丸市御門町伐志学45、丸市牛角村1-268、天町六角……」


そのとたん彼らの居場所が分かった。これは御門町の廃棄電車で間違いない。そう思った矢先、

「もう終わりなんだぁ!」

小坂の大声が響いた。


◇◆


小坂が大声を皮切りに、感情を吐露していく。

「もう人生終わっちゃうから言う! 私は羽田乃くんが好き! 本当は怪談なんて怖いだけだし怪現象なんてどうでも良かった! ただ羽田乃くんと一緒にいるための口実だったの!」

「どうしたの小坂さん!? まさかこれも怪現象!?」

「違う! これは本当の私の気持ち!」

こいつらの仲なんとか進展しないかなと思ってたが、とんでもない進展があったよ!


「そ、そうだったのか……しかし小坂さん」

「もうこうなったら実力行使だ!」

ドサッと何かが倒れこんだ音がする。


……少し躊躇したけど、助けないわけにはいかないよな。

バイクに乗り、俺、寺沢は廃棄電車のある御門町へ向かった。


◇◆


「破ぁ!」

1時間ほどバイクを飛ばしてやっと電車の前に着いた俺は窓を割って中に入る。

しかし、目の前には小坂に覆いかぶさられた羽田乃がいた。車内には桃の香りが漂っていた。

間に合わなかった、のか。


◇◆


それから1か月後、廃棄電車の前で、覚悟を決めた俺は羽田乃に話しかけた。

「おう羽田乃、今日も怪談探索か?」

「寺沢か。いや、今日は奈々の好きな場所に行く日」

楽しそうに羽田乃が答える。


「小坂のこと、もう名前で呼ぶくらい進展したのか?」

羽田乃が頭を掻いて答える。

「まあね。これまで奈々が好きなこと我慢して俺の怪談趣味について来てくれてたってわかったら、凄い嬉しくて、あと申し訳なくてさ。これからは奈々の趣味に付き合おうと思ってさ」


「……そうか。それで、今日は何処行くんだ?」

「今日は城廻りに付き合うことになってさ。城が好きなんて渋いけどいい趣味だよなぁ。付き合うまで城なんて行ったことなかったから新鮮な感じだよ」


そうか、じゃあ

「小坂と付き合ってからどの城に行った?」

「どうしたの寺沢、顔怖いぞ。おれの、行った城は、あれ? 何処いったんだっけ?」


「……目を覚ませ羽田乃。いや、違うか」

俺の言葉に得心がいったようで、羽田乃がうなずく。

「なるほど、ありがとう寺沢。俺、地縛霊になってたんだな」

少し笑って、羽田乃はかき消えた。


◇◆


彼らの死体の第1発見者となった俺は念入りに話を聞かれた。


新聞部で2人が話をした後、同じく新聞部の俺は羽田乃に盗聴器とGPSの受信機をいざというときに使ってほしいと託された。俺は出歯亀精神でそれを使っておりただごとでない状況を把握した。GPSはなぜか反応がなかったが、羽田乃が語りだした途端起動し居場所を探ることができた。


この3つのことは、嘘をついてもすぐ矛盾をついてくる優秀な刑事に問い詰められ、自白することになった。相手も了解の上とはいえ、盗聴していたことについてこってり絞られた俺は、正直に怪談の顛末を話した。


一笑に付されるか、精神鑑定に掛けられるかと覚悟したが、刑事は真剣に聞き、考え込んでいた。その刑事が言うことには、羽田乃が残していたICレコーダー内に残された会話と、俺の状況説明は一致していたそうだ。


また、彼らの死体は腐っておらず、傷一つついてないのに、ICレコーダーの記録から、彼らは半年間の間閉じ込められていたと想定されるとのことだ。こんな現象を引き起こす方法が考えつかないことから、彼らの死は度胸試しに忍び込んだ電車が開かなくなったことによる事故として処理されたとのことだ。


素人判断になるが、時空が歪んでいた、と言うのがこの現象の答えだろう。なんで歪んだかなんて聞くなよ。俺に分かりっこない。


そんな経験をした俺だから言うが、用もないのに夜の駅には行っちゃいけない。駅の怪談は星の数ほどあるんだ。怪談の対策を持って行っても、別の怪談と出くわすなんてことは、あってもおかしくないんだから。


初投稿です。

2桁に行ったpv数を見てニヤニヤしてます。

評価貰えたら泣いて喜びます。

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